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革命の前に

タイトルが微妙…。

1912年5月29日



パーティーに出発する前、藤伊はデニスの店に来ていた。


『情報によるとこのパーティーには皇帝一家が参加されるようじゃ。あとお前さんが知りたがっていたジェーコフという若者を見つけたぞ。毛皮職人見習いとしてモスクワにおる。』


デニスはジェーコフの写真を見せながら言った。


『ありがとう。鉄の価格はどうだ?』


藤伊は借金をしながらロシアと北欧の鉄を買い占めていた。第一次世界大戦時に高い価格でロシア、ドイツに売ろうとしていたからだ。


『うなぎのぼりで上がっとるぞ。』


デニスは内心呆れながら言った。


『なら良かった。』


この鉄の買い占めては藤伊にとって一種の賭けだった。イギリスの銀行と日本の銀行から融資を受けたからである。イギリスの銀行には建造中の金剛型巡洋戦艦:榛名、霧島の予算で返済するから大丈夫だと説得した。


ここで藤伊が借金の返済が出来ないと日英同盟が崩壊してしまうかもしれないからだ。しかし、返済開始時期は1915年以降と契約してあった。


『大規模な戦争が発生すればドイツとロシアで鉄不足が起きるのう〜。貴族達の出口も作っておけばいいな?』


デニスは藤伊の目論みに気づいていた。だから、失敗したら自分達も巻き添いをくらうと感じていた。デニスは部下に失敗したら命がないと思えと厳しくいっていた。


貴族達の出口をこちらが作れば、貴族達の行動が簡単に予想できると考えていたからだ。貴族とデニスが言ったのは、皇帝一家を革命派のエサにして他の貴族達の脱出の手助けする計画と藤伊に伝えていた。


『ああ、頼む。』


藤伊自身はロシア革命で貴族達の財産を得ることができれば目的達成ができるから皇帝一家の死に興味がなかった。


ロシア革命中にジェーコフの暗殺も藤伊は企んでいた。ジェーコフはソ連の有能な将軍となる人物である。ソ連に有能な将軍がいると藤伊の将来の移民先と考えているスウェーデンが被害を受けるかもしれないと思っていたからだ。


相変わらず、自己中心的な考えの奴であった。







【このパーティーは腹探り合いだな。それと貴族や資本家達の息子、娘の結婚相手探しでもあるな。】


藤伊はパーティー会場の隅にいて出席者たちを観察していた。パーティーには若い10代と思われる貴族達や資本家達の娘、息子がそれぞれの親に付き添っていたからだ。


藤伊が観察していると同時に藤伊もベルギー大使、イギリス人の投資家、イギリス軍人の3人グループに見られていた。


『おい、誰だ?あの隅に立っている軍人は?』


ベルギー大使が目で藤伊を指しながら言った。


『え?どこだ。』


投資家はキョロキョロ周りを見渡していたが藤伊の場所がわかっていなかった。


『手にグラスを持って身長が180cmぐらい軍人だよ。』


『あいつか。あの軍服……どこの国の軍人だ?』


『こっちも知らんよ。大佐はわかるか?』


『イギリスの軍人ならほとんど者が知っている軍服ですよ。大日本帝国海軍少佐ですよ、彼は。』


イギリス軍人の大佐は藤伊の軍服を見てすぐに大日本帝国軍人だとわかった。イギリスでは日露戦争時に大量の観戦武官を日本に派遣していたからである。


多くのイギリス軍人にとって日本がロシアに勝利した驚きがあったため日本の軍服は目に焼き付いていた。


『大日本帝国海軍か………、アドミラル・トウゴウが有名だな。』


ベルギー大使が呟いた。欧州では大日本帝国海軍=アドミラル・トウゴウとなっていた。日本海海戦で自軍に損害をほとんどださずにロシア・バルチック艦隊を壊滅させたからだ。独自の戦法であるT字ターン(トウゴウ・ターン)を使用したことも有名であった。


『ロシア滞在の武官ではないはずだが、なぜ招待されているのだ?』


投資家は力を持たなければパーティーに参加出来ないから駐露武官でない海軍少佐がパーティーに参加できるはずがないと思っていたからだ。将校クラスなら投資家も納得したかもしれない。


