Battle of Jutland 4
第一派遣艦隊の戦果報告は、次回にします。
結構、妄想がはいっています。すいません。
1916 年5月31日
第二派遣艦隊と傷ついた英国巡洋戦艦インディカティファブルとクイーン・メリーは、輪型陣形で英国海軍基地を目指している途中であった。戦闘海域から完全に離脱したので艦隊乗員は思い思いに過ごしていた。
旗艦金剛は、輪型陣形の後方にいた。輪側陣形の中心に英国巡洋戦艦2隻を配置されていた。要は、金剛が殿役であった。
駆逐艦たちに護衛されている巡洋戦艦より、護衛されていない金剛に目標を変更させるためだ。
艦隊は、速力10ktで航行していた。
輪型陣形の右側一番外側に配置されている日本海軍樺型駆逐艦の五番艦の柏では、若い水兵二人が甲板で話していた。
「なあ、あそこ見ろよ。海面に棒が垂直に立っているぞ。」
水兵の一人が双眼鏡で海面を見ながら言った。
「ほんとだ!茶柱が立つ時みたいだな。俺たち、これから良いことがあるかもな!」
海面に垂直で棒が浮かんでいるようだった。小枝などのごみが集まっている海面から一本だけ垂直になっていた。
「やけに楽しそうだな、お前達。」
不意に後ろから声を掛けたのは海軍尉官だった。
「あ、南雲忠一大尉。海面に棒が垂直に立っていたんですよ。」
史実では、世界初の空母機動部隊の指揮官となる。彼は駆逐艦柏のクルーである。
「不思議なことがあるのだな。うーん、なにも見えないが…。」
南雲は目を凝らしてじっと見たが何も見えなかった。
「あ!今度は2つも茶柱が立った!」
甲板に出て休憩している若い水兵の一人が双眼鏡で見ながら言った。
「なんだろう。ごみか?ぼ、棒が、伸びたぞ?!な!まさか、Uボートか!!!!!!」
南雲は海面から少しずつだが伸びている棒を潜水艦の潜望鏡だと断定した。そこから彼の行動は早かった。すぐさま駆逐艦の艦橋に突撃して、艦長にこのことを伝えたのだ。その後、艦隊旗艦金剛にも伝えられた。
「樺型駆逐艦の柏がドイツ海軍Uボートを発見しました!!!」
通信員からの連絡だった。
「Uボート…。ああ、潜水艦だったな......。」
【ドイツ海軍の潜水艦の主な任務は通商破壊のはずだが…。攻撃してくることはないと思うけど。ただの監視だといいなぁ。ま、第一次世界大戦中の潜水艦だから、金剛型の脅威ではないな。】
藤伊は、報告を聞いて考えていた。艦隊旗艦金剛の艦橋で一時的に藤伊が指揮を執っていた。土屋長官、鈴木参謀長、吉岡艦長たちは、別室で作戦結果を話し合っていたからだ。
「どうします、藤伊中佐?」
角田は形の質問をした。
「うーん。どうしようかね、角田中尉。」
【なんで、俺に聞くかね〜。さっきまで、自分が金剛の指揮をしていたのに......。】
藤伊は眠たそうな目をしていた。彼としては、角田が勝手に指揮して欲しかった。
「対潜戦闘配備の命令を薦めます。」
「対潜戦闘配備、よろしく。」
「はい。艦隊全艦艇に対潜戦闘配備!」
藤伊の覇気のない声に呆れつつ、角田は、大声で叫んだ。
「全然攻撃してこないなぁ。監視が、任務なのか?」
藤伊は、双眼鏡を覗いていた。
「どうしますか?」
「さっさと、この海域から離脱しよう、角田中尉。海中の潜水艦が、水上艦艇に追いつけるはずがないからね。」
「わかりました。艦隊全艦隊に連絡!速力10ktから速力16ktまで加速!」
角田は通信員に言った。
『帰還ほど、つまらん命令はない。』
『まあまあ、艦長。補給してまた、敵を撃沈させればいいじゃないですか。今の状態で敵が来ても、逃げることしか出来ませんし。』
中尉が、艦長を宥めるように言った。だが、内心中尉は、(帰還ほど嬉しい命令はない)、と思っていた。
事実、ドイツ海軍で戦死率が高いのは、潜水艦クルーであった。中尉は、20数年しか生きていないため死にたくなかったからだ。
『中尉は、気楽でいいな。こっちは、昇進が掛かっているのだぞ。』
艦長は、若い中尉を見た。
『あーあ、海上部隊所属奴ら羨ましい。今頃、英日艦隊とドンパチやっているだろう。潜水艦は、日陰者だから......。』
艦長としては、水上艦艇勤務でこの大戦に挑みたいと思っていた。
『艦長。潜水艦は確かに日陰者かもしれません。でも、潜水艦がなければ、我が祖国は勝利できません。』
『頭では、納得している。だが、心では納得できていないのだ。輝かしい勝利を手にして英雄になりたいと思ってしまうのだよ。』
