友達出来ました……
訂正完了しました。
目を覚ましたら別人になっていた。眠たいから寝ることにした。
現状を報告しよう…。日本であることは確かのだが、今俺は赤ん坊であって…もう限界がきたようだ。寝る。また今度話すことに……
この時代は戦前の日本である。1885年1月に大阪で警官の父の長男として誕生した主人公の名は藤伊栄一。彼は元サラリーマンであった。
1903年6月
「うん。こんな生活無理だ。軍隊辛い、やめたーーーい。」
【海軍なんて堅物頭の集まりだ。マニュアル通りにやらなければならないとは......。】
藤伊栄一18歳。身長180cm、体重62kg、男性。ちょっと背が高いどこにでもいる青年だ。エリート教育機関の海軍兵学校に在籍しているから、他人よりも少し優秀だった。
但し、こいつには秘密があった。
藤伊栄一は転生者だった。気づいたら赤ん坊に転生。幸運なことに親父が警官だから家族は貧しくなかった。
幼い頃から物覚えが良かったが、前世からの知識で英語は普通にできたから、副業感覚で翻訳の仕事を請け負っていた。海外と貿易したい会社は多々あったので、週末に多くの翻訳依頼の封筒が家に届いていた。まあ、そんなことをしていると地域で噂になり、お国のためにその力を存分に発揮するべきである、との話になって海軍兵学校を受験せざるを得ない状況になってしまったのだ。
藤伊栄一自身は海軍兵学校に入学する気なんてなかった。親父と同じ警察になろう。将来、親父も出世しているだろうから、コネでいい部署配属だ、とか考えていた。
地域の総意みたいな感じで海軍兵学校へ送り出されたものだから、結構勉強して何とか200名中192番に滑り込んだ。
藤伊が入学した年は、海軍兵学校32期生(1901年、明治34年)である。
成績上位には高野五十六(後の山本五十六)、嶋田繁太郎、吉田善吾、堀悌吉、塩沢幸一など後の大物たちが優等生として同期生にいた。同級生というのは、何かどこかで素直に意見を言い合えたり、数年後いや数十年後まで続くかもしれない友人になったりする可能性が高い人だろう。
海軍兵学校時代、藤伊の成績は全体合計順位が190番代だった。
理科分野は壊滅的な点数、体育系も途中で棄権するから低い評価、語学系は常にトップクラス、その他は大体普通の成績。
ただ藤伊は学年順位ほぼビリであった時から同期生より頭一つ飛びぬけているものが有った。情報分析能力、戦略計画である。これらは転生者であるからこそ時代を先取りしたような戦略を導き出すことができたのであった。
海軍兵学校で半分以上の成績を取っていないと海軍の上層部になることはほぼ不可能であったので卒業一年前から転生者の知識を最大限利用、結構努力して日露戦争中の1904年11月、海軍兵学校32期生192名中67位で卒業した。
海軍兵学校32期生の中で藤伊栄一の評価は気さくな性格で話しかけやすい男というものだった。そのため、意外にも本人が気づかぬところで脱ビリ計画開始前から沢山の友達ができていた。但し一部の教官たちからの評価は最悪であった。
1904年11月
【日露戦争なんて陸軍にいなければ死ないはず。海軍軍人の俺はのんびりしていればいい。】
前世で学んだ日本史の微妙な知識の影響で、戦時中の緊迫した卒業式にもかかわらず緊張感のない藤伊だった。
緊張感の全くない藤伊の前で、興奮状態の高野五十六が新しくもらった海軍軍人の制服を見ていた。
「あのー、そろそろこちらの世界に戻って来てください......。正直に言ってお前の今の顔キモいぞ。」
藤伊はもう限界だった。丸坊主がニヤニヤ笑っているのを目の前で見るのは確かに辛いし、気持ちが悪くなるだろう。
