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Battle of Jutland 2

でけたーー

1916年5月31日



英国海軍巡洋戦艦部隊と大日本帝国海軍欧州第二派遣艦隊は偵察艦から敵を発見した地点に向かって快速航行していた。


「英国海軍が部隊を二つに分けました。英国海軍戦艦4隻の部隊が大きく遅れていきます。」


第二派遣艦隊の艦橋に見張り員からの連絡があった。


英国海軍巡洋戦艦部隊は史実通りに部隊を二つに分けた。高速の巡洋戦艦6隻を中心とする第一第二巡洋戦艦部隊と最新弩級戦艦4隻を中心とする第五戦艦部隊である。


第五戦艦部隊は巡洋戦艦部隊に編入されたばかりであったため進路変更が遅れてしまっていた。


「英国の戦艦4隻が遅れているからドイツ海軍との戦闘には我々も長く付き合わされそうだな。」


土屋は旗艦金剛の艦橋から前方を航行している第一第二巡洋戦艦部隊が見ていた。土屋が相当がっかりしている姿であったので参謀達にも影響して艦橋にいる軍人たちのテンションは下がっていた。


藤伊を含めて第二派遣艦隊の士官が誤算だったことは英国海軍最新弩級戦艦4隻が遅れていることであった。戦艦4隻がいない状態での戦闘では一撃離脱戦法で戦闘海域からの即離脱が出来なくなってしまう。


なぜなら敵からの攻撃が分散されないからである。戦艦4隻をロックオンするはずの砲門が別の目標にロックオンするからだ。


一撃離脱を試みようとしたら間違いなく敵の集中砲火にあうことは誰にでも予想できる。この状況で離脱すれば第一第二巡洋戦艦部隊を見捨てたと第三者から言われるようなことになってしまう。


結局成功する確率が低いし、成功しても英国の不信をかってしまうため一撃離脱戦法は廃案にするしかないと艦橋にいる全員が思っていた。


「うーむ。エンジントラブルだと連絡して速力を21knに落として遅れている戦艦4隻と合流してから戦闘海域に突入すれば実行できると思うがな・・・。」


「長官、それは逆に長官と巡洋戦艦部隊のビーティー中将の親しい関係が壊れる可能性があります。将来のことを考えると私は反対です。この海戦でビーティー中将が素晴らしい活躍をすれば、将来彼は英国海軍のトップなるはずです。」


「要はビーティー中将を手助けすればいいのだな、鈴木参謀長。」


「はい。」


「作戦はどうする?手助けをすることに異論があるわけではない。手助けすることはとても難しいことだな。英国海軍の手柄にしなければならんからな。」


土屋は参謀長の鈴木に作戦を提示しろと目で言っていた。


「は・・・。え・・・。作戦ですか・・・。藤伊中佐!・・藤伊作戦参謀!作戦を説明しろ。」


鈴木はまさか作戦を提示要求が出されると思っていなかった。その為参謀達に作戦の作成を指示していなかった。参謀達も鈴木と目を合わせないようにしていた。


そんな中作戦参謀の藤伊だけは土屋、鈴木、他の参謀達から離れた場所に立って外を見ていた。まるで興味がないような感じであった。


鈴木は藤伊なら何か策があるだろうと思って藤伊に押し付けた。鈴木が土屋にここで有効な作戦が提示できなければ出世の道が絶たれてしまうと思っていたことも事実である。


「・・・はい、・・・分かりました。戦術を説明します。」


藤伊は、ここで自分に振るのかよ、と顔をしていた。海軍中佐である藤伊が海軍少将である鈴木に反論することは立場上できないため拳を握りしめていた。


「は・・・・!ちょっと待て!なぜ、作戦ではなく戦術なのだ?」


鈴木はなぜ藤伊が戦術を説明すると言った意味が理解できないでいた。鈴木だけではなかった。艦橋にいる藤伊以外の軍人達も驚いた顔をしていた。


「それは今から説明します。・・・はっきり言って自分に有効な作戦案はありません。」


藤伊は堂々と言った。その顔から焦りが全く見られなかった。逆に藤伊以外の参謀たちから焦りが見えていた。次に自分が作戦提示を迫られるかと思っていたからだ。鈴木は藤伊を怒鳴ろうとした瞬間、長官の土屋が手で止めた。


