Battle of Jutland 1(1916年5月30日)
出来ました----
1916年5月30日
第二派遣艦隊はフォース湾の要塞基地ロサイスから今、デイビッド・ビーティー中将率いるイギリス海軍巡洋戦艦部隊と共に北海を航行中であった。スカパ・フローから来るイギリス大艦隊と合流するためである。
そして、旗艦金剛艦内の部屋で第二派遣艦隊の参謀と長官の土屋が作戦を練っていた。
「長官、納得できません!なぜ、我々がイギリス海軍の主力艦隊と行動出来ないのですか?欧州まで援軍に来てやったのに!」
海軍少佐で艦隊編成時に配属された参謀の一人が土屋に向かって言った。周りの何人かの参謀達も同調しているようだった。言いたい事はよくわかるが、同盟国だからと言って立場が同じにならない事を知らないのだろう。
日本は50年に誕生した新興国であり、反対にイギリスは世界最大規模の海軍を運用する大国である。イギリスの極東での権益を守る為の番犬と見做されている事を忘れているに違いない。
「そんなに喚いても何も変わらん。はぁ、では第二派遣艦隊の優先目的を発表するからちょっと落ち着け。第一に人命優先、第二に艦隊稼働状態で帰国、第三にイギリス海軍と交流だ。」
土屋は全く的外れなことを言ったので部屋にいるほとんどのメンバー達が茫然としていた。戦う気がないと思える程の方針だったからだ。
武士の精神がまだあるのだろう。約束を正しく守る事が当然だと考えているが、それは大きな間違いである。約束をギリギリ破らない様な選択がある事。この考えを知らない者が多い過ぎる事に土屋は落胆していた。
「しかし、司令官がそんな考えでは第二派遣艦隊は壊滅してしまいます。」
参謀の一人が呆れながら土屋に言った。
「壊滅はしないな。この艦隊は独立高速部隊だからな。おい、藤伊中佐説明してやれ。」
土屋は面倒事を藤伊に押し付けてしまった。落胆して説明する気も失せた様子であった。
「はい、わかりました。では、説明します。我ら第二派遣艦隊はイギリス海軍大艦隊との合流地点までイギリス海軍巡洋戦艦部隊と行動します。その後、単独で行動します。」
藤伊は押し付けられるだろうと予測していたのである程度下準備してきていた。此処にいる多くの者達が自分達と同じ様な精神を持つ者と一緒に戦うと意気込んでいるのが大きな間違いであることを知らしめる必要があると感じていた。
「なぜ、わかれるのだ?」
参謀の誰かが疑問を言った。
「イギリス情報部の情報によると合流地点では霧が発生している可能性があるからです。その為、霧の発生中の合流は不可能と判断します。
更にその海域にはドイツ大洋艦隊が通過する予定で、弩級戦艦が最低でも4隻は存在する可能性大とイギリス情報部が判断してます。よってある程度敵戦力を削ったら第二派遣艦隊は単独で当海域を離脱します。なお、離脱中の戦闘は極力避けます。
第二派遣艦隊は金剛型3隻稼働状態で帰国しなければならないことが海軍大臣からの命令であるため艦隊保全作戦に決まりました。」
藤伊は当然のように言い切った。日英同盟の相互防衛支援の項目に差し障らないから作戦事態には全く問題ない。
「俺からも質問だ。敵艦との戦闘が絶対に避けられないと判断した時はどうする?」
参謀長の鈴木貫太郎海軍少将が、、(逃げ腰)、、と藤伊を睨みながら言った。
「第二派遣艦隊は別名、独立高速部隊です。
金剛型巡洋戦艦3隻の最高速力は27.5kn、筑摩型防護巡洋艦矢矧の最高速力は27.5kn、樺型駆逐艦の最高速力は30knです。
ドイツ帝国海軍巡洋戦艦部隊の艦隊最高速力は26.5knです。よって、一撃離脱法でなら我が艦隊が有利になります。
艦隊戦のようにちまちま撃ち合っているとこちらも被害を受けます。最初に当て、逃げればいいと考えています。」
藤伊は机に広げてある地図の上にのった艦艇の駒を指しながら言った。筑摩型防護巡洋艦矢矧は資料によると27.16knであった。藤伊は27.5knと言っておいた方が速く見えると思って誤魔化していた。
そもそも藤伊は27knぐらいで戦闘中も航行していればいいと考えていた。下手に最大速力をだして機関が故障したら目も当てられないと思っていたからだ。
「艦隊戦を批判しては日本海軍の伝統的な訓練が無駄になってしまうぞ!その覚悟あっての発言だろう!結局逃げては弱虫や臆病者と国民、政府、内地の海軍軍人、陸軍、第一派遣艦隊の乗組員に言われてしまうぞ!」
