逃げ水
中学生はよく反抗する。それが親であたっり先生であたっりそして友かもしれない。時には自分にも反抗するのかもしれない。
私は最近無性に腹がたつことがある。親には反抗するなと怒られる。自分は反抗しているつもりはない。そしてまた喧嘩をしてしまった。思い返すと些細だと思うけどやはり自分が謝る必要はないし自分は悪くない。
「ありさが謝ればいいじゃんか」
真夏の太陽が射す中熱いアスファルトを踏みしめながらどこに行くでもなく歩いていた。ありさは小学生の頃からの友達で喧嘩した人物。坂に差し掛かりふと前を見ると先のアスファルトに水溜まりが見えた。雨なんか降ったっけと思い返したがこの数日間降っていない。疑問に感じたが特に気にするでもなくその水溜まりをこえた。
「えっ...」
私は自分の目を疑った。目の前には数年前に消えた店や家がたっているのだ。ただただ呆然とたっていると声をかけられた。我に帰り声をかけてくれた人をみてまた目を疑った。私の母親がたっていた。しかも若くそしてお腹が膨らんでいるのである。
「大丈夫です!」
私はそういうと逃げ出すようにその場から逃げた。そして物陰から母親の様子を伺った。母親は首をかしげそして大事そうにお腹を撫でて私のいるほうとは逆の方に歩きだした。私は一歩踏み出した。足元でぴちょんという音がした。その瞬間また景色が変わった。
私は知らない間に病院にいた。私は頭がおかしくなったんだと思った。そのとき赤ちゃんの声が聞こえた。なんとなくその声のする方に向かい覗いた。そこにはまた母親がいた。隣には元気になく赤ちゃんがいた。
「なつき
これからよろしくね」
母親が私の名を呼んだ。驚いて凝視していると両親が壊れ物にさわるように大切に撫でていた。私の目になぜか涙がたまった。
そしてどんどんと場面が変わっていく。私は自分の成長を第三者としてみていった。そしてどれだけ両親に大切に思われているか痛感した。
「お母さん、水溜まりが消えたよ」
あれは私が小学1年生の頃だ。夏の暑い日に水溜まりを見つけてかけよったらなくなって残念に感じた覚えがある。
「それはね
って言うんだよ」
肝心のところが聞こえなかった。私は直接聞こうかとしたがまた景色が変わった。
綺麗な夕焼けが坂の上からよく見えた。あたりを見渡すとありさが泣きそうな顔でたっていた。もう帰らないと行けない時間だろうにじっと坂の下を見つめている。坂の下にはなにもない。
「ありさちゃん!」
後ろから私が来た。その後ろには私の母親とありさの母親がいた。3人とも息をきらしている。私はありさに駆け寄っていた。
「ごめんね!ごめんね!
その水溜まりは捕まらないんだよ」
「わたし!わたし
なつきちゃんにあげたくて
欲しいっていってたから」
互いに謝っていた。そしてそのあと親に2人揃って謝った。私はありさがいつもいつも私と一緒に楽しみ、悲しみそして時には馬鹿をやり私のことを考えてくれたことを思い出した。泣いている2人をみてまた自分も泣いていた。そして気がついた時にはいつもの坂の下にたっていた。
「謝らなきゃ」
私は来た道を戻ろうと坂の上をみた。
「ありさ!」
坂の上にありさがいた。私は坂をかけあがった。
「ごめん!ありさ」
「うちもごめんね」
私もありさも昔のように仲直りした。そして2人揃って坂を下ろうと下をみた。
「そうだよ
逃げ水だ」
「逃げ水?
あっ!懐かしいね」
「そうそう昔逃げ水を捕まえて私にあげようとしてくれたね」
会話をしながら坂を下ると水溜まりは逃げていた。