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Battle of Jutland 5(1916年6月6日)

戦闘シーンはありません。



1916年6月6日


藤伊中佐、角田中尉、宇垣纏海軍少尉は現在、駐英日本大使館にいた。


「まさか、扶桑がね〜。」


「はい、自分もビックリです。」


「だよね、角田中尉。はぁ〜。ドイツ艦隊と戦闘する前に潜水艦の雷撃で大破かよ。」


藤伊は手に持っていた書類を見ながら言った。第一派遣艦隊の旗艦戦艦扶桑は、ドイツ艦隊との戦闘海域に到着する前にドイツ海軍の潜水艦に雷撃された。それにより、大破して戦闘に参加せず英国海軍基地に帰還していた。


藤伊もドイツ海軍の潜水艦、通称Uボートの脅威は知っていたから今回の件が不幸だったと思っていた。土屋、鈴木参謀長も藤伊と同じ意見だった。


此方が、残念だったね、と思って同情していたが、第一派遣艦隊の上層部のその後の対応は最悪だった。戦果を上げることができなかったから、現在無傷の第二派遣艦隊所属の巡洋戦艦金剛、比叡、榛名を貸せ、と言って来たからだ。


長官の土屋が、丁重にお断りしたが、第二派遣艦隊士官たちからの第一派遣艦隊上層部への風当たりは強くなっていった。


「土屋長官が断ったら、本国海軍からの要請かよ。如何でもいいことだけは、やる事が早いな。でも、俺はユトランド沖海戦の日本海軍宛の資料の作成か。」


「藤伊中佐は佐官だからいいじゃないですか。部下に任せれば何もしなくていいでしょ。自分は、大破した扶桑の修理関係の事務を鈴木参謀長から要請されましたから........。」


「英国海軍のトーマス少佐と仲良くなったからだろう。鈴木参謀長に認められてよかったな!」


【これで、参謀長絡みの面倒ごとは全て角田に押し付けれる!!!】


藤伊はニコニコしていた。


「わかりました。最低限のことだけやります。」


角田はため息をつきながら言った。もう、どうにもならないと諦めた口調だった。


「藤伊中佐、なぜ、私をお呼びになったのですか?」


今まで沈黙を保っていた宇垣が聞いた。宇垣纏海軍少尉は山本五十六が連合艦隊司令長官時代に連合艦隊参謀長であった。彼は、第二次世界大戦中の回想録を残している。


「宇垣少尉は、俺と一緒に欧州の戦い資料の作成をしてもらう。」


「ユトランド沖海戦の様な海戦はもうないとお考えなのですか?」


宇垣は上官である藤伊を一瞬睨んだ。


「おいおい、宇垣少尉。藤伊中佐を睨んでも何にもならんぞ。」


角田は、宇垣がいつも様に上官を睨みつけた事に呆れていた。


「そうですかな。藤伊中佐については、本国にいた時からあまりいい噂を聞いたことがないですけど。」


宇垣はそう言いながら藤伊を見た。


「宇垣少尉の好感度をアップしないと色々面倒くさいからなぁ。宇垣少尉が、海軍内部でも自由に動ける様に手配しておくよ。」


「は?!言っている意味が........。」


宇垣はポカーンとしていた。


「要は、困ったことがあったら藤伊中佐に言えってことだよ。なんでも、解決してくれるぞ!でも、色々大変だけどね........。」


角田は、過去の体験を思い出して苦笑いしていた。


「まあ、そういう事!では、解散!!」


藤伊は、角田と宇垣を残してささっと大使館から出て行ってしまった。









『こんな結末になるとはな。』


大英帝国の事実上最高指導者であるハーバード・ヘンリー・アキナスは、報告に来た海軍将校達を睨みつけて言った。


ハーバード・ヘンリー・アキナスは、第一次世界大戦初期のイギリス挙国一致内閣総理大臣である。


ユトランド沖海戦は、大英帝国から見ると戦略的勝利であって、戦術的敗北だった。戦略的戦術的勝利を収めたのは、大日本帝国海軍欧州第二派遣艦隊だけだった。


艦隊の損害は、ほぼゼロに等しく、敵巡洋戦艦2隻を葬ったからだ。まあ、イギリス政府や海軍だけが知っていれば、手持ちに使いやすい強力な駒が増えただけであった。


しかし、ユトランド沖海戦の情報をマスコミが、とても正確に知っていた。メディアは、海戦の内容を国民に知らせてしまった。


今日の朝刊の表紙にはデカデカと《東洋の新たなネルソン提督現れる!》記載されてあった。


『で、この報告書に間違いはないのだな』


外務大臣が、皮肉の言葉を海軍将校達に浴びせた。イギリス外務省としては、頭の抱えたくなる報告内容だった。戦後、日本が、大英帝国に譲歩しようとしなくなる可能性が発生したからだ。


