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扶桑(1912年3月25日)

戦艦扶桑についてです。

戦艦扶桑、史実では目立った活躍もなく海に消えた。その扶桑について海軍内部で意見が二つに分かれていた。


扶桑に海軍高官たちの注目を集めさせたのは海軍少佐の藤伊栄一である。




1912年3月25日


海軍省のとある会議室に海軍高官と藤伊が集まって議論していた。議論の内容は1912年3月11日より呉海軍工廠で建造が開始された扶桑についてであった。


扶桑の早期戦力化のために建造費増額を主張する早期完成派。日英同盟があるから早期完成する必要なしと主張する反早期完成派。大きな長方形のテーブルを2つ挟んで右側に早期完成派、左側に反早期完成派のメンバーがそれぞれ10人ずつ向かい合って座っていた。


完成派の末席に藤伊は座っていた。海軍大臣の斎藤は完成派と反対派の上座に座っている将校の間の全体が見渡せる真ん中に座っていた。


「なぜそんなにも早期に完成させなければならんのだ!別に急ぐことでもないだろう!」


開始されてまだ数分しか経っていない議論にうんざりした短期で有名な反対派の松本和横須賀鎮守府長官が立ち上がって叫んだ。


松本和は1908年8月から1913年12月までは史実なら艦政本部長であった。藤伊は1914年1月のシーメンス事件で松本が失脚し、その影響で海軍が国民の支持を失ってしまうことに気付いていた。


今は何の罪もない海軍中将の松本を地方に左遷することが出来ず横須賀鎮守府司令長官にするのが精いっぱいだった。


故に1908年8月から艦政本部長は加藤友三郎中将になっていた。加藤も呉鎮守府長官、第一艦隊司令長官となっていくはずだったが海軍高官の中でも知識人されていたので土屋は話が出来ると判断して艦政本部長に任命したのである。


「まあまあ、松本中将落ち着いてくだされ。自分の意見を言うだけでなく理由も説明してくれんか。」


斎藤は短期な松本も扱いには疲れると思いつつなだめるようにいった。海軍大臣である斎藤はどちら側にも付くことができないため仲介者となっていた。ただ内心では藤伊がいる早期完成に賛成であった。


藤伊に逆らわないほうが安全で尚且つ自分にお零れをくれると思っていたからであった。斎藤は以外にセコイ奴である。


「日英同盟がありますので早期完成にはメリットが少なすぎます。英国と共同で防衛すれば他の欧米諸国も簡単に我が国攻撃を仕掛けないと考えます。

更にロシアと我が国では日露戦争後から関係回復となっています。これらの理由から早期完成する必要がないです。」


松本は海軍大臣や自分より上の階級の者が会議に参加していることに気づき冷静さになって説明した。


【へぇー。海軍中将だけあって上官がいるとすぐに冷静さを取り戻すかぁ。海軍中将だもんね。これくらいできて当然か。ではそろそろこちらも反撃しますか!】


「松本中将に質問します。我が海軍の戦艦が欧米列強と今まともに戦えると思いますか?」


藤伊は会議に出席しているメンバー全員に聞こえるように言った。


「くっ!……難しいだろう。だが英国と協力すればいい!」


「イギリスは最新の軍艦を日本に派遣してくれませんよ。日露戦争の時に派遣してくれませんでした。そのため我が海軍主力で日本海海戦を戦うことになりました。なので、イギリスははっきり言って完璧に信用が出来ません。」


藤伊はメンバー全員に日露戦争の資料本を見せながら言った。藤伊が言うことも正しいかったので誰も反論しようとはしなかった。


「では、早期完成の方針で決定だな。次はどれだけの予算を増額建造費に充てるかだな。双方の提案を教えてくだされ。まずは賛成派から聞こうか。」


斎藤は勝手に賛成派の意見を採用してしまった。反対派の意見なんか最初から聞く耳を持たなかったのであった。


賛成派には海軍中将の土屋海軍人事局長を中心とする知識派の加藤友三郎艦政本部長、財部海軍次官、八代海軍大学校長、海軍大佐の鈴木貫太郎水雷学校長、海軍少佐の藤伊人事局長秘書がいる。他に艦隊派の皇族の伏見宮博恭王大佐、杖次信正少佐などが賛成派にいた。


