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Battle of Jutland 3

更新です。今回は少し長いです。



訂正しました

1916年5月31日


「敵艦隊は巡洋戦艦5隻です!敵艦隊が南東に進路変更!英国艦隊も同方向に進路変更です。」


藤伊は双眼鏡を覗いて言った。


「こちらも南東に進路変更だ!英国艦隊は巡洋戦艦が6隻だな。」


土屋がそう言った。数秒後金剛が南東に進路を変更するために右へ旋回し始めた。


この海戦では最新鋭の金剛型巡洋戦艦に含まれる。そのため先に面舵を終え、南東に進路変更した英国艦隊よりも機動性だけ金剛型巡洋戦艦が勝る艦艇もあった。


前方に英国艦隊巡洋戦艦6隻、後方に日本艦隊巡洋戦艦3隻が単縦陣。ドイツ艦隊巡洋戦艦5隻が単縦陣で並行して共に南へ航行していた。距離は12500m〜15000mまで接近していた。


所謂、“Run to the south "だ。


イギリス艦隊先頭に旗艦ライオン。

英国艦隊司令官はビーティー中将。


ドイツ艦隊先頭に旗艦リュッツオウ。

ドイツ艦隊司令官はヒッパー中将。


「同航戦になったか。通信設備がやられたら、艦隊行動に支障がでるな。通信参謀、もう一度通信機器のチェックをせよ。艦長はこの艦の操舵に注意せよ。」


土屋は窓から見えるドイツ艦隊の砲門がどれだけ日本海軍をロックオンするか考えていた。金剛の砲門が旋回を始めてドイツ艦隊に向けていた。


しかし、敵艦の速度、距離の測定がまだはっきりとわかっていないため砲撃は行っていない。


「敵との距離は14000m。敵最後尾艦は本艦左側を航行中です!あ、英国艦隊が敵艦隊前方の巡洋戦艦に砲撃を始めました!」


見張り員からの報告に艦橋にいるものは英国艦隊を見た瞬間、ドドドーン、という日本海海戦を経験した者のみが聞いたことのある、訓練と違う自分が戦場にいることを確信させる轟音が聞こえた。