外務省としては、イギリス艦隊に戦果を挙げもらいたかった。戦後もイギリスの優位である同盟関係を維持したかった。


『だが、マツモトの艦隊は壊滅状態らしいな。』


『そうですね。首相、マツモトの艦隊ことを考えれば、我が国の優位な同盟関係が維持できるかもしれません。』


『先ほどから聞いていれば、海軍の批判ばかりですね。』


太々しい態度をとっているウィストン・チャーチル海軍大臣が言った。


ウィストン・チャーチルは、後々第二次世界大戦中のイギリス挙国一致内閣総理大臣である。ナチスドイツに対して屈指なかったことでも有名だ。


彼は、戦場を知らない人物がさも当然のように軍部を批判することが耐えられなかった。チャーチルは、戦場を知っていた。


史実ならチャーチルは、この場にいない。何かしていなければ落ち着かない彼は、陸軍少佐として西部戦線に向かった。まあ、部隊が壊滅状態に陥り、責任をとらされ、左遷されてしまう。


今回は、海軍大臣という肩書きで日本艦隊を視察していた。イギリス政府の意向で、作戦や行動が決定するイギリス海軍と違い、独自の判断で行動できる日本艦隊の上層部と親しくなろうしていた。


主戦的でない内閣の方針のため思うように部隊を出撃させることが出来ない。他国の部隊なら、イギリス政府を出撃許可を出すと考えていた。


『海軍の失態では、ないのか?え?』


外務大臣が呆れた口調で言った。


『はー!海軍の失態でないだろう。日本に艦隊の派遣を要請したのは、あんたら外務省だろう?』


『なに!!』


『二人とも落ち着きたまえ。うーむ。では、日本艦隊に乗艦していたトーマス・フィリップ少佐の意見を聞こう。率直に聞く。日本は、今後イギリスの脅威となるか?』


アキナスの声は、枯れていた。

みんなが一斉に会議の隅に座っている若い少佐を見た。


『大戦後の海軍大臣になる人物でしか、判断出来ません。日本海軍は、今まで勢いによって成長してきたと思っています。』


トーマスは、ゆっくり口を開いた。


『少佐の言い様だと大戦後の海軍大臣になる人物は、アドミラル・ツチヤだと予測できるがね。』


外務大臣は、握り締めていたタバコを机に置いた。予想出来れば、今から友好関係を築いていこうと考えたからだ。


『アドミラル・ツチヤは、どんな人物だ?』


アキナス首相が尋ねた。


『部下がやりたいようにやらせる人物です。』


『少佐よ、彼の部下が有能だと思っているのか?』


『はい、首相。上層部に嫌われているが、能力が高い人物達をツチヤは、側に置いています。』


『なるほど、わかった。』


アキナスはそう言って、トーマス少佐を下がらせた。


『海軍大臣。ツチヤの艦隊乗員名簿は、あるか?』


『はい、あります。』


チャーチル海軍大臣は、アキナス首相に第二派遣艦隊の乗員名簿表を渡した。


『うーむ。参謀長は、海軍少将。艦長は、海軍大佐。作戦参謀は、海軍中佐か。これと言って、変わった人物は、いないな。』


『首相。いますよ、変わった人物が。』


『どんな人物だ、海軍大臣?』


『作戦参謀ですよ。』


『作戦参謀は、中佐だが......。』


『中佐だからですよ。そもそも、ツチヤの艦隊には、海軍大将、海軍少将、海軍大佐、海軍中佐が、それぞれ一人ずつしかいない。これは、おかしい。』


『どうおかしい、チャーチル?』


『海軍大将、少将、大佐が一人ずつしかいない艦隊は、偶にある。だが、海軍中佐が一人しかいない大規模な艦隊は、考えられない。』


『人為的なものだと考えているのか?』


『そう考えるのが妥当だろう。巡洋戦艦クラスの艦長が少佐だぞ。ありえない。』


『しかし、少佐と言っても、ハルナやヒエイの艦長は、40代後半だぞ。』


『ただの少佐じゃない。設計関係の少佐だ。奴らは、こちらの技術を学びに来た者だ。』


『海軍内部でも、発言力がある人物と判断できるな、ツチヤは。』


『その通りだ、アキナス。だが、俺が気に食わないことは、このフジイと言う作戦参謀だ。こいつが、ツチヤを裏から支える人物だと考えている。』


『それは、なぜだ?』


『簡単な、理由だ。こいつが中佐だからだ。』


『なるほど。肩書きは、中佐だが、第二派遣艦隊のナンバー4か......。』


『ああ。フジイをナンバー4にするため、艦長達に少佐しか任命しなかったと考えるのが普通だろう。』


『我が国の国民が、歓喜の声で彼を迎えているから、日本でも同じように迎えられるだろう。そうなると、海軍大臣に彼がなることは、間違いない。』


『首相、外務大臣の私としては、ツチヤに接触するより、腹心のフジイに接触することが、簡単に思えます。』


対日政策を行う外務大臣が言った。ここで、意見の一つでもしなければ、海軍の望む方針に決まってしまう。武力ではなく、話し合いで、国際問題解決をするのが外務省である。