艦隊派は藤伊が毛嫌いしている精神論的な考えをする者が集まっている派閥である。東郷平八郎もこの艦隊派に属する。艦隊派は東郷平八郎をマスコットにして何かと強引に意見を通そうとすることが多々あった。


艦隊派と知識派は海軍内でも対立が激しいことが有名である。艦隊派には海軍大将や海軍大佐、中佐、少佐が多くいた。日露戦争の英雄達は艦隊派に属している。


ただ、扶桑建造費増額により横領者達をあぶり出すためには艦隊派と知識派の協力が必要であると藤伊は考えていた。横領者の中には海軍将校クラスの者もいると事前調査でわかっていたからである。


反対派は所謂多額のお金を流用していたメンバーであった。扶桑の建造費増額になってしまうと横領していたことが公になると考えていたので大反対していたのであった。


建造費増額になっても大幅な増額でなければ発覚しないと予想しているので賛成派に譲歩して少量の増額に留めておこうとしていた。



「民間で建造中の巡洋戦艦の予算の一部を回します。まずはイギリスのドレットノートクラスの戦艦を保有することが優先事項と判断しました。

巡洋戦艦では他国に威圧を与えることが難しいと考えています。巡洋戦艦よりも超弩級戦艦です。」


「異議あり!建造中の巡洋戦艦の竣工が遅れる可能性がある!全国で寄付金募集し、それを予算にすればいいと考えます。」


「では松本中将閣下も多額の寄付をされるはずですよね!言い出した本人なのですから!」


「な…!そ...れは...。それよりなぜ海軍少佐が儂に意見しとるのか!!!」


松本は藤伊の質問に返答することができないため配られていた資料紙を握りつぶしていた。さらに藤伊に対して怒りをぶちまけていた。


「私も意見させてもらいます。藤伊少佐の意見は理に適っていると思います。最新戦艦は大きな抑止力となると考えているからです。

ただ、巡洋戦艦がいらないとは言っていません。巡洋戦艦も戦力としては戦艦に劣るとしても素晴らしい活躍をすると思っています。」


今まで影を潜めていた皇族の伏見宮大佐が意見したことに藤伊以外は驚いていた。


【伏見宮大佐は好きになれない。たまに自分が親分のような振る舞いを自分より階級の低い者にするからな!その上、上官には敬意を示すし…。自分が目立ちたがりの性格も何とかしてほしい。

あと、人の手柄を横取りするのやめろ!まあ、でもここは賛成しておかないとこの後の政策がやりにくくなるからな。賛成するか。】


「自分も大佐の意見に賛成です。」


敢えて本名を呼ばなかったのは・・・お前なんか名前を覚える必要に感じない人物だ・・・と表していたからである。ただ、伏見宮はこのことに気付いていなかった。知識派のメンバーは・・・こいつ将来的には艦隊派を中央から遠ざけるつもりだな・・・と普通に推測されていた。


知識派メンバー達はまた協力させられるのかと内心嘆いていた。藤伊は協力してもらったらアメを渡しているから次も協力してくれると考えていたので知識派メンバー達の思いに興味がなかった。


「ふむ。では巡洋戦艦の竣工時期の大幅な遅れとならないようにする条件で巡洋戦艦の予算の一部を回すことに決定しよう。藤伊少佐、松本中将の双方それでいいかな?」


「はい。ありがとうございます、海軍大臣閣下。」


「はい。ありがとうございます。斎藤海軍大臣閣下、松本中将閣下も自分の意見を聞いてくださってありがとうございます。」


藤伊にとって巡洋戦艦の予算の一部が回せることの許可さえもらえればよかったのである。


なぜならこの会議で具体的な予算額が決まることはないと考えていたからだ。増額費を決定するのは新たに設置されるであろう別の委員会だと思っていたからだ。それで海軍少佐が委員会の委員長になれるように海軍大臣の斎藤に取り計らってもらっていた。