【おいおい、こんなところで俺は死にたくないぞ!艦長!ドイツ艦隊になるべく近づけようとするな!】


「艦長、敵艦隊との距離が近すぎます。」


「なーに。大丈夫だ!日本海海戦の時も我が海軍に大きな被害はなかったからだ!中佐よ、少しビビリすぎではないか?」


「臆病風に吹かれているわけではありません。この戦闘で我が海軍の艦艇の被害を少しで減らしたいだけです!」


「沈没しなければ、同盟国の英国が修理してくれるだろう。要は沈まなければいい。適当な理由でビビっていることを隠しても意味がないぞ。ハハハハハハハ!」


周りの者たちも同意見だと笑い始めてしまった。


「だから、同盟国イギリスがそんな簡単に修理を引き受けてくれるはずないでしょうが!二枚舌を得意とする国にこの中の誰が交渉してくれますか?」


【なんとか誤魔化せた!ナイスだ、俺!でも、このにいる軍人達はイギリスがこっちの意見を素直に聞いてくれると本気で思っていたのかな?】


「..............そ、それは........長官が........」


「海軍大将は同盟国将校たちとの打ち合わせで忙しい。儂の代わり部下がやるのが当然だ。」


土屋は・・・(こっちに面倒なことを回そうとするな!)・・・、という顔をしていた。


「長官のおっしゃる通りだ!長官と参謀長の我々は忙しいのだ!佐官たちが行うことが当たり前だ!」


参謀長の鈴木が下手に話しを振られても困るため、上手に逃げたことは、誰の目にも明らかであった。


「イギリスと交渉失敗したら出世できなくなるよなぁ。」


「絶対そうに決まってる。」


「英語が話せる自信がない。ムリ。」


「あっ!俺も自信ない。」


「俺も」


「俺も」


周りの取り巻き連中が好き勝手に話し始めた。


「ここは海軍大佐である艦長にやってもらうことにしませんか?」


「「「「「いいね。」」」」」


【艦長がやれよ!そして失敗しろ!俺が救いの手を差し伸べてやるよ!!!】


藤伊は人の不幸を望んでいた。海軍大佐の艦長の失敗を救済したら自分の好感度アップすると思っていたからだ。


【好感度がアップすれば俺が出世しやすくなる!!】


他人を善意の心で手助けしようとは全く思っていないのであった。


「艦長よろしくお願いします!!!」


藤伊は満面の笑みを浮かべて言った。


「ああ、わかった........。」


艦長が水分不足で枯れた木の様になっていた。先ほどまでの元気が全くなくなっていた。








『おい、角田中尉。お前が艦の指揮を勝手に命令していいいのか?海軍中尉だぞ!?』


観戦武官として乗艦している英国海軍のトーマス・フィリップ少佐が心配しながら言った。


トーマス・フィリップは太平洋戦争開始時のマレー沖海戦により戦艦プリンス・オブ・ウェールズと共に海に消えてしまう人物である。


マレー沖海戦は航空機の優位性を世界に知らしめた。それと同時に戦艦時代の終わりを示した戦いでもある。


『大丈夫です、トーマス・フィリップ少佐。責任のなすり付け合いに上官たちは夢中ですから。』


角田の隣で責任のなすり付け合いをしている上官たちがいた。


『うちの海軍も責任は取りたくない。でも、功績は欲しいとしか考えていない上官が多いなぁ〜。』


『お互い苦労していますね。』


『ああ。大変だ。』


ため息をお互いについていた時に砲術長からの連絡が届いた。


「あと30秒で射撃準備完了とのことです。」


若い水兵が言った。


「ああ、わかった。射撃についてはそちらの指示に従ってくれ。」


「はい。わかりました。」


水兵はそう言って通信員のところへ行った。


『なんて言ったんだ、角田?英語で教えてくれ。』


『射撃準備完了だとさ。お!砲身が上がって角度をつけ始めたぞ!』


金剛の砲身が角度がついていた。まだ動き始めたばかりのため完全に停止していなかった。


『アドミラル・トウゴウの部下たちとは思えない戦い方だな。彼は階級に厳しい人物だと聞いていたのだが........。まさか、海軍中尉が指揮をしているとは........。英国海軍上層部もビックリだろうな。』