まあ、第一次世界大戦の阻止ができなかった外務省の名誉回復のためにも、外務省主導で行いたいのが本音だが......。


『外務省が、いちいち口を出すな。これは、英国海軍と日本海軍の問題だ。』


チャーチル海軍大臣は、さり気なく、海軍主導でことに当たるのが当然のように言い放った。


『違う。英国と日本の問題だ。国家同士の問題だ。海軍の問題ではない。』


それを見過ごさないのが外務大臣である。


『えー。なら、まず、外務大臣の提案を聞こう。』


周りの大臣たちは、呆れ顔でことの成り行きを見ていた。首相のアキナスは、ため息混じりな声で二人を止めた。


『フジイと我が国を簡単に切れない物で結びつけてしまえば、いいのです。結論から言うとイギリス人と結婚させればいいと考えています。』


『中々面白い方法だ。フジイは、貴族でないから、資本家の娘と結婚なら、どこからも文句がこないだろう。』


『はい、首相。これは、一個人の予想ですが、大戦後に多くの貴族たちが、権益を失い、没落していくと思います。その中から選ぶのも有りかと思います。』


『邪魔な、派閥の貴族たちが没落していくだけならいいが.....。話を戻そう。フジイは、大戦後に大佐となるだろう。若い海軍大佐で将来が見込める男なら、勢力が衰えていく貴族達の令嬢であるならば、飛びつくな。』


『問題は、終戦前に結婚されると失敗することです。』


『海軍が、圧力をかけておこう。』


チャーチル海軍大臣は、外務省に借りを作っておきたかった。後々何かと頼みごとをするときに便利だからだ。


チャーチル自身は、日本と同盟しようがしまいが関係なかった。自分のキャリアに傷がつく行為だけは、阻止したいだけであった。


『どうやってやるのだ?』


『なぜ、外務大臣に言う必要がある?フジイが、結婚しないようにただ圧力をかけるだけだ。それだけだ。』


『まあいい。失敗したら、責任を取ってもらう。なあ、海軍大臣よ。』


『そっくりそのまま返すぞ、外務大臣。フジイが、結婚出来なければ貴様らの責任だからな。覚えておけ。』


海軍大臣と外務大臣の2人が睨み合いを始めた。


『......よし!今日の報告会は、ここまで。』


アキナスは、そう言ってさっさと部屋から出て行った。もう、2人の仲介に疲れたからだ。周りの者たちも、睨み合っている2人の大臣を残して出て行った。







第二派遣艦隊長官の土屋大将と参謀長の鈴木少将は、現在第一派遣艦隊が修理中のドックに来ていた。


「えらく酷いやられ方ですね、長官。扶桑の横っ腹にこんなデカイ穴が出来ているなんて信じられません。」


鈴木参謀長が、指差して言って先には、戦艦扶桑があった。艦中央部分の船体に大きな穴が開いていた。魚雷によって開けられたものである。


「駆逐艦が2隻処分されることになるとは......。駆逐艦4隻、防護巡洋艦1隻、戦艦扶桑が航行不能状態に陥ることを誰が、予測できだろうか?」


土屋は、修理担当から渡された資料を見ながら言った。そこには、こう書かれていた。


第一派遣艦隊は、駆逐艦4隻、防護巡洋艦1隻、戦艦1隻が敵潜水艦による攻撃で損傷。英国艦隊は、潜水艦による被害なし。


「長官。英国人の修理担当者が言うには、英国巡洋戦艦の修理を優先させるから、被弾した駆逐艦4隻全てが処分される可能性があるとのことです。」


被弾した日本海軍の駆逐艦を修理するよりも、英国艦隊の巡洋戦艦の戦線復帰が、優先と判断された。


「第二派遣艦隊が護衛し共に離脱した2隻の巡洋戦艦だな。あー、あの艦の乗員たちには、凄く感謝されたなぁー。」


「しかし、なぜ、長官に資料を渡したのでしょうか?第一派遣艦隊の将校たちに渡せばいいのに?」


「たぶん、駆逐艦処分の案を了承しないからだと思う。一応、他国の船だから、許可を貰う必要があるだろう。」


勝手に処分してしまっては、国際問題に発展するかもしれない。松本大将が了承しない以上、彼と同じ海軍大将である土屋に許可を求めたのである。


「そうですね。ところで、長官は、英語が出来るのですか?先ほどから英国人修理関係者からの資料にすぐサインしていますが?」


「一応一通りは出来る。藤伊が、嫌という程教えてきたからね。」


「おお、素晴らしいです。」


「それにしても、松本大将や伏見宮少将はどこで油を売っているのやら......。まあ、面倒ごとは、藤伊に押し付ければ、あいつがなんとかするだろう。」


「ですね。」


土屋と鈴木は、修理中の扶桑を見ながら言った。

更新は、1ヶ月に1回〜2回ペースで行う予定です。

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