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大日本帝国海軍欧州派遣艦隊

第一次世界大戦だーー

1916年4月30日


史実通りに1914年6月28日、オーストリア=ハンガリー帝国のサラエボでフランツ・フェルディナント皇太子と妻のゾフィー・ホテクがセルビア人の青年に暗殺された。所謂第一次世界大戦の引き金となってしまうサラエボ事件である。


連合国主要国に現時点でイギリス、フランス、ロシア帝国、イタリア、日本がいた。中央同盟主要国にはドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国がいた。


イタリアはドイツ側であったがイギリスとの秘密条約により連合国側で参戦していた。そして今、戦況は各国の早期終結の思惑を外れて戦争3年目に突入しようとしていた。


『ドイツ第8軍の快進撃は凄いな。下手したらモスクワで行ってしまうのではないか。』


藤伊はイギリス滞在中の部屋でデニスと話していた。


ドイツ第8軍はヒンデンブルク元帥が総指揮官であるドイツ陸軍部隊である。1914年8月17日~9月2日のタンネンベルクの戦いで第8軍の2倍以上の兵力であったロシア陸軍部隊を破った。ロシア領にそのまま侵攻してロシアにポーランドを放棄させるという大撤退を行わせていた。


近代的な装備のドイツ第8軍の前には旧式装備のロシア陸軍で太刀打ちすることが出来ない状況になっていた。よって、近代的軍隊の前に幾ら旧式軍隊の数が優ろうとも勝利することが出来ないことを証明していたのである。


『モスクワまでは行くことはできないだろう、ポーランド越えたあたりまでが限界じゃ。』


デニスは情報から推測できる進撃限界地点が大体わかっていたのである。


『まあ、ロシア陸軍に大打撃を与えているからいいだろう。それにロシア皇帝のニコライ2世が従叔父のニコライ大公を罷免して前線最高司令官になったからな。皇帝が前線に出てくるなんていつの時代の考え方をしているのだか…。呆れるな…。』


『じゃが、我々にとってはとてもいい展開じゃ。ロシアの首都で思うように動けるからのう。』


『頼りにしてるぞ。』


『任せておくのじゃ。ハハハ。』


デニスは仕事がうまくいっているため満足していた。


藤伊はデニス達に皇帝ニコライ2世が前線指揮官になることを大戦前から伝えていた。そのためデニスは内政機能が一時的に低下した首都ペテルグラードで皇后アレクサンドラを騙してロマノフ家の財産の一部を海外の偽の銀行口座に振り込ませていた。


更にラスプーチンを買収して彼の信者となっている貴族たちからも財産を奪っていた。よって大量の金が欧州の銀行を経由してアメリカの藤伊が作った多くの銀行口座に分散して振り込まれていた。


藤伊は大戦前の借金をして買い集めた鉄を高値でロシア、ドイツに売りさばいていた。この時点ではアメリカが参戦していなかった為、連合国と枢軸国が一進一退を繰り返していた。


その為片方が有利にならないよう、連合国のロシアと枢軸国のドイツに売っていたのである。借金の返済しても手元にまだ大金が残るほどあった。






藤伊はデニスと別れた後駐英日本大使館に来ていた。


「土屋大将、お久しぶりです。ロシア以来ですね。」


「おお、藤伊か。久しぶりだな。」


土屋はロシア視察中に海軍大臣候補として日本に角田と帰国していた。そのため、藤伊と陸軍メンバーの4人で欧州視察を継続していた。


しかし、視察中に大戦が勃発したため藤伊は在英観戦武官として、陸軍メンバーは在仏観戦武官として欧州に留まっていた。


「ですが、大将が第二派遣艦隊司令長官と初めて聞いたときは驚きました。なぜ、司令に?」


「帰国して、海軍大臣に任命される予定だったが、実戦経験の劣るわしがなるのはおかしいという奴らが多数いたからだ。それで第二艦隊司令長官になった。

まあ、欧州に艦隊を派遣することについてはお前が一枚絡んでおることぐらいわかったがな。」


土屋が海軍大臣候補と聞いて反対したのは山本権兵衛海軍大将であった。陸軍と協力するのが嫌であったからだ。陸軍を嫌う者たちも賛同して結局山本権兵衛が斎藤海軍大臣の後任となってしまった。


土屋の性格から陸軍と協力して妥協できる所は妥協して協力できる所は協力していこうとする方針が目に見えていた。予算不足に悩む陸軍としては予算節約になるかもしれないと思い土屋が海軍大臣になることに賛成していた。