高野五十六と藤伊栄一は友人になっていた。軽く相手を貶してもいいくらいに。
「露西亜と戦争をしている時に落ち着かずにいられるか。この前の清国との戦争とは訳が違うのだぞ!!!」
一瞬で顔が真面目になった高野五十六が言った。一応、2月からロシアと日本は戦争していた。日露戦争である。
「あ、うん。知っているよ。」
【仏様から閻魔大王に一瞬で変わるなよ。坊主頭の閻魔大王なんて想像出来ないぞ。】
口には出さないけど内心酷いことを思っていた藤伊であった。藤伊は日露戦争が日本の勝利で終わると知っている。なんらかの歴史に背く行動がなければだが......。
「あいつ、陸軍が主体の戦争であるから海軍はどうせ出る幕もないと思っているのではないか?」
「欧州から来るバルチック艦隊を撃破しなければならないのに落ち着いてられるかよ!」
「ああ、それを成し遂げたとしても難しいかもしれない。」
「わからないなぁ。大日本帝国が滅びるかもしれない危機なのに、なぜ相変わらず落ち着いているのか?」
周りも口々に言い始めた。周りの者達も藤伊の反応に疑問を持っていた。大日本帝国存亡の危機と感じるのが通常あった。
見渡す限りでは他の者もほとんどが同じ意見のようで皆藤伊の方を見ていた。
「動揺を隠す練習していた。指揮官が動揺していたら、冷静な判断が出来ないからな!」
【しまったぁー。大声で言ってしまった。注目されてしまうー!どうしよう。】
藤伊は自分の意見を無理やり押し通すため大声でついつい言ってしまった。
「なるほど、藤伊はみんなと同じ意見を持たないかぁ。」
海軍兵学校第32期生主席の堀悌吉が笑顔で言った。
「みんなと同じ意見しか言えない奴らなんて俺の部下にはいらない。」
【堀悌吉って誰だよ?同期生で山本五十六しか有名人知らんぞ。歴史に名を残せない奴が主席を取るとは、世の末だな。】
藤伊は完全に上から目線であった。藤伊は秀才の堀にまさか話しかけられると思っていなかった。少し調子に乗ってしまっていた。
堀悌吉は山本五十六みたいに有名でない。彼が海軍を途中で事実上辞めているからだ。辞めさせられたと言ってもいいくらいかもしれない。
シンプルに纏めると権力争いに負けたのだ。
よって、山本五十六みたいに後世に名を残せなかった。
「お前が出世出来るとは思えない。」
堀悌吉が言った。
「マニュアル通りの対応が戦場で通じると思わないことだな。偶にはマニュアル無視の対応が出来る人物も必要になるだろう。」
【アメリカ海軍よ、この存在自体がイレギュラーの藤伊栄一がいる限り日本が勝利するのだ。空母部隊の指揮官には俺がなる。】
腕を組みながら偉そうな態度で藤伊言った。
第二次世界大戦時の日本海軍上層部はマニュアル通りの対応を試みたので小さなミスが多くあった。
塵も積もれば山となる。最後最後で大きな失敗をしてしまった。
「堀の意見には自分も賛成だ。」
嶋田は、いつものようなお得意の横槍をいれた。嶋田繁太郎は第二次世界大戦時に海軍大臣だった。陸軍出身の東条英機首相の忠犬と呼ばれていた。陸軍の意見を尊重していたからだ。
陸軍と海軍の仲は頗る悪い。陸軍出身者が首相である事態腹立たしい。海軍大臣は陸軍の意見を突っ撥ねる役割であると思われていた。
強気になれない嶋田繁太郎は陸軍の意見を尊重していたのだ。
まあ、このころから他人に同調することに関しては上手だった。
「なら出世の見込みがない俺にバルチック艦隊のお前らが考える脅威とやらを教えてくれよ。」
【嶋田繁太郎か、誰だ?何だこいつ、堀悌吉の金魚のフンか?】
藤伊の大人気ない対応であった。
「バルチック艦隊が世界最強クラスの艦隊だからだ。それに日本は明治維新から約35年しか経っていない。海軍の歴史が浅いのだ。」