海軍将校や、大佐や中佐が事務作業的なことをやりたいと思うはずもないため委員長に藤伊がなることは会議が始まる前から決定していたのである。







《《 《《英語で会話中》》》》



『ようこそ、駐日英国大使館へ、ミスター藤伊。』


『ありがとうございます、サー・ウィリアム・カニンガム・グリーン。』


藤伊は会議終了後すぐに駐日英国大使館に来ていた。


『今日はどんな用件で来られたのですか?』


『我が国と貴国イギリスは同盟関係にあります。この同盟のおかげで先の戦争では勝利することができました。よって日本もイギリスに何かしらの危機が発生した場合、戦艦を中心とする支援部隊を派遣することに決定しました。』


『ほう、それはありがたいことです。たが、旧式の戦艦部隊を欧州に派遣されても戦力にならないと思うが…。』


大使は飲んでいた紅茶の入ったカップを置いて言った。


『ご安心ください。只今建造中のドレットノートクラスの戦艦1隻が後4年以内に竣工しますから。欧州での戦争には間に合わせるため先ほど建造費増額が決定しました。』


『藤伊少佐、あなたはどこまで欧州のことを知っておる?』


大使は耳を疑いたくなるようなことに気づいていた。それ故、藤伊の情報を聞こうと思ったのであった。


『ドイツ、オーストリア、イタリアの同盟が一枚岩でないこと。ロシアが我が国との戦争でイギリスに大幅な遅れをとったこと。バルカン半島で民族間の争いが激化しているなどぐらいしか知りませんよ。』


藤伊は淡々と述べた。


『そうか、わかりました。本国に伝えておきます。』


大使は感情が顔に出ないよう短く言った。とても驚いていたからだ。


藤伊は小さな茶封筒を大使館に置いて出て行った。








『旦那様、これが机の上に置いてありました。差出人はアドミラルトウゴウです。宛名には旦那様の名前が書いてありました。』


使用人がそう言ったのを大使は聞いた。ただそれを聞いて茫然としていた。その後中の手紙を見た。


『あの少佐が言っていたのは我が国大英帝国に対するポーズでないのか。アドミラルトウゴウが支援部隊派遣を約束するだと…。タイミングが良すぎる。

まさかこの国は海軍が持つ秘密諜報機関が存在するのか。』


大日本帝国海軍に秘密諜報機関なんて存在しない。藤伊が前世の知識から事前に対策の手を打っているだけである。そんなことは大使が知っているはずない。


欧米列強諸国からしてみれば日本は二流国家であった。情報が海外にダダ漏れだったからだ。所詮アジアの国に欧米並みの諜報機関が設立できるはずがないとも思っていた。


だが、欧州戦争に備えて戦艦早期完成を海軍が掲げるなんて独自の諜報機関がないと不可能に近いからだ。ちゃんとした情報がないと組織が180度方針を変えることは難しい。だから早期完成の建造費増額に驚いたのであった。


『本国に報告する理由ができたな。支援部隊派遣よりも重要な案件がな。大日本帝国海軍に秘密諜報機関の存在の可能性大と。その諜報機関は政府、陸軍にも属さない。

恐ろしいな。将来日本の海軍は世界最強の海軍になるかもしれんな。』


そう言いながら大使はメモを書きながら微笑んでいた。










その頃斎藤海軍大臣は最新戦艦予算会計委員会のメンバーを選んでいた。


「委員長は藤伊少佐で決定だが…。メンバーどうしよう?迷うな…。そうだ!人事局に任せよう。」


斎藤は建造費増額の件のメンバー決めについて人事局に丸投げすることに決めたのであった。


人事局ではやらなければならない仕事が増えてしまい完全にキャパオバーしてしまった。そのため新たに人事局に職員を補充することになった。これにより、有能だがポストの不足により昇格できずにいた軍人たちを昇格させて人事局職員とした。


よってキャパオバーから従来の職員達は解放された。新しい職員達も昇格できてwin winな状態であった。



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