『ハハハハハ。そんなことはない。我が海軍は階級にとても厳しい。うちの艦隊が例外なだけだ!』


『自国の上官たちの馬が合わない者が艦隊を率いることができるものなのか?』


『普通なら出来ないだろうな。普通ならな!』


『普通ではないのか?あの艦隊司令の土屋大将は?見た所、とても優しそうな人物で多くの部下たちに慕われている人物であることしかわからないが........。』


トーマスはチラチラ土屋を見ていた。


『見る人が違うよ。長官は、少し変わっているかもしれないが至って普通の人だよ。』


トーマスの目線が土屋を捉えていたことに角田は、ニヤリとしていた。


『参謀長か?』


『違う、違う。長身の参謀だよ。』


『あの人か。階級は中佐か。彼は今、何歳だ?えらく若く見えるな。』


『うーん。たぶん31歳だと思う。』


『俺よりも階級が上なのか........。何者だ彼は?』


いつも、在り来たりな反応をする多くの人に角田は若干呆れていた。特に目立つ個性を持っていないと判断できる藤伊が原因だと言われるからだ。


『軍事機密やらに触れるかもしれないから詳しいことは、教えれない。でも、同盟国の軍人だから特別に話すよ。』


『ありがとう、角田!!』


トーマスは日本と同盟関係でよかったと心から思っていた。


『彼は海軍中佐の藤伊栄一作戦参謀。投資家だ。』


『..............投資家?..もっと、大物だと思った。例えば、エンペラーの一族の者とか。』


トーマスは呆気にとられた顔をしていた。


『一般人のはずだよ、彼の両親は。』


『投資家か。日本は、まだまだかもな。』


【英国海軍にも投資家と両立して軍人としての任務をこなしている者もいる。角田の言葉からすると日本には投資家もほとんどいないと考えられる。

日本海軍は事務作業が出来る人材が不足しているのか?】


トーマスは日本がまだ内政面で英国と同じ立場でないと感じていた。


『違うな。俺たちがまだまだなんだ。藤伊中佐はこの海戦に勝つ気もない。生き残ることしか考えていないはずだ。』


『生き残ることを考えることに反対はしない。勝つ気がないことは軍人としてどうかと思う!負けていいことは何もない!』


トーマスが殺気を放ちながら藤伊を睨みつけていた。


『興奮するな、冷静になれ。こっちの言い方が悪かった。すまない。あの人が言うにはこの戦争での勝利はもう決まってるらしい。』


『もちろん、英国側だろう。』


『半分正解で半分不正解だ。答えはアメリカ、日本だ。』


当然のように言い放つトーマスに苦笑いしながら角田は、はっきりと言った。


『理由が聞きたい。』


『ドイツを除くヨーロッパ主要国及びその植民地は、アメリカと日本に支援されている立場だ。要は、アメリカと日本の多くの物資が世界中に輸出をされていることだ。』


トーマスに殴られることを覚悟していたが、殴られなかったので若干驚いていた。


『世界のパワーバランスが崩れるということか?』


『そう!今までパワーバランスはヨーロッパ主要国に有利な体制だったからな!』


『栄光の大英帝国が失われてしまうのか..............。』


【英国は勢力が衰えていくことがわかっていたが..。この戦争によりまた著しく衰えてしまうのか..............。新興国か..。戦後に一度日本に行ってみるか。】


戦後の世界の構造図をトーマスは頭に思い描いていた。


『今頃気付くとはあまいな。この戦争が開始された時から戦後の体制は予測されていたんだ。アメリカ、イギリス、日本が世界三大海軍保有国となるだろう。』


『まあ、あくまで予測だ。今からでも我が国のためになんとか出来るかもしれない。』


その目は、希望に満ちた目だった。


『自分と同じ意見だ。藤伊中佐からこのことを聞いた時にそう思った。』


『そうだな。未来はどうとでもなるさ。』


『そう通りだ!俺は、日本海軍の海軍元帥になってやる!』


『私は英国海軍の海軍元帥になってやるぞ!』


『俺は将来、日本海軍元帥になる角田覚治中尉だ。よろしく。』


『私は将来、英国海軍元帥になるトーマス・フィリップ少佐だ。こちらこそよろしく。』


二人は笑顔で握手をしていた。









「射撃準備整いました!!!」


艦橋に突然声が響いた。


「撃てェェェ!」


角田が叫んだ。


「「「「「「「「え!!!」」」」」」」」


責任の押し付け合いがひと段落して機嫌がいい佐官たちの鳩が豆鉄砲を食らった様な声であった。土屋と参謀長の鈴木は何を驚いているのかと呆れていた。


ドン、ドン、ドン、ドーーン!!!!