「それは内密にお願いします。それと第一派遣艦隊の司令長官は誰が?」


派遣艦隊の編成が後任の人事局長の手にあったからだ。藤伊が事前に後任の局長に渡していたのである。


「はぁ~。松本大将だよ。全く、わし一人に任せておけばいいものを…。」


土屋はため息をつきながら言った。相当厄介な問題ことであった。


大日本帝国海軍が欧州に派遣した艦隊は2つあった。1つは艦隊派の松本海軍大将が指揮する超弩級戦艦扶桑を中心とする第一派遣艦隊である。


2つ目は知識派の土屋海軍大将が指揮する巡洋戦艦金剛、比叡、榛名を中心とする第二派遣艦隊である。


艦隊が2つ存在することには理由がある。艦隊派遣を約束したのは東郷元帥であった。ただ、艦隊派遣に多額の金が掛かると予想した議員や国民から反対が多くあった。


政府としてイギリスと約束してしまった以上に艦隊派遣は絶対に行う必要があった。派遣する艦艇ができるだけ稼働可能状態で帰国してほしかった。


その当時第二艦隊司令長官で人命優先の考えで慎重な土屋なら被害を最小限に抑えて帰国してくれると思い海軍は派遣艦隊司令長官に任命した。


政府としても土屋の司令長官就任は賛成した。知識派のトップが就任したなら知識派を支持する人々が反対しなくなると考えたからだ。だが艦隊派は反対した。


東郷元帥の発案なら所属する艦隊派のメンバーが長官になるべきだと。武力衝突しそうな勢いであったため山本権兵衛海軍大臣の提案で派遣艦隊を2つに別けることになった。


土屋が海軍大臣に就任することを永久に辞退する条件で第二派遣艦隊に金剛、比叡、榛名の編入が認められた。なお、霧島は建造中である。


「松本大将とはまた厄介な相手ですね。…まさか、…伏見宮大佐も乗艦していますか?」


このことは藤伊にとってすごく重要なことであった。共に行動するとなると嫌でも伏見宮少将と顔を合わせなくてはならないからである。


「大佐でなく伏見宮少将な。彼も乗艦しとるな。第一派遣艦隊参謀長としてだがな。こっちの参謀長は鈴木貫太郎海軍少将だ。」


「少将ですか…。でも、第二派遣艦隊は水雷専門の方が参謀長で心強いです。」


藤伊は一瞬すごく嫌そうな顔をしていた。


「お前も現時点をもって海軍中佐になり参謀として第二派遣艦隊の旗艦金剛に乗艦してもらうぞ。」


「ありがとうございます。でも昇格とは、色々奮発しましたね。なんとなくわかっていましたけど…。では参謀として聞かせてください。第一派遣艦隊と行動を共にしますか?」


「しないな。いや、しろと言われても無視して絶対に共に行動することはない。」


土屋は敵であったほうがよかったような言い方で言った。


藤伊が危惧していたことは鈍足戦艦と共に行動すると高速巡洋戦艦である金剛型の27.5knについてこれないからだ。そのため扶桑の速力に合わせて行動しなくてはならなくなるからである。


第二派遣艦隊の編成は巡洋戦艦金剛型3隻(旗艦金剛、比叡、榛名)、筑摩型防護巡洋艦1隻(矢矧)、樺型駆逐艦8隻の合計12隻の艦艇である。


第一派遣艦隊の編成は超弩級戦艦1隻(旗艦扶桑)、筑摩型防護巡洋艦2隻(筑摩、平戸)、樺型駆逐艦6隻の合計9隻の艦艇である。


樺型駆逐艦は本来なら10隻しか建造されないはずであったが欧州に艦隊派遣が決定している状況であったので史実の10隻より18隻に増加されていた。そのことが影響して扶桑型戦艦2番艦山城の竣工日が史実より大幅に遅れてしまうであった。


「デヴィッド・リチャード・ビーティー中将の指揮する巡洋戦艦部隊のいるフォース湾の要塞基地ロサイスに第二派遣艦隊がいることは知っています。第一派遣艦隊はスカパ・フローですか?」