『軍人の私にもハッキリと分かりませんが軍人というよりは投資家の気がします。理由は軍情報部からの情報で我が国の彼の銀行の口座に大金が継続的に振り込まれているからです。』


イギリス軍の大佐はそう答えた。イギリスにとってベルギーは大陸列強ドイツ帝国のイギリス侵攻を妨げる防衛上の重要な国であった。


ベルギーに好印象を与えておけば、ベルギーがドイツに接近することはないとこの当時のイギリスで考えられていた。


『ベルギーの情報部は怠慢しとるな。駐露ベルギー大使であるこの俺が知らないとは…。』


大使は自国に呆れながら言った。


『まあ、投資家の自分が知らなくてしょうがないな。』


イギリス人の投資家はロシアの資源開発会社に融資していたのでパーティーに招待されていた。


ベルギー大使とイギリス人の投資家はアジア人がこのパーティーにいるのが気にくわないようであった。そのため藤伊に興味を失ってどこかに行ってしまった。







「やあ、藤伊少佐。はじめましてだね。文通相手の本野一郎駐露大使だよ。」


本野は藤伊に近づいて声をかけた。


「はじめまして、本野大使。大日本帝国海軍少佐の藤伊栄一です。」


「手紙に書いてあったように君をニコライ大公に紹介するよ。紹介したらその後の対応は自分で頼むよ。僕はロシア外相と細かい打ち合わせがあるから。」


「ありがとうございます、本野大使。」


「うん。では行こうか。」





『ん!本野大使、横にいる軍人は?』


ニコライ大公が会場のテラスに出たのを見計らって藤伊と本野は近づいた。


『ご紹介します。彼は藤伊栄一海軍少佐です。』


本野は藤伊を紹介してニコライに一言掛けて去っていった。


『はじめまして大公閣下。藤伊栄一海軍少佐です。大使とは文通仲間です。』


藤伊は流暢なロシア語で挨拶した。


『なんと!貴官はわが祖国のロシア語が話せるのか。私もフランス語で会話するのは疲れるのだよ。ロシア語で話すのが一番ラクだ。貴官はロシア語以外どんな言語を話せるのか?』


ニコライは藤伊がロシア語を話したことに関心していた。普通の場合だとヨーロッパのこの当時の共通語のフランス語で挨拶されるのがいつもパターンだからだ。


『はい。フランス語、英語、スペイン語、オランダ語、イタリア語、ドイツ語が話せます。』


ロシアの同盟国であり友好国のフランスから順に仮想敵国であるドイツが最後にくるように言った。最初に敵対国であるドイツの言語を言うことは相手に失礼だと思ったからだ。


『おお、すごいな。つまり貴官は前線部隊の者でなく後方部隊の所属だろう?そうだな事務関係だろう?』


多言語を操る藤伊が前線部隊所属のはずがないと思ったからだ。軍隊の中にも藤伊のように多言語を操る人物は中々いないものである。


『さすがは閣下です。正解です。自分は海軍の資源開発関係の事務をしておりました。』


ニコライを尊敬するような声で返答した。藤伊自身はニコライ大公なんて自分のATMとしか思ってなかった。


『ほう、資源開発関係か。で、我が国のどこで開発事業をやりたいのだ?』


資源開発関係の者だということは資源開発の話をするために自分に近づいてきたと判断できるからだ。だが、藤伊が皇帝にこの話をしなかったことは評価していた。ロシア帝国現皇帝ニコライ2世は決断力に欠ける人物だったからだ。


決断に迷ってしまうと皇后である妻のアレクサンドラに助言を求めてしまっている状態であった。更に悪いことに皇后アレクサンドラはラスプーチンの信者となっていた。


整理するとラスプーチンが皇帝を意のままに操っている状況になりかけていた。いや、もうなっている状況であった。ニコライ大公はそのことを理解していた。


そして秘密裏にロシア領内で資源開発事業を日本がやりたがっていることも予想できた。


『樺太です』


『樺太だと…。日本からはとても近いな。どこでどのように開発するのだ?』


ニコライはロシア全土の地図を頭の中に浮かべて数秒考えた。極東の日本が南半分を領有し、ロシアが北半分を領有している北海道の上にある縦に長い大きな島である。島と言っても大きさは北海道よりやや小さいだけである。四国、九州よりは大きい。