「ビックリした!」


「こっちにも一言声をかけてからにしろ!」


「そうだ、そうだ!」


佐官たちが角田に不満を言い始めた。大型艦艇の艦砲射撃の衝撃音などで腰を抜かしている佐官もいた。


艦砲射撃に対する心の準備ができていなかったからだ。英国海軍と交渉する役に選ばれなかったことに喜びを噛み締めていたので、すっかり油断していたからだ。


「次弾装填急げ!敵も撃ってくるぞ!」


土屋が佐官たちの言葉を遮るように言った。


「本艦の砲弾、全て外れました!!」


藤伊が不意に言った。佐官たちは、戦闘中であることを思い出し、配置につき始めた。


【アホ顏していないでさっさと軍人の顔に戻れ!】


「はい?おい、藤伊参謀きちんと報告しないか!明らかに敵艦隊の最後尾の艦で火災が発生しておるだろ!」


鈴木参謀長は、鬼の顔をしていた。


「待て、参謀長。後続艦の比叡からの発行信号を見てみろ。」


土屋はやれやれと参謀長以外の者が気づいている比叡からの発行信号を見ながら言った。


「はい、長官。えー、《ワレ、テキカンニ、ショダンメイチュウ。》だと........。比叡の砲撃だったのか........。」


鈴木参謀長は欧州で一番槍をあげたかったため酷く落ち込んでしまった。


「むっ!敵最後尾の艦が轟沈しました!........は、榛名が、轟沈させました!!!」


「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」


V字になりながら海の中に沈みつつある戦艦クラスの敵艦がいた。


「なぜ、旗艦である本艦が一発も命中させることが出来ないのだ!たるんどる!!」


誰に言っているのかわからないが鈴木は一人で怒鳴っていた。


「長官、通信機器に不具合です。英国艦隊の旗艦ライオンと連絡がとれません。」


通信参謀が汗をかきながら報告した。


「整備不良か?」


土屋は通信機器が高度な技術を使用していると思っていた。そのため、整備不良が原因と思った。


「英国艦隊旗艦ライオンが被弾しています!!」


前方を双眼鏡で見ていた参謀が言った。


確かに旗艦ライオンが損傷していることは誰にでも判断できた。ライオンから動力使用時に発生する黒煙とは別にもうひとつ黒煙が艦の左側から発生していた。


「通信機器を損傷したのかもしれない。助けたいが、ムリだな。」


英国艦隊の先頭にいるライオンを援護することは難しいからだ。


「長官、同盟国を見捨てるのですか?」


「参謀長、ここは無難に3隻で1隻ずつ倒していくことが好ましいはずです。英国艦隊は巡洋戦艦が6隻います!その内1隻ぐらい損傷しても大丈夫です!」


【今は同盟国だけど、第二次世界大戦中は敵国だよ。イギリスのためにこっちが命をかけるなんてしたくない!】


藤伊がこの状況で一番本国上層部の理に適ったことを言った。本国上層部要請は第一次世界大戦で日本海軍の戦力低下を避けることだ。

それ故、3対1で戦うことは日本艦隊の損害を減らすことに繋がるからだ。


「撃てェェェェェェ!!!!!」


今度は土屋が叫んだ。


ドン、ドン、ドン、ドーーン!!!


轟音と共に8発の砲弾が打ち出された。


【相変わらず、心臓に響く音だな。俺が艦隊司令官になる時は、空母部隊にしよう。空母はうるさくないからだ。】


藤伊がここまで余裕な状態でいられるのは敵艦隊の砲身が英国艦隊を捉えているからだ。これは、日本艦隊全乗組員にも言えることである。日本艦隊は英国艦隊が囮となっている今のうちに手柄を立てようしていた。


「敵さんこっちは無視ですか。余裕ですなぁ。」


艦長がポツリと呟いた。まあ、艦長は日本艦隊に被害がなければ、英国海軍との交渉しなくていいからこんな言葉が口から出たのだ。


「本艦の砲撃に至近弾でました!!!」


見張り員からの連絡がはいった。


「よし!本艦の戦いはこれからだ!!次弾装填急げ!!」


参謀長が本調子に戻っていた。


バァーーーン!!!!


後続艦、比叡か榛名の砲弾が敵最後尾の艦の後部に命中させた。


「敵最後尾の艦は後部砲身が使用不可能になりました!後部砲身付近から火災発生している模様!!」


「くそ!!本艦の主砲で轟沈させるぞ!!」


絶対に外すな、と言わんばかりの気迫で通信員を睨み付けていた。


「次弾装填はまだかぁ!!!!」


鈴木参謀長は日本海海戦の様な輝かしい勝利を勝ち取ることに夢中であった。そのため全く活躍出来ていない自艦に焦りを覚えていた。


自分が東郷平八郎の様に国民的な英雄になる機会が失われてしまうからだ。そもそも、活躍出来たとしても英雄は艦隊司令官の土屋になってしまうのだが........。


「参謀長、少し落ち着いてください。それと、艦に八つ当たりすることもやめてください。」


艦長は鈴木が艦の同じ所を先ほどからずっと足で軽く蹴っていることが気掛かりであった。もし、重要な計器に影響し故障してしまったら、英国海軍に交渉し修理をしてもらう必要が生じるからだ。


