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気持ちの問題

この時代にヨーロッパに行くことは明治初期と比べれば格段に行きやすくなった。最大の理由はロシア帝国のシベリア鉄道が開通したことだ。陸路で欧州に日本から20から30日に行けるようになった。


ウラジオストック~モスクワ間の距離は約9500㎞もある。時速約800㎞で飛ぶ大型ジェット旅客機でも約12時間ほどの距離であるからとても遠い。


このシベリア鉄道と日露戦争には繋がりがある。日露戦争直前の日本とロシアの交渉はまとまらないまま時間だけが過ぎていく状態であった。


日本政府はロシアが建造中のシベリア鉄道が完成してしまうことを恐れていた。シベリア鉄道開通で極東に大量のロシア兵士派遣するが容易になることであった。


ロシアはその当時強国であり、日本が新興国。軍備、経済力と比べても日本はロシアに完敗だった。ロシアは広大な国土を有しているがゆえに長い国境線上に兵士の分散配置となっている。それにより極東に配置されえているロシア兵士と全日本陸軍兵士の総数に差はほとんどなかった。


しかし、シベリア鉄道が完成すると状況は変わってくる。ロシア全陸軍VS全日本陸軍となってしまっては絶対に日本が負ける。そのため、ロシアとの交渉による戦争回避が不可能と考えた政府はシベリア鉄道完成前に戦争をしたのである。


シベリア鉄道完成は日露戦争中であることから後一歩遅れていたら日露戦争の結果が違ったかもしれない。



1912年3月16日


藤伊は山本に会うため横須賀へ来ていた。横須賀鎮守府の来客室を借りて山本と藤伊は向かい合って座っていた。来客室には2人だけである。


「藤伊、お前が横須賀にいていいのか?本当なら今頃、神戸にいるはずなのに…。」


「別に俺がいなくてもいいだろ。」


そう、今日は神戸で金剛型巡洋戦艦3番艦の起工式があった。藤伊は初の民間造船所での巡洋戦艦起工式があるため出席する必要があった。


藤伊は人事局長が行くだろうと思っていたし、局長の土屋は藤伊か角田のどちらかが行くだろうと思っていた。角田は補佐が行くべきでないと判断していた。そのため起工式で人事局は誰一人出席しなかったのである。


起工式の最前列には人事局の人が立つ一人分のスペースが空いていた。このスペースことを造船所の作業員たちは《絶対不可侵領域》と呼び始めていた。侵してはならない場所。今までの古い考え方でしか判断出来ない現在の海軍高官たちが人事局を恐れていることを知っていたからでもある。


それ故、起工式出席者の海軍高官たちは人事局のスペースが空いていても気にしない素振りをしていた。


「勝手にしろ。横須賀鎮守府にも呆れる。人事局と言えば大きな部屋を貸してくれるとは。」


「いいじゃないか。横須賀鎮守府の長官は気がきいて。ここなら重要な話もできるしな。」


横須賀鎮守府は人事局の機嫌をとっておくことが良いと考えていた。横須賀鎮守府の士官たちは人事局内で横須賀鎮守府の評判が上がり、自分たちの異動先を良い所にしてくれると思っていた。それで、藤伊に海軍高官が来た時に使用する来客室を貸していた。


「で、用件は?」


山本は腕を組みながら面倒なことを押し付けるなよと目で藤伊に訴えていた。藤伊が急に呼び出す時は面倒なことを押し付けるためだと知っていたからである。


「俺がヨーロッパに行くから、お前に一時的な俺の日本での代理人になってほしい。やることは簡単だ。大手造船会社の株式を俺が用意した資金の全部利用して買い占めろ。

3月中には用意する。見返りはお前が海軍大将にでもなったら、俺の資金で1隻の船を作ってやるよ。」


【後20年以内だろう。それまでに資金をためるなんて簡単じゃないか!チョー余裕だぜ!】


藤伊には2億円ぐらい後20年以内に用意できる自信があった。転生者でなくても藤伊は同じようなことを言うはずだろう。


なぜなら、前世で藤伊は絶対に将来お金持ちになると決めていたし、自分がなれる自信があったからである。そう、自分はお金持ちになれると思って積極的に能力開発セミナーに通ったり、自己啓発を読んだりしていた。