『昔から、戦争は英雄を生み出しますから。我が国の陸軍に志願した若者たちは、そんな英雄に憧れていますから......。』
『陸軍は、戦争初期に英雄を生み出しまったからな。ヒンデンブルクという名前の英雄をな。』
『あれは、ロシア軍が弱かったからでしょう。ヒンデンブルク将軍も、運のいい男ですね。』
『ロシアが弱いことは、日露戦争で明らかになっただろう。新興国にも負けるくらいだからな。』
『日本ですね。』
『そうだ。彼らを見下す者が、我が軍にも多数いる。だが、私は、どうも彼らを見下す気になれん。』
『げ!ヤバい!!!』
潜望鏡を覗いていた副長が叫んだ。潜水艦の狭い艦内では、ちょっとした叫び声でもよく響いた。
『どうした、副長?』
中尉と話していた艦長が振り向いた。
『だ、だ、大艦隊だ!!!!!…英国か?いや、違う。あれは、......に、日本艦隊だ!!!!!!』
副長は、久しぶり見る大小艦艇合わせて15隻以上の艦隊に焦っていた。他の者たちも副長の様子から情報が偽りでないことはよくわかった。
『おい、副長かわれ。』
艦長は、副長を退かした。
『でも、なぜ日本艦隊が?どうしてここに?』
中尉は、疑問を言った。
『この、進路は、......英国海軍基地か!しかし、情報部からの情報にはなかったが......。』
副長も、落ち着きを取り戻し冷静に考えていた。
『英国と日本では、使用されている暗号が、違うのではないでしょうか。それとも、複雑奇妙な日本語を情報部が、訳せなかったと。』
『面白いな、中尉。アジアの時代遅れ奴らの考えることは、わからんな。』
『はい、副長。自分も同意見です。それに、日本艦隊なら英国艦隊より練度や装備も劣りますから、英国艦隊をライバルとしていた我が海軍の敵では、ありません。』
まるで、中尉は、副長の機嫌を取っているようだった。
『急速潜行だ!!!!!!早くしろ!』
艦長がそう叫んだ直後、何かが水面に着弾する音が艦内に響いた。一回だけでなく、何度も着弾する音が響き続けている。
『艦長、今の音は?』
副長が聞いた。
『日本艦隊だ!奴ら真面な対潜装備がないから、駆逐艦の主砲で攻撃して来やがった!』
『真面な対潜装備があるのでは?ここまで正確な射撃ですし......。』
中尉の顔には、焦りが見えていた。
『4隻の駆逐艦からの砲撃だからだ!面を攻撃している!こちらの大体の位置がばれているな......。』
『距離が7000〜8500は、ありますが......。アジアの者に出来ることでは、ないと思います。英国海軍の艦艇が混ざっているのでは、ないでしょうか?』
『相手を格下に見過ぎだぞ、副長。日本を認めたくないかもしれんが認めろ!貴族なら手本になる行動をしろ!!』
『くっ!私は、貴族だぞ!!!平民出身の貴様に指図される覚えはない!!!』
貴族階級出身の副長は、平民出身の艦長に前から不満を持っていた。周りの目があるから表立っては、対立しないようにしていた。
しかし、副長が誇りに思っているプライドを傷つけられたので怒りが爆発してしまった。
『何を言っているのだ、副長?』
艦長は、呆れ顏だった。
『おい、中尉。こいつを気絶させろ!』
副長は、鋭い視線で中尉を見て怒鳴った。
『副長、冗談はよしてください。』
中尉は、苦笑いしながら言った。
『ほーう、貴様の婚約者がどうなってもいいのか?』
副長は、顎に手をやりながら言った。中尉の顔から笑顔が消えた。
『アホは貴様だ、副長!中尉、気にするな。私がこいつを上官侮辱罪で、牢屋に放り込んでやるから安心しろ。』
『黙れ!平民。』
パーン!!!
副長が放った銃弾が艦長の時を止めた。
『.....おい、聞けお前たち!私に従えば、これからの出世を約束しよう。』
副長は、周りにいるクルー達に告げた。
『雷撃の準備だ!』
『副長、魚雷は、もうありません。先日、使用したのが最後です。本艦は、現在本国に帰還中です。』
魚雷発射担当者が答えた。
『ならば、急速浮上だ!敵に艦首の砲で攻撃する!』
自分に反抗する存在がないことを確かめてから副長は、命令した。この命令に意を唱えようとする者は、誰もいなかった。副長と中尉が拳銃を手に持っていたからだ。
それに、先ほどまで、砲撃が止まっていたことも関係する。浮上しても、近くに敵がいなければ、問題ないと考えていた。
『浮上完了です。』
中尉が言った。
『砲撃の準備をしろ!』
副長が命じた。潜水艦のハッチが開きクルーが砲撃の準備のため外に出た。
『うん⁈何か飛んでくるぞ!!』
潜水艦から外に出た水兵が言った。
バーーン!!!