艦長は英国海軍との交渉は出来るだけしたくなかったのであった。


「まだ、本艦は一発も命中させてないのだぞ!!!金剛が、これでは旗艦三笠の継承艦と言われなくなる!!!」


「総合的な勝利を勝ち取ることが出来ればいいと思います。」


海軍大佐の艦長が上官の鈴木参謀長に堂々と言い放った。いいから静かにしろ、と口では言えない為、態度で示していた。


「前方、英国艦隊の巡洋戦艦インディファティガブルが戦線を離脱していきます!!!」


見張り員から連絡がきた。


「英国艦隊旗艦ライオンではないのか?被弾していたのはインディファティガブルだったのか?」


土屋は素朴な疑問を言った。


「ライオンは依然として被弾しつつも戦闘中です!インディファティガブルは先ほど被弾したのでしょう。」


艦長は英国艦隊旗艦ライオンさえ残っていれば、日本艦隊の面子が潰されないと思っていた。英国艦隊のライオン以外が沈没しても構わなかった。


「ライオンさえ残っていれば、大丈夫だろう。一応、離脱の手伝いくらいしておくか。前方砲門で離脱中の英国艦を狙う敵艦に攻撃だ!」


土屋も艦長と同じ気持ちであった。艦隊司令官のため形だけの援護射撃をして、後の言い逃れにするつもりだった。


「インディファティガブルに発行信号を送れ!」


【長官は後の言い逃れをつくるつもりだな。ここは、俺も乗っておくか。】


藤伊も土屋の言い逃れに乗っておこうと部下に命令した。


「全砲門撃てェェェ!!!!!」


参謀長が声を張り上げて言った。


ドーーン!!!!


砲弾の発射音を聞いている参謀長は笑顔だった。佐官たちも・・・(喜怒哀楽が激しい奴)・・・と呆れ顔だった。


「敵、敵が此方に砲身を旋回中!!」


何かと緊張感がない艦橋に焦った声で見張り員が連絡した。その報告を聞いた艦橋にいる者たちの顔から余裕が消えた。特に艦長の額は、汗で光っていた。


現在、敵最後尾艦の後部砲身が旋回中であった。先ほどまで発生していた火災は鎮火されていた。


「敵、本艦に向けて発砲!砲弾は4つ!!」


皆が聞きたくない連絡であった。


【絶対に当たるなよ!頼む!!】


誰もが平然としているが藤伊だけはさり気なく艦長の後ろに移動していた。藤伊は結構ビビっていた。


「回避行動すると艦隊行動に支障が出るかもしれん!回避行動するな!!総員、ショックに備えろ!!!」


土屋が艦内放送で注意を促した。


バァーーン!!!

