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きっかけは単純

幹也が学校を再建したい理由が明らかになります。

 新は病室で目を覚ました。個室らしい。

 視線を周囲に巡らすと、木でできた壁に、点滴チューブ、窓際に置いてあるテーブルに飾られた花が見えた。そして上を見ると、丸い電気が付いている。

 彼は自分がどうしてここにいるのかを思い出していた。そして、学校が崩れたことをようやく思い出すと、自然と笑みがこぼれた。

 新は、あの学校でいじめられっ子として認識されていた。特に派手ないじめではなかったが、基本的にいないものとして扱われていた。当然、友人と呼べる人はいなかった。

 一人を除いて。


「新、目を覚ましたんだね!良かった。俺、君が生きていてくれて、本当に嬉しいよ」

 扉が開き、そこには生徒会長である幹也が満面の笑みを浮かべて立っていた。後ろから、成績優秀だと噂があった万里江の姿もある。万里江は、幹也に頼まれて(脅されて)彼の計画を手伝うことになり、友人を紹介すると言われて新の病室まで付いて来たのだ。

「こんにちは」

「幹也君。君も無事だったんだ。良かった。ところで、後ろの子は・・・?」

 新は、点滴の針が刺さった左腕を庇いながら起き上がると、唯一の友人の無事を喜びつつも、万里江の存在理由を問うた。

「あぁ。彼女も無事で、この病院に運ばれてきたみたいなんだ。さっき偶然会ってね。彼女、成績優秀な優等生だからさ、俺も存在は知っていたんだよ」

「そうなんだ」

 新が聞きたいのは、その彼女がなぜ自分の病室を訪ねてきたのかということだったが、幹也はそこには触れず、ただ会って一緒に来たと言った。

 万里江は、先ほどの偉そうな態度とは全く違う幹也の態度に驚いていた。そして、自分たちのいた病室とは待遇の違う個人病室にいる新を不思議に思った。

(確かこの子、クラスでいじめられてるって噂があった子よね。なんで、そんな生徒とこの生徒会長が友人なの?もしかして、この子も、私みたいに脅されてるとか!?)

「はじめまして、桐野万里江といいます。よろしくね」

 そんなことを思っているとはおくびにも出さずに、万里江は新に対してにこやかに挨拶をした。

「あっ新波新です。こちらこそ、よろしく」

 新の方は緊張しているのか、女の子慣れしていないのか、俯きながら挨拶を返した。

 そんな二人を、幹也はまあまあといった感じで促し、新に対してはベッドを起こしてやって楽な姿勢にしてやり、万里江には置いてあったイスに座るように言った。自分はいつの間に持ってきていたゼリーを冷蔵庫に入れ、同じ袋からパックジュースを出して二人に渡した。


「じゃあ、改めて。新波新君。俺の友人。そして、桐野万里江さん。俺の協力者。

新、新が言ってた過ごしやすい学校、これからつくっていこうと思う。お前のために、お前が生きやすい世界をつくるんだ」

 二人を本当に簡単に紹介した後、幹也は突然そう言った。

 つまり、彼が学校を再構築したいのは新のためだったのだ。

「幹也君。僕のために?でも、できるの?」

「出来るさ。幸い、俺の父親があの学校を買い取って再建築する予定だ。それに、俺も関わろうと思っている。万里江さんも、協力してくれるって言ってる」

 新は不安そうな顔を、幹也から万里江に移した。いいのか?と聞いているような目だ。万里江はゆっくりと頷いた。

「だから、新。お前には、どんな学校だったらいいのか、どんな学校にしたいか。そういうのを俺たちに言って欲しいんだ。だって、新のための学校なんだから」

 目をキラキラさせながら語る幹也を、新は眩しそうに見、万里江は何ともいえない表情で見ていた。狂っている。万里江はそう思った。

「幹也君がそういうなら、僕にできることなら、協力する」

「ありがとう、新。じゃあ、詳しい話は退院してからにしよう。

今日は帰るよ、またな」

「ありがとう。桐野さんも、ありがとう」

「うん」

 新の言葉を聞くと、安心したように幹也は席を立った。それにつられる様に万里江も立ち、二人連れ立って、新の病室を後にした。



 6人部屋、実質2人部屋の病室に戻ると、万里江は聞きたかった疑問を幹也にぶつけた。

「彼のために学校を再建するの?てか、なんで彼と友達?彼、いじめられてるって言われてた子でしょ!?」

 万里江は自分のベッドに座りながら、続けざまに言った。そうしないと、また丸め込まれそうだったからだ。

「まぁまぁ、落ち着きなよ。俺と新は、中学校時代からの友人なんだ。経営学を学ぶ塾が一緒でね。彼のパパも社長。今は、海外にいるみたいだけど。

 互いに跡継ぎ。しかも一人っ子で、本の趣味も合った。そうなると友人になるのは時間の問題、だろ?高校進学を決めるとき、あいつは俺と同じ高校に行くと言い出した。俺は反対した。自分の学力に合ったところに行くべきだ。でも、新は、俺のレベルに合わせてあの学校に来てくれたんだ」

 懐かしいことを思い出すように、幹也は話し出した。しかし、高校に入ってからのことを話し出すと、次第に表情が苦しそうになっていく。


「最初は、俺の話し方が気に食わないって理由で、アホな教師や生徒に目を付けられた。俺は成績は並だったし、運動も普通だったし」

「そんなことないじゃない。成績は常にトップクラス。運動だって選手に選ばれたり、ピンチヒッターやったりしてるでしょ」

 成績優秀・運動神経抜群、生徒・先生共に信頼が厚い生徒会長。それが幹也であったはずだ。それが、入学当初、目を付けられていたなんて、万里江には信じられない話だった。

「新が勉強を教えてくれたんだ。コツとかやり方とか。スポーツは、毎朝走ったりジム行ったりして鍛えた。そうしてやっと、皆に一目おかれるようになったわけ。

 でも、そんな時さ、新の母親が亡くなったんだ。自殺だった。父親の度重なる浮気が原因だったらしい。まぁ、よくある話だよ。新さ、一ヵ月くらい学校休んで。それからだよ。あいつがいじめられてるって噂が立ちはじめたの」

「はっ?」

 本当は家族の訃報が原因で休んでいたのに、いじめが原因で不登校だという話にすり替わったという。ありえない話だ。しかし、実際にはすり替わっている。


 幹也の話では、頭の良かった新はクラスでも浮いた存在ではあったという。それが突然休み、担任も事情が事情だけに休んだ理由を言わない。それで、いじめではないかという噂になったのだ。

 そして噂は、新が登校し始める頃には、真実に変わっていた。皆が新を腫れ物に触るように扱い、そしていないように振舞うようになった。皆、新に「この人にいじめを受けた」と言われたくないがための自衛であった。


「皆がみんな、勘違いして、すれ違って、どうしようもなくなって。で、今にいたる。俺は、人気の生徒会長。あいつはいじめられっ子。

俺のために、一緒の学校に来てくれたあいつに、居場所を与えたいんだ。居心地のいい学校をつくりたいんだ。だから、学校再建に関わりたい。理由は単純」

「そんなことが・・・」


 最初は反発していた万里江だったが、幹也の話を聞くにつれて、新のためなら、そういう理由なら、手伝ってもいいかなと思い始めた。

やっと、幹也と新の関係性が書けました。

まだ、荒削りですが・・・。

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