「ああ、そうだな嶋田。付け加えるなら日英同盟があっても英国艦隊が戦ってくれないこともある。日本単独で戦うからだ。」
堀悌吉は嶋田の内容に付け加えながら藤伊を疑っていた。ロシアのスパイかもしれないと思ったからだ。
ここまで落ち着いているからスパイである可能性もあると考えるのは一般的かもしれない。
「なるほど、ではこうしよう。日本海軍かバルチック艦隊の勝利すると思う方に何かを掛けよう。俺はもちろん日本海軍勝利にかける!」
藤伊は奇妙な提案を持ちかけた。海軍軍人ならば絶対に日本海軍勝利にかけなければならない。だが、懸念もある。日本海軍勝利を確信出来ないのだ。
長い空白の時間が続いた。
「............。藤伊、お前は大物になれるぞ。」
高野五十六が小さな声で言った。風の音が聞こえるくらい静かな状態であったので周りの者達の耳にも届いた。
「当たり前のことを今更言うな。それに英国は目に見えなくて直ぐにわからない支援をしてくれるさ。お前らが思っている程に大英帝国は愚かでない。」
【七つの海を統べる国家だぞ!イギリスは伊達じゃない!世界最強の国家が同盟国とは頼もしい!】
本国面積はロシアよりもとても小さな欧米列強諸国の上位に君臨する大英帝国。巨大な海軍、天才的な外交手腕を持つ国家だ。
そのイギリスが日本を選んだ。イギリスは日本が潰れることを拒んでいると捉えることも出来る。
艦隊を派遣しなくても、見えにくい支援がされるだろう。
バルチック艦隊は然程脅威ではない。なぜなら、この世に無敵な艦隊など無い。いつかは負ける。
例えば,エリザベス1世時代の弱小イギリス海軍が当時大国スペイン海軍の無敵艦隊を破ったことがある。アルマダ海戦だ。
藤伊栄一は世界史が得意であった。よってアルマダ海戦のことも知っていた。
見えにくいイギリスからの支援。イギリスが自身の植民地での燃料、食糧などの補給、船舶整備など様々なことを断ることだ。
バルチック艦隊は、インド洋、東南アジア経由で日本にやってくる。一度は絶対に燃料、食料などを補給がされる。
インド、東南アジアのほとんど地域はイギリスの植民地だ。中国香港もイギリス植民地である。無駄な物資の消耗を避けるための航路選択する確率が高くなる。
これによりバルチック艦隊の補給地点がある程度予測できた。そこから日本周辺の航路の予測も出来た。
連合艦隊は敵に対して準備万全で迎え撃つことができる。日本周辺で戦うので地の利こちらが有利でもある。
最新戦艦もイギリスから購入することができるのも理由の一つとなるだろう。戦力増加も出来たのだ。
「見えている世界が違うのか......。」
堀は悲しそうに言った。主席でもわからないことがあるのに藤伊がそれをわかっていたからだ。
「十人十色だろ。みんな違う考えを持っていることが当たり前だよ。」
【お前の悲しそうな顔を見ても何も感じないぞ。主席だからって偉い訳ではないぞ!あー、フォローだけしておくか。】
藤伊は面倒くさそうな顔をしていた。
藤伊の同期生たちは藤伊が自分達と違う考えを持っていた事に驚いていた。しかし、彼らが一番驚いたことは藤伊が自分達とは違った視点からこの戦争(日露戦争)を見ていたことである。
「かの有名な織田信長もこのような考えを持っていたのだろうか?」
「おいおい堀、ちょっと待てよ。信長は殺されるよ。俺は織田信長でない。皆の者よく聞け!俺の名前は藤伊栄一だ!」
【自己アピールは完璧だ!これだけ宣伝しておけば、大丈夫だろう!】
卒業式でこれをやる藤伊栄一はアホである。二度目の人生だから恥ずかしがるより、堂々としてしまうことに共感するが......。