金剛の艦首左右に大きな水柱が上がった。


「被害を報告しろ!」


参謀長が言った。


「本艦に被害はありません!艦首左右の至近弾でした!!」


藤伊は艦首を指差しながら言った。


敵の砲弾は金剛の艦首左右付近の海に落ちた。その影響で金剛が左右に大きく揺れた。


「これが欧州戦い........。一秒先の未来に自分が生きているのかもわからないのだな。」


土屋はドイツ海軍の命中率の高さに驚いていた。初弾で、艦首左右に至近弾を生み出す技術に関心していた。


「あ!後方より英国海軍クイーン・エリザベス級戦艦4隻が接近してきます!」


見張り員からの連絡と同時に皆一斉に後方を確認し始めた。確かに戦艦4隻が接近していた。


「やっと来たか。遅すぎるぞ。」


土屋はため息を吐いた。


「えっ!嘘でしょ........!!敵最後尾の艦が大炎上中!!!比叡が命中させました!」


【また、参謀長が吠えるな。】


藤伊は驚いていた。比叡がまたもや命中させたからだ。


「また、比叡かぁぁーー!!藤伊作戦参謀、本当だろうな!!」


藤伊が思っていた予想通り参謀長が吠えた。参謀長の周りの者は耳を塞いでいた。うるさいからである。長官の土屋も耳を塞いでいたので上官侮辱罪にならないからだ。


「はい、ご覧の通り敵の最後尾艦は大炎上中です。もうすぐ海の藻屑となるでしょう。」


藤伊は参謀長を一切見ないで言った。見なくても怒り顔ということはわかっているからである。


「そうだな。見るからに船員たちが海に飛び込んでいるから総員退艦命令が出されたかもしれんな。」


海軍大将の土屋が藤伊の言葉を支持したので参謀長は大人しくなった。


「長官、そろそろ撤退しますか?英国艦隊の離脱中のインディファティガブルと被弾しているクイーン・メリーの護衛し離脱をすれば、お咎めなしとなるはずです。」


艦長は参謀長に聞こえないよう土屋の耳元でこっそり話した。参謀長に聞こえてしまったら、何をされるかわかったものではない。


「わかった。敵は巡洋戦艦3隻だしなんとかなるだろう。通信員、ライオンとの通信が回復したか?」


「はい、回復しています。」


「英国艦隊旗艦ライオンに連絡だ!」


土屋は笑みを浮かべて言った。









『どうなっているのだ!ドイツ艦隊にやられっぱなしではないか!!!』


英国艦隊旗艦ライオンでビーティー中将が怒鳴っていた。それもそうだ。ドイツ艦隊の攻撃で6隻の巡洋戦艦の内インディファティガブルが戦闘離脱、クイーン・メリーは被害を受けながらもなんとか戦闘に参加している状態だからだ。


要は、事実上英国艦隊の戦力が巡洋戦艦4隻になってしまったからだ。しかも、英国艦隊旗艦ライオンも、被害を受けていた。


『提督、ドイツ艦隊は巡洋戦艦残り3隻です!』


艦長のチャットフィールドが言った。なんとか冷静になって欲しかったからだ。


『だがな、ドイツ艦隊に打撃を与えているのは、日本艦隊だろう!』


『それは........そうですが。』


チャットフィールドは力なく言わざるを得なかった。


『通信機能回復しました!!うん?!日本艦隊旗艦コンゴウから連絡です!!!

内容は《ワレ、センセンヲ、リダツスル。》です!!』


通信員からの連絡に困惑する者と機嫌がよくなる者がいた。英国艦隊司令官のビーティーは後者だった。


『日本にも話のわかる奴がいるのだな。クイーン・メリーもインディファティガブルと同様に戦線から離脱させろ!』


『なるほど長官!日本艦隊は2隻の護衛を受け持つという事ですか。残りの敵3隻の巡洋戦艦は我々に対するプレゼントですね。日本艦隊のアドミラル・ツチヤは策士ですなぁ。』