つまり、自分に投資して、積極的にチャンスをつかもうとしていた。お金の本質を知ろうとしていた。お金に対して偏見を持たないようにして、大金を自分に稼げないと思わないようにしていた。


自分の努力を信じていたなどをほとんど人が考えないことをやっていた。


このことからお金についての価値観が藤伊は一般人と違った。


「戦艦を作れと言って作るのか?」


疑うような目で質問した。


「25年後には1億円ぐらいの資金の用意が出来るさ。ああ、それとお前が日本大使館付武官になれるような人事異動をする予定もある。1920年以降になるがな。」


戦艦大和の建造費は約1億6000万円ほどである。翔鶴型航空母艦の建造費は約9000万円である。もし、この話を山本が覚えていたなら、3隻目の史実にない翔鶴型航空母艦が出来るかもしれない。


なぜなら山本は空母が太平洋戦争の中心となる艦艇と考える人物であるからだ。


「メリットが大きいから協力しよう。」


「ありがとう山本!博打好きのお前が協力してくれなかったら、どうしようと考えていた。」


藤伊は博打好きの山本が断ったら、父親の一郎に頼もうと思っていた。あんまり、父親に頼みたくなかったから山本が引き受けたことに藤伊は内心とても喜んでいた。


【よし!これで大戦好景気で儲けられる!1918年に株式を全部売却すれば、大量の資金が手に入る。

それに資金援助したイギリス人が利益の一部を俺のロンドン秘密口座に振り込んでくれるから現在の資産額は約300万円。資産の9割ほどのは日本の造船会社の株式を購入しよう。残りの1割は欧米企業の株式を購入だな。

欧米の株式はまだ、よくわからないから1割でも多いかもしれないかな。でも、貯金したままにしておくのはよくない。死んだ金になってしまう。投資して利益を得るべきだな。】


「今度はこっちから質問する。どうしてお前が海軍少佐の軍服を着ているのだ?海軍少佐には30歳を過ぎてから昇格するのが伝統であろう。」


「海軍少佐になれたのは天皇陛下の影響だよ。乃木閣下の生きる希望を持たしてくれたお礼だよ。海軍にとって乃木閣下が死んでも関係ないから俺の昇格には海軍全体が反対した。

でも、そんな時ある事件が起こった。まあ、俺はいなかったから聞いた話だけど武装した一部の反対派が人事局に乗り込んで来たらしい。俺を暗殺でもしようと来たんだと思う。

けど、人事局の他の職員(海軍軍人)に全員殺された。」


「は!どういう意味だ?武装した軍人が事務作業専門の軍人に殺されただと!そんなバカな!」


山本は驚きの声を挙げた。


「簡単だよ。事前に彼らの動きを察知していたんだ。準備が出来ていたから全員殺せたんだよ。」


藤伊は冷酷な目をして全く無関心であると表すような態度でいた。藤伊にとって襲撃した奴らなど死ねばいいと思っていたのであった。


「く‥!うーん…。殺す必要はないと思う………。事前に察知していたのなら捕まえることもできたのではないか?」


山本はこの計画の発案者が藤伊であることを悟ってしまったので強く言えなくなってしまった。藤伊が冷酷な目をした時は特に危険であり、味方の頼りになることも知っていた。


敵は人事局に反対する旧体制の考えから抜け出せない者たち。味方は新体制になろうと努力する者たち。敵を人だと思わなくなってしまい、徹底的に潰すやり方に今までの温和な政策から変更してしまう藤伊の裏側の性格。海軍兵学校で藤伊と同級生であった者たちの一部は藤伊の完膚なきまでに潰す性格が裏側にあることを知っていた。