鈴木は参謀達や自分が一番心配していることを藤伊にぶつけた。鈴木は知識派であったが海軍軍人なら一度は体験してみたい海戦に目が行き、熱くなっていた。
「そうだ!そうだ!藤伊中佐は歴史的な海戦に立ち会ってみたいとは思わないのか?それでも帝国軍人か?」
若手の参謀の一人が言った。
「藤伊中佐、あなたはドイツのスパイでは?」
また、別の若手の士官が言った。
「なんと!ドイツのスパイなら弱腰になるのもわかります。」
さらに、別の若手の士官が言った。
「スパイなら本艦を退艦していただきたいものですなぁ。」
残った若手の士官も言い始めた。
「「「「ハハハハハ」」」」
藤伊が積極的な攻撃案を出さないことに不満を持っていた若手の参謀達はここぞとばかりに藤伊の悪口を言い始めた。彼らは年齢で見れば藤伊とさほど変わらなかった。だが、階級は少佐、大尉だった。藤伊は中佐である。
ただ、言い出しっぺの鈴木だけは笑わなかった。いや、笑えなかったからだ。土屋が持っていた鉛筆を折っていたからだ。普段温厚な土屋が静かな怒りを持ち始めていることに気づいたのである。しかし、4人の若手の士官たちは気づいていなかった。
藤伊は彼らを宇宙人でも見るような目で見ていた。それだけ、彼らの冷静な判断力の低下が藤伊には驚きだった。
「うるさいな、君たち!ちょっと、黙ってくれ。この作戦は作戦参謀の3人が考えてくれたものだ。作戦参謀達は感情で作戦を考えている訳ではないな!
3人は冷静にこの海戦が与える影響、イギリスからの情報、本国からの派遣条件などすべてを踏まえて作戦を練っている!
戦場では一瞬の判断ミスが命取りになるのだ!わしがミスをすれば第二派遣艦隊は全滅するだろう。わしは港を出た時から戦場だと思い、ミスをしない様に冷静でいるつもりだ。
だから、冷静に対応するぞ!鈴木参謀長を含む5人は艦内全員の健康状態と心理状態を確認してからここに戻って来なさい。少し頭を冷やすと別の視点から物事が見えると思うな!」
土屋は声のトーンが一つ低くなっていた。部屋の温度が1度下がったようであった。藤伊を除く他の部屋にいるメンバー全員がとても驚いていた。土屋が怒るところを見たことがなかったからだ。
藤伊はこの感じの土屋を知っていた。藤伊が人事局長秘書の時に土屋と初めて会った時、土屋が今のような冷静さでいたからだ。
この時から土屋を経験不足の長官と第二派遣艦隊クルーは言わなくなった。
1916年5月31日
「長官、そろそろ、合流海域に到着します。」
藤伊は時計の時間を確認してから報告した。
「わかった。ドイツ艦隊もこの霧の中にいる可能性がある。万一に備えて総員戦闘準備な。」
土屋は霧をじっと見つめていた。慎重な土屋にとって霧は予想外のことであった。敵艦隊が発見できないことを霧の影響だとイギリス海軍巡洋戦艦部隊長官のデイビッド・ビーティー中将が片づけてしまうことであった。
「イギリス海軍巡洋戦艦部隊旗艦ライオンから発光信号確認。ワレ・ダイニノ・ゴウリュウチテン・ニ・ムカウ。キカン・モ・テキカンタイ・二・チュウイセヨ・です。」
通信参謀の一人が言った。
「ドイツ海軍巡洋戦艦部隊が接近している可能性がある。一応、イギリス海軍大艦隊と合流するポイントまでイギリス海軍巡洋戦艦部隊の後方からついて行くぞ。あと、合流確認後単独行動に移るとしよう。」
土屋はそう言って外を見た。呆れていた。ビーティー中将が戦闘準備態勢でないことを土屋は確信していた。イギリス艦隊の速度が上がっていないからだ。焦っていない証拠である。1〜3knぐらい速力が上がっても燃料にあまり影響はない。
旗艦金剛を先頭に単縦陣で大日本帝国海軍第二派遣艦隊はイギリス海軍巡洋戦艦部隊の後方を北に向かって航行している。イギリス情報部によるとドイツ艦隊との接触は9時間後と予想されていた。
「長官、9時間後に接触は現実味がありません。それに東方で不明艦が確認されております。」
藤伊はイギリス情報部の情報を疑っていた。デニスからの情報ではそろそろ接触するはずだったからだ。
「うむ、藤伊もそう思うか。駆逐艦を4隻ほど偵察に向かわせるように。参謀長!駆逐艦4隻を艦隊東方に偵察させろ。」
土屋は鈴木参謀長を呼んで命令した。不安材料を取り除くためにはやる価値があると判断して命令した。
「艦隊後方の樺型駆逐艦4隻に連絡せよ。艦隊東方を偵察させろ。」