『北樺太のオハと呼ばれるは油田のある場所です。結論を言います。北樺太を日本とロシアで共同開発しませんか?』


史実でも1919年以降から石油採取がされた地域である。ただ、ソ連と日本の関係改善が1941年から終戦までの4年間ほどであったので石油採掘重要地域とされなかった。


『断る。私の一存で決められるのものではない。我が国は今、それどこれではないのでな。』


ニコライはそう言うと背を向けてどこかに立ち去ろうとしていた。


『ロシアの革命ですか?』


藤伊はニコライ大公のみに聞こえる小さな声で死神が地獄に誘うようなゾッとする口調で言った。


『なっ!!今、なんと言った?』


すぐに後ろ振り返って藤伊を問いつめる口調で言った。藤伊の口から革命と言う言葉を聞いて素の部分が出てしまったのだ。


『ロシアの革命を危惧してなされているのでしょうね。まずはこの会計資料を見てください。ロマノフ家の資産額ですよ。』


ポケットの中にしまっておいた一枚の紙を差し出した。


『毎年少しずつ減っている。出費が極端に増加している時期があるぞ。まさか、誰かに財産の一部がわたっているのか?』


読むにつれてニコライの手は震えだしていた。自分の愛するロシア帝国が堕落している現状を見せつけられたからだ。それ故、ニコライは冷静さを少しだけ失ってしまった。それが藤伊の罠だとも知らずに…。


『はい、そう考えるのが妥当であると思います。可能性は十分にあります。その者たちの手の届かない場所に移しておくべきだと思います。』


『財産の一部を海外の銀行に移しておくことがよいな。だがな、理由がなければ海外の銀行に資産を移すと横から色々言われてしまうぞ。』


大量の金を海外の銀行に移すとなれば何かしらの理由がいる。まして、ロマノフ家の財産絡みの問題の為に一時的に避難させたなんて言えない。公になれば、ロシアの信用が失われて外国からの融資や援助を受けにくくなってしまい、国家運営に影響が出てしまうからだ。


『だから、油田開発ですよ、閣下。日露共同と言っても海外の銀行に財産を移す口実なだけですよ。』


『我が国の国内の情勢が安定したら貴国は勝手に開発を進めようとしてしまうのだろう?そうなればロマノフ家の損だ。貴官の真の目的はなんだ?』


一応、藤伊の案は理にかなった理由として金を移すことが出来ると感じていた。藤伊を完璧に信用できないため魅力的だと思いつつも目的について聞いた。自分が納得出来る答えでなければこの話を白紙にしようと考えていた。


『ドイツを潰したいのですよ、閣下。そのためには貴国に協力することがよいと自分の上官が判断されました。それと信用のために契約書を書きましょう。』


ロシア、イギリス、フランスが今のロシア帝国の同盟国と言ってもよい国である。ドイツ、オーストリア=ハンガリー帝国、イタリア王国の三ヵ国が仮想敵国であった.イギリスと大日本帝国は同盟国である。日本がイギリスの同盟国ロシアを攻めることはほとんどないと考えられていた。


『まあ、協力国となってくれるのならばいい。だが、貴官と私では契約書での対等な関係になると思うかね?国際的な信用がある人物とならしてもいい。』


海軍少佐では契約破棄しても日本が素知らぬ顔でいる可能性を考えたからであった。


『いいえ。日本側の契約される方は乃木希典陸軍大将です。』


『ノギか…。ノギなら国際的な信用もあるし…。いいだろう、ノギとなら契約してやる。』


ノギまで操ることが出来るものかと思いながら藤伊を見ていた。


『ありがとうございます。』


『明日にでも大使館に向かう。』


藤伊の顔をしっかり見て去っていった。


『はい。お願いします。』


ニコライの背中を見ながら藤伊は微笑んでいた。


ロシア革命の為の準備が終わったからであった。



なんかダラダラになってきた…。

第一次世界大戦に突入すれば改善できる…かも…。

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