「ほーう。詳しく話せ。」


土屋は興味があるような口調で言った。藤伊と長い付き合いの土屋には断言できた。根拠がないことを堂々と言うはずがないと思っていた。


「現時点での作戦変更は大変危険と判断します。作戦中止の指示は簡単にできます。

ですが、新たな詳細な作戦を伝える時に伝達ミスが発生もしくは、急な作戦変更により下の者まで作戦内容が伝わらない可能性があります。

その為誰にでもすぐに理解できる作戦が好ましいと考えています。現状そのような作戦案はないと考えています。」


藤伊は淡々と述べた。


「作戦を考えることが作戦参謀の仕事だろうが!!すぐに考えろ!」


鈴木は大声で怒鳴った。周りの参謀達は、だったら参謀長が考えろよ、という目で鈴木を見ていた。


「誰にでもすぐに理解できるか作戦・・・。戦い方・・・。そうか!藤伊作戦参謀、あなたは天才だ。」


金剛艦長の吉岡範策海軍大佐が満面の笑みを浮かべて言った。吉岡範策海軍大佐はのちに砲術の神様と呼ばれようになる砲術専門の海軍士官である。


「艦長、どういう意味だ。」


「参謀長、よく考えてください。日本海軍の軍人ならすぐにわかりますよ。誰にでもすぐに理解できる戦術と言えば・・・艦隊戦ですよ。」


吉岡はけらけら笑いながら言った。藤伊と吉岡以外の者たちは驚いた顔をしていた。一撃離脱戦法にとらわれ過ぎて艦隊戦の存在を忘れていたのだ。日露戦争以降の近代海戦に興奮し、英国海軍の戦艦4隻が遅れるという戦力低下の影響で一瞬正常な判断力が低下していたのだ。


「では、艦隊戦を行うことにしよう。」


土屋の口からから艦隊戦の許可があっさり出たことにほとんどの者が驚いていた。慎重な性格の土屋が大胆な選択をしたからだ。


「ありがとうございます。英国海軍第一第二巡洋戦艦部隊と我々は現在北東の方向に向かって航行しています。敵艦隊は北西に進路をとってこちらに向かっていると推測されます。

ビーティー中将は南それか南東に進路を取ります。ドイツ艦隊が本国へ向かう進路をとると判断されたそうです。その為同航戦になると考えられます。同航戦だと被害が甚大になる可能性が高いです。

我々は第一第二巡洋戦艦部隊の後方を航行します。そして、ドイツ艦隊へ真横からではなく斜め後ろから砲撃します。そうするとドイツ艦隊は前方の砲門で英国海軍を、後方の砲門で日本海軍を攻撃することになります。」


「比叡や榛名が先に行ってしまうかもしれんぞ。」


「大丈夫です、長官。金剛が先頭なり単縦陣で航行しますから後続艦は金剛のスピードに合わせるしかありません。」


「わかった。その案でいこう。だが、この手が使えるのは最初だけだということを忘れるな。」


土屋は釘をさすことも忘れなかった。この戦術には欠点がある。味方の艦艇が戦線を離脱すると残存艦に砲撃が集中することだ。囮となる英国海軍がすぐ戦線離脱を行うことがあれば、金剛型巡洋戦艦3隻は戦力差があるドイツ艦隊にやられてしまうことも目に見えていた。