鈴木参謀長は通信係に命令した。
通信を受けた駆逐艦が艦隊を離れて偵察するために進路を東方にとった。史実にない大日本帝国海軍籍第二派遣艦隊の駆逐艦4隻の偵察。大きく歴史が変わろうとしていた。
「イギリス艦隊も軽巡を同方向に偵察に向かせました。」
見張り員からの報告が入った。藤伊が外を見るとイギリス海軍軽巡が1隻同方向に向かっているのが見えた。
【この海戦があの有名なユトランド沖海戦だよなぁ〜。艦隊戦やるんだよね〜。詳しく知識が欠けているから俺の命が危ないかも。
あと、金剛、比叡、榛名の損失だけは絶対に避けないければならない。将来空母機動部隊に随伴する戦艦がいなくなってしまうからな。
ここにアメリカ海軍第七艦隊がいれば最強だな。空母とイージス艦だから水上戦闘では死角なしなのに…。】
藤伊は立ちながら神にでも祈るべきか考えていた。
榛名艦橋で土屋の司令官について尉官達が艦長に聞いていた。
「艦長、土屋大将が艦隊の長官で大丈夫でしょうか?自分は実戦経験に乏しい方が上手に指揮できると思えません。」
若い尉官の一人が迫るように言った。
「あの人を軽く見ないほうがいいぞ。海軍大将でありながら、部下の意見も聞くし、伝統にとらわれていないぞ。要するに頭が固くない人だよ、あの人は。言い方が悪かった。要は頭が柔過ぎなんだよ。
だから、我々の視点の高さから見ると可笑しな人に見えるが、あの人は視点の高さが高過ぎるから遠くまで見える。未来まで見ているな。」
艦長は土屋を尊敬していた。土屋がイギリス海軍に燃料補給や整備させていたことを知っていたからだ。つまり、第二派遣艦隊は負担無しで大戦中が行動出来るのであった。
「しかし、」
「しかしもへったくれもあるか!自分の意見を押し通そうとするな!この艦隊のメンバーがどのように選ばれたか知っているのか!
土屋長官が全員決めたのだぞ。日本にいては才能が埋もれてしまうと判断して若い尉官達を大勢連れてきてくださったことにまず感謝せよ!」
艦長は艦橋にいる全員に聞こえる大声で言った。これは少佐以上の者しか知らないことであった。そのため少佐である艦長を含めて極少数の人しか知らなかった。初めて聞いた者たち全員が呆気にとられていた。
「そんな…。」
「長官は能力があれば側に置いてくれるぞ。例えば、藤伊栄一海軍中佐のようにな。自分を磨け若者よ。こちらも自分を磨くからな。長官が連合艦隊司令長官になった時海軍は大きく変わるだろう。それは無理だがな。」
「なぜですか?」
「土屋長官が復員状態だからだ。それに、あと10年もすれば藤伊中佐の一派が台頭してくるだろう。所謂、いい意味での化け物達が海軍の重要なポストに就くはずだ。土屋長官は藤伊一派の水先案内人だな。それも強力な水先案内人だがな。」
艦長は頷きながら答えた。
その頃ドイツ巡洋戦艦偵察部隊もこの不明艦を発見していた。ドイツ巡洋戦艦偵察部隊は日英巡洋戦艦部隊の東方50海里を北に向かって航行していた。
それにより、日英海軍部隊とドイツ海軍部隊が一定の間隔で北方向に航行していた。日英、ドイツ海軍部隊が発見したその不明艦は中立国デンマークの貨物船であった。
「参謀長、この不明艦は英海軍巡洋戦艦部隊だと思う。」
フランツ・フォン・ヒッパー中将はその不明艦を英海軍巡洋戦艦部隊だと思っていた。
「英海軍巡洋戦艦部隊だと私も思います。戦艦部隊は足が遅いためまだこの海域に到着できないでしょう。ですが、大日本帝国海軍の巡洋戦艦部隊が気がかりです。」
「わしもそう思う。二つの内一つはたぶん、世界でもまれにみる高速部隊だからな。英海軍より日本がどんな行動をとるかが…。」
ヒッパー中将は机の上の海図を眺めながら言った。彼らが大日本帝国海軍を恐れていた理由は日本海海戦の影響によるものであった。
歴史的稀にみる日本海軍の圧倒的な勝利。東洋のティルピッツと呼ばれる東郷平八郎と同じ日本人が指揮する部隊であり、ドイツ海軍が保有しない部隊に所属する全艦艇が速力27.5kn越える大日本帝国海軍の第二派遣艦隊。
日露戦争後10年程戦争が勃発していないためドイツ海軍は敵を過大評価してまうことが多かった。
その後日英海軍、ドイツ海軍にその不明船偵察をしていた艦艇からそれぞれに連絡がはいった。
≪≪≪ワレ・テキカン・ミユ≫≫≫
ユトランド海戦の火蓋が切って落とされた。
次は戦闘シーンですーーー。