「そうだな。わしは寒い所が嫌いだからスカパ・フローを無視してグレートブリテン島の北海側の真ん中にある海軍基地のロサイスに入ってやったぞ。ワハハハ。」


藤伊はだんだんこの爺さんも大胆な行動を取る様になったなぁと思っていたが顔には出さなかった。


派遣艦隊はシンガポール、セイロン島、スエズ運河、ジブラルタル海峡を経由してイギリスに来た。ドーバー海峡の通過が危険と判断されていたのでグレートブリテン島を迂回して第一派遣艦隊はスカパ・フロー、第二派遣艦隊はロサイスに到着したのである。


スカパ・フローはスコットランドの北端にあるオークニー諸島で形成されている天然の入り江である。外海とは細い水路で繋がっているためイギリス艦隊が史実でも第一次世界大戦、第二次世界大戦の時も使用していたのである。


予定では第一派遣艦隊と第二派遣艦隊ともスカパ・フローに到着するはずだった。土屋が松本の艦隊と一緒に作戦行動をともにすることが難しいとイギリス海軍に大使館経由で訴えていたので第二派遣艦隊はロサイスに入港できたのであった。






ロンドンにあるイギリス海軍省で大日本帝国海軍派遣艦隊の今後の方針についてイギリス海軍高官達が議論していた。


『ふーむ、日本海軍か…。アドミラル・ツチヤとアドミラル・マツモトの2つの艦隊か…。』


顎に手をやりながら第一海軍卿であるサー・ヘンリー・ジャクソンは考えていた。第一海軍卿とは日本でいう軍令部総長である。


『ツチヤの艦隊は勝手に行動しそうだ。マツモトの艦隊の方が扱いやすいと思う。』


考えている第一海軍卿に海軍大臣のバルフォアが資料を渡しながら言った。


『ではツチヤの艦隊は偵察命令を出して戦場に来させないようにしよう。』


ジョン・ジェリコー大将はスカパ・フローにいる大英帝国海軍大艦隊の指揮官である。スカパ・フローに来なかったツチヤを嫌っていたのであった。ツチヤには土俵の外で戦いを見させておきたかったのであった。


そのため損害が出ないような誰でも賛成できそうな偵察専門の艦隊にする案を提案したのだ。


『大将!待ってください、それはおかしいと思います!ツチヤの艦隊も貴重な戦力のはずです!』


ツチヤの艦隊が入港したロサイスにいた巡洋戦艦部隊の指揮官であるデヴィッド・リチャード・ビーティー中将は急いで話を遮った。


『大英帝国海軍がドイツ艦隊にやられるわけはないだろう。少し落ち着きたまえ、デヴィッド・リチャード・ビーティー中将。怒鳴るなんて君らしくもない。』


『そうだぞ、ジョン・ジェリコー大将の言うとおりだ。』


『しかし、バルフォア海軍大臣。ツチヤの艦隊は高速部隊です。彼の部隊は最高速力27.5knで海上を移動します。』


ツチヤの艦隊の長所を伝えることでこの場を乗り切ろうとしていた。


『君が彼の艦隊を指揮下に加えれるとでも思っているのかね?』


ジェリコー大将はビーティー中将に呆れたように言った。


『そ、それは………難しいかもしれません。…私が海軍中将であり、ツチヤ…が海軍大将であるからです。』


ビーティー中将は拳を握りしめながら話した。これはどうにもならない問題だった。同盟国であっても自分よりも上の階級の者を階級の下の自分の指揮下に置くことは出来ないからだ。あまり、このことを言いすぎると自分が指揮官を左遷される可能性があった為強く言えなかった。


『それと同盟国の日本国民や兵士たちの信頼を損なうような行動に繋がってしまうため我々としてもツチヤには強く言えないのだよ。艦隊行動を重視するためにツチヤの艦隊が加わることだけは容認できない。』


バルフォア海軍大臣はビーティー中将に心の中で謝りつつも許可しなかった。イギリス海軍と密接な連携を取るにはマツモトの艦隊が最適だとジェリコー大将が事前に伝えていたからだ。


バルフォア自身も超弩級戦艦扶桑を中心とした第一派遣艦隊に期待していた面もあったからだ。


『ツチヤの艦隊は偵察艦隊とする。マツモトの艦隊はスカパ・フローにいる大英帝国海軍大艦隊と行動をともにすることに決定する。』


ジャクソン第一海軍卿が決定事項を伝えた。


第二派遣艦隊は事実上偵察の艦隊として戦力外と見なされたもの同然だった。しかし、裏を返せば独立した行動をとれる艦隊としてイギリスが認めてしまっていることでもあった。まだ、このことに気づいている者はいなかった。



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