チャットフィールドはうんうんと頷きながら言った。


『それに遅れていたクイーン・エリザベス級戦艦4隻がこの海域に入ってきたから日本艦隊が離脱してもこちらに分がある。』


ビーティー中将は日本艦隊の後者から接近しているクイーン・エリザベス級戦艦4隻を見ていた。


『本艦も戦線を離脱せざる得ない状況にならないようにしたいですな。』


参謀長は被弾している艦の左を見ていた。応急修理は施したが、また同じ場所を攻撃されて旗艦ライオンが保つのかわからない状況でもあった。


『日本艦隊か。アドミラルは........トウゴウだけでなかったか。アドミラル・ツチヤか。味方に花を持たせても、自分たちの力は示すかぁ。』


ビーティー司令は離脱中の日本艦隊旗艦コンゴウに敬礼していた。








『フォン・デア・タンとモルトケの2隻の巡洋戦艦がヤーパンの艦隊によって沈められるとは........。』


ドイツ艦隊司令官のヒッパーが帽子を深く被りながら言った。彼自身も極東の島国である日本によって沈められるとは思っていなかったからだ。


『司令、強気でいきましょう。司令官が弱気では兵の士気に関わります。我々の大艦隊が来るまで持ちこたえましょう。』


参謀長は帽子を浅く被って言った。


ドイツ海軍大艦隊。それは、弩級戦艦10隻以上から編成されている大艦隊だ。その大艦隊が現在この海域に向かって航行しているのだ。


『参謀長、持ち堪えるのではない。我々が勝利するのだ!』


ヒッパーの目は闘志の炎で燃えていた。


『私が弱気になっていたようです。英国艦隊を沈めてやりましょう!』


『そうだな、参謀長。ドイツ海軍の力を見せてやろう!!』






【生きた心地がなしかったぜ!主砲の発射音で耳が痛い。イギリス本土に着いたらすぐに病院行こうかな。】


藤伊は窓の外をボーっと見ていた。現在、日本艦隊と被弾し、戦線を離脱したインディファティガブルとクイーン・メリーは、英国海軍基地に向かっていた。


藤伊たちは戦闘海域から離れていたのである。


「長官、第一派遣艦隊に修理が必要となった場合も私が英国海軍と交渉するのですか?」


艦長はハッと気づいて恐る恐る土屋に聞いた。


「彼方は彼方でなんとかするだろう。吉岡艦長が交渉しなくてもいいよ。」


土屋は第一派遣艦隊の司令官松本大将が嫌いであった。その為、彼に協力なんてしたくなかった。


「日本海軍上層部が納得する戦果を第一派遣艦隊にも示してほしいですね。」


「そうだな、藤伊作戦参謀。参謀長が皇族だから威張っておるが、戦果を残せないようなら左遷されることは間違いないな。ハハハハハハハ!」


土屋は皇族出身の第一派遣艦隊参謀長の伏見宮海軍少将をバカにしていた。土屋も伏見宮少将は気に食わなかったのだ。


「戦艦扶桑がどれくらい戦えるかも見ものだな!」


「はい、長官。海軍の極秘資料によると斉射を行えないと書かれていましたから。」


藤伊は苦笑いしていた。史実でも太平洋戦争中に金剛型以上の働きがなかったので、藤伊は後の金剛型戦艦以外の戦艦を廃艦にしようさえも思っていた。


「あ!その資料って藤伊中佐が知り合いから貰った資料ですね。自分も、戦艦扶桑が欠陥だらけということは、その資料で知りました。」


「ああ、そうそう。よく覚えていたな、角田中尉。」


「ええ、覚えていますよ。藤伊中佐がボロクソ言っていましたから。人事局では結構有名な話ですよ。」


角田はさも当然のように言った。


「マジで!!海軍省まで広がっているの?でも、ここにいるの佐官、尉官たちは、初めて聞く顔しているけど........。」


「人事局で藤伊中佐に逆らったら何されるかわからないので安易に人事局勤務以外の者に教えれませんよ。」


「あ、そう。よかった!」


藤伊の顔から焦りが消えていた。


「藤伊参謀、先ほどの話は本当なのか?」


「はい、本当です。艦長はご存知なかったのですか?」


「いや、知らんかった。金剛型にも大きな欠陥はあるのか?」


艦長にとって戦艦扶桑より今は金剛型が優先であった。欠陥があれば、金剛を建造した英国企業に交渉して改造してもらう必要が発生するからだ。


もちろん、交渉は艦長の吉岡海軍大佐が行うことになるだろう。


「今は、ないです。」


吉岡艦長はその言葉が聞けただけでも満足だった。今なければ、吉岡自身が交渉しなくても何の問題もないためだ。


吉岡は将来、改装しなくてはならない時期が来ても責任者でなければ、いいと思っていた。


「第二派遣艦隊はそのまま基地に帰還せよ、と英国海軍本部から連絡がきています。」


通信員が不意に言った。


「わかった。さて、これから我々は英国観光でもするか。」


土屋が言った言葉にほとんどの者が同意していた。土屋の言葉はユトランド沖海戦による第二派遣艦隊の戦いが終わったことを意味していた。



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