要は英国海軍第一第二巡洋戦艦部隊が持ちこたえているうちに金剛、比叡、榛名がどれだけドイツ艦隊にダメージを与えられるかに懸っていた。









『なんということだ。・・・全く海戦前に新たな部隊を編入されたことが間違えだった。伝達ミスによる第五戦隊の遅れかぁ…。』


ビーティー中将はため息をつきながら言った。ビーティー中将は第一第二巡洋戦艦部隊の旗艦巡洋戦艦ライオンに乗船し、指揮をとっていた。


『このまま戦闘を行わなければなりません。ここでこちらが離脱すればイギリス国民に何をされるかわかりません。』


参謀長は額に汗をかきながら必死に離脱命令がだされないように言っていた。ビーティー自身は離脱するつもりはなかった。


『アドミラル・ツチヤの巡洋戦艦3隻とこちらの巡洋戦艦6隻があればドイツ艦隊とも十分に戦えるはずだ。だから、撤退はしない。』


ビーティーは部下を安心させるような口調で言った。


『アドミラル・ツチヤの巡洋戦艦3隻が我々と行動を共にしますか?』


通信参謀の一人が言った。誰もすぐには答えなかった。第二派遣艦隊は単独行動をしても、作戦無視とされないからだ。更にスカパ・フローが停泊予定であったにもかかわらず駐英日本大使経由で強引に停泊予定を変更していたことが噂で広まっていたからだ。


『情報部からのツチヤに関係する情報はあるか、通信参謀?』


『はい、長官。あります。ツチヤは大使館のことから、外務省に色々コネを持っている人物です。彼は海軍大将というより外交官です。』


『ハハハハハ。面白いな。外交官かぁ。』


ビーティーは外交官であれば軍人より交渉上手だから停泊予定変更ができたと思った。周りの者も外交官なら可能だと思って苦笑いしていた。


『ツチヤについては情報部が乗り気でないため情報がこれくらいしかありませんでした。ですが、情報部が危険視している人物が第二派遣艦隊にいます。』


『通信参謀、情報部が危険視するほどの人物が日本海軍にいるのか?日本本国にいるアドミラル・トウゴウぐらいだろう。』


『作戦参謀の海軍中佐です。彼の我が国の銀行の口座に多額の金が振り込まれていることです。振込元はロシア、ドイツ企業です。』


『はぁ。別に多額の金が振り込まれて我が国に不利なことなんてないだろう。』


通信参謀が海軍中佐と言った時点でほとんどの者は話の内容を聞いていなかった。ビーティーは長官だから一応聞いていた。そして、軍人に関係ないことを話すな、という表情で聞き返していた。


『いえ、関係あります。彼がドイツ企業とコネクションを持っていることです。要はスパイの活動をしているかもしれないことです。』


『情報が漏れている可能性も考えて行動しろということか…。第二派遣艦隊が離脱したら注意するとしよう。』


ビーティーは藤伊と直接話したことがあるため情報部の考えすぎだと思っていた。形だけの発言をしておけばいいと思っていた。












イギリス情報部では藤伊の資産についての調査が行われていた。


『藤伊の口座や保有株式など徹底的に調べろ!』


情報部の課長が叫んでいた。


『ジャック、また課長が叫んでいるぜ。』


『まったく懲りないな。叫んでも何も進展はないのになぁ〜。』


情報部の藤伊担当者が二人でコソコソ話していた。


『多額の金が振り込まれていることがわかった2週間後には英国戦時国債を買い始めくれたから、情報部が余計に疑ったんだよ。情報が漏れているとね。』


『警察が銀行の強制捜査をしたらその銀行への振り込みが止まってそれがスイスの銀行を経由してアメリカの銀行に大量に流れたから、警察の強制捜査ができない。』


『ホント藤伊は頭いいね。でも、日本の海軍上層部はまったく気づいていないけど…。』


『だから、藤伊を戦後駐英大使館付き武官に任命しろと海軍上層部にうちの大臣たちが圧力かけているらしい。』


『そのことの口合わせもやらなければならないのだな?』


『そうだね。』


『貴族の家庭に生まれたかった。農民出身だから、出世は難しいだろうな。』


『まあ、課長も父親が騎士爵だからね。』


二人はため息をついてまだ色々叫びながら指示している課長を見ていた。




情報部の別の部屋で藤伊の対策会議が開かれていた。


『駐日英国大使が戦後駐英大使館付き武官に任命するよう日本海軍大臣と交渉しています。我が国と同盟存続を思う上層部メンバーが多いため、戦後に任命する方針で日本海軍内部で話し合われていると大使から連絡がありました。』