巡洋戦艦金剛からの砲弾が命中したのであった。
「何か騒がしいな。」
鈴木参謀長が、艦橋に入ってきた。
「これは、鈴木参謀長。どうしましたか?」
藤伊は、営業スマイルで答えた。
「藤伊作戦参謀、敵は潜水艦か?」
「はい。」
「沈めたか?」
「我が国の対潜装備で、潜水艦を沈めることが出来れば、嬉しいですね。」
藤伊は、皮肉を言った。この意味がわからないようであれば、将来、鈴木参謀長を排除しようと考えていた。要は、彼が精神論でしか物事を判断できないと考えれるからだ。
「まあ、うちの対潜装備は、確かに使い物にならん。で、潜水艦を発見した場所はどこだ?」
「艦隊最後尾の本艦の艦尾から距離13000ぐらいです。」
「主砲で届く距離だな。主砲でその場所を攻撃する。」
「は⁉︎」
【え!この人の頭どうかしちゃったの?意味わからんことを当然の様に言うの?一応、俺は、あんたの部下だから逆らえないだけど......!!!】
藤伊は、残念な人を見るような目で見ていた。
「先の海戦のストレスが溜まっているのだよ。」
藤伊の態度から察して、鈴木参謀長は、理由を付け加えた。
「はあ。」
藤伊は、ため息をついた。
「では、準備してくれ。」
鈴木参謀長は、藤伊の態度を気にしず命令した。
「はい、了解です。後部主砲発射準備開始せよ!目標、敵潜水艦発見地点!」
藤伊は、呆れながら命令を出した。
甲板で寛いでいた者達も慌て準備を始めた。そもそも、巡洋戦艦の主砲で潜水艦を攻撃する発想が、一般人にはない。周り者は、鈴木参謀長がおかしな領域に足を突っ込んでいるしか思えなかった。
「後部主砲発射準備完了!目標、敵潜水艦発見地点」
砲術長からの連絡があった。
「よし、撃て。」
「了解です、参謀長。撃ち方始め!!」
藤伊が叫んだ直後、後部主砲から参謀長の気まぐれで決まった目標地点に向けて、砲弾が発射された。
ドン、ドン!!!!!
「当たりますかね?」
「あー、ストレス解消出来た!!」
「は⁉︎」
全く予想もしなかった答えが返ってきたので藤伊は、呆然としていた。
「別に当たらんでもいい。発射音を聞くことが出来たのだからな。発射音を聞くと嫌なことが忘れる!はははははは!!!!」
大声で笑う機嫌がいい参謀長のストレスは解消された。艦橋にいる者達は、凄く冷めた目で鈴木参謀長を見ていた。
「弾着......今!!すごい!!!着弾しました!!!」
見張り員が、興奮しながら報告してきた。
「......運がいいですね、参謀長。」
「............ああ、そうだな、藤伊中佐。」
藤伊と鈴木参謀長は、まさか、命中すると思ってなかったので、驚いて声がすぐに出なかった。
「......先を急ごうか、藤伊中佐。」
「......はい、鈴木参謀長。」
二人は、何となくこの海域から早く離脱したかった。
「いよいよですね、松本長官。」
伏見宮博恭王参謀長が言った。伏見宮博恭王は、元々派遣艦隊の参謀長に指名される人物ではなかった。軍令部勤務になる予定だった。
伏見宮は、皇族という立場を利用して第一派遣艦隊参謀長になった。その為、第二派遣艦隊クルーたちから、強欲参謀長、呼ばれていた。なお、第一派遣艦隊クルーは、伏見宮の息のかかった者が選ばれたので、不満が募らなかった。
「日本海軍ここにあり、と世界に知らしめてやる!土屋に負けてたまるか!!儂が、本当の大日本帝国海軍欧州派遣艦隊の長官だ!」
松本は意気揚々に言った。松本和は、土屋が大嫌いであった。温厚な爺さんのくせに海軍大将であることが気に食わなかった。
そんなに土屋を嫌っている松本も、直接的な対立はしなかった。それは、土屋が海軍人事局長だったからだ。海軍の人事を司る部署の長が敵になることは、自らの出世の道にも影響するからだ。
「そうです!我々が、主力部隊という事を教えてやりましょう!」
伏見宮は、意気揚々と言った。
第一派遣艦隊は、英国海軍大艦隊の右側を単縦陣で航行していた。
海中の悪魔達が第一派遣艦隊を捉えていることに気づいている者は、いなかった。