山本も藤伊の裏側の性格を知るその一人だったので計画の発案者が藤伊だとすぐに悟ることが出来たのであった。


「それじゃあ人事局の改革が計画通りに進まなくなるかもしれないよ。一部の軍人に人事局を襲撃させる。襲撃してきた奴らを全員殺す。

それで人事局派の海軍高官たち主導の軍事裁判を開廷する。証拠は人事局が事前に調べてあるし、決定的な証拠の襲撃者の死体も人事局にあるから、翌日に軍事裁判の判決が決定した。

事件から2日後に前々から作成していた人事特別異動を実施した。これにより人事異動が難しかった人物たちも異動させれた。

事件の関係者とすれば左遷できるから最高だったよ。人事局長の土屋が海軍少将は事件早期終息の成果により海軍中将に昇格。

俺も誰の反対もなく海軍大尉から海軍少佐に昇格出来たのさ。」


この事件は人事局事件と言われるようになる。


「そんなことをしていると命がいくつあっても足りんぞ!自分の友が若くして死ぬはあまり見たくないからな。陸軍過激派の行動には気を付けろよ。」


山本は藤伊が暗殺されないか心配であった。大久保利通、伊藤博文など改革を行った人物隊は恨みを持つ者に暗殺されてしまう事件がこれまでにも多くあったからだ。


「OK。ありがとう、気を付けるよ。あー、欧州視察メンバーだからすぐにヨーロッパへ行くから死ぬ可能性は低いよ。」


「欧州か…。一度は行ってみたいな。欧州から多くの知識を持ち帰ってくれ、そしてメンバー以外の者たちに教えてくれ。そのための欧州視察委員会だからな」


藤伊がヨーロッパに今年中に旅立つことを知り、山本は藤伊が自分自身の安全のことも考えて計画を練っていたことに感心していた。抜かりない計画を作ったものだと思うようになっていた。


よって先ほどの心配していた自分がバカらしくなっていた。


「おう!ついでに俺の資産も世界の金融中心地ロンドンに行って増やしてくる。それで帰国したら俺はお金持ちになっているはずだ。」


「ははは、それを第一目的にするなよ。それは第二目的だからな。」


笑いながら山本は藤伊に言った。


「ああ、わかってる。」


そう言って藤伊は山本に別れを告げてから横須賀駅に向かった。


横須賀駅に向かっている藤伊は一人で考え事をしていた。それは同様にしてお金持ちになるかである。藤伊は日本軍人の面子で物事を判断するやり方に大きな不満があった。


この状態では史実通りに時間が進み、日本の敗戦になると思い始めていた。


【結局貧乏海軍だから海軍上層部は青年士官の意見なんて聞こうとしない。軍艦の建造よりも優秀な部下を育ることがもっと重要だと思う。

前世で聞いた言葉にこんなのがあったな。・・・空母は3年あれば完成する。パイロットは5年で育成できる。だけど優秀な指導者の育成は30年掛かる・・・。日本の軍人たちは農村出身が多いから政府の富国強兵政策に反発する。農村は不況になると生活出来なることが多いからなあ。そんで、農民を助けるためとか言って反乱起こすし…。バカだろう…!

仕方ない、第一次世界大戦好景気、大戦後のアメリカ好景気、世界恐慌、金融恐慌を利用して富豪になろう、スウェーデン籍でも取って第二次世界大戦中は中立国スウェーデンで暮らすことにしようかな。】


1910年代の日本は国民の力を政府が無視できなくなってきた時代でもある。


日本軍人たちに失望していた藤伊であったが、企業の社長たちには興味持っていた。彼らは明治維新の影響で180度国の方針が変わった状況の中でもビジネスをしていたからだ。


藤伊は第一次世界大戦後に来る数々の混乱でも資産を増やすために彼らのやり方が参考になると考えていた。混乱時でも利益の生む方法をマネしようとしていたのである。


お金持ちになる方法は至って簡単である。お金持ちがやった方法のマネをすればいいからだ。全てマネするかどうかはその時の状況で変わるが、一番簡単に出来ると考えているから藤伊も実践しようとしているであった。



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