藤伊の対策グループ長が報告した。


『戦後は色々金がいるから、我が国に留めておけば我が国に莫大な融資をしてくれる可能性が高いな。』


英国情報部アジア支部の副長が言った。日本に大戦前赴任していたため藤伊が投資家として飛び抜けていることを確信していた。大戦前に日本海軍独自の諜報組織があると駐日英国大使から言われ、調査をしていた。諜報組織に関しての有力な情報を得ることができなかった。


しかし、藤伊の口座から大量の金が海外の銀行口座に振り込まれていることを突き止めたと同時期に日本の造船関係会社の株式が大量に買われた。外国人と日本人が共同で購入したことも突き止めた。


はっきりとわかったのは日本海軍軍人が関係者で外国人は駐日ドイツ大使が関係していることしかわからなかった。海外にいる関係者だけは一人一切わからなかったのであった。


そして、日本に残った部下からの報告では株式配当金を貰っている人物の中に藤伊一郎貴族議員がいたことだ。父親の口座に金が大量に存在していることを推測するのに少しも時間はかからなかった。


『物流や造船関係企業の株式や我が国の国債を所有しているから戦後彼は莫大な資産を築くぞ。』


出席者の一人がポツリと言った。周りも頷いたりしてほとんど同意している様子だった。















「敵艦隊を視認!」


突然旗艦金剛の艦橋に見張り員からの連絡が届いた。艦橋いる軍人たちは皆緊張しているか興奮しているかのどちらかであった。金剛、比叡、榛名は単縦陣となって英国海軍巡洋戦艦6隻の後方を航行していた。


「ドイツ艦隊との距離5万。相対速度45kn。距離1万8千以降で英国海軍とドイツ艦隊が南に進路変更を行うと考えられる!」


こんどは別のところから艦橋に連絡が入った。


日英巡洋戦艦部隊は北東に向かっていた。そして、ドイツ艦隊は北西に向かっていた。日英独の戦闘員たちが持ち場につき準備万全の状態でいた。


【もう、戦闘が始まるのかよ・・・。日本海海戦の結末は知っていたから安心して乗船していたけど、ユトランド沖海戦の結末知らないよ。・・・・・やばいな。第一次世界大戦は連合国側の勝利しか詳しく知らない。でも、ロシア革命についてよく知っているけど…。】


藤伊は色々思いながら背中に変な汗を大量にかいていた。


「敵先頭艦は巡洋戦艦クラスです!」


見張り員からの連絡があった。


「巡洋戦艦クラスか。戦艦クラスでないならまだこちらに勝ち目があります。」


鈴木参謀長がほっとしながら言った。戦艦クラスが先頭であれば戦艦4隻が現在遅れている日英海軍に不利な状況になるからだ。


「おい!藤伊作戦参謀!出入り口に立たれると邪魔だぞ。気分が悪ければ外の空気を吸ってこい。」


鈴木参謀長はいつも冷静な藤伊から考えられない気分が悪そうな顔をしていたので心配になっていた。


「はい。・・・わかりません。少し外の空気を吸ってきます。」


「戦闘が始まるからすぐに戻ってこい。」


鈴木は出入り口から消える藤伊の背中を見てそう言った。



日英艦隊とドイツ艦隊との距離が4万5千mになっていた。


戦闘シーンは次回にします。


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