始まりの時間
空を見上げた。
新波新は、登校途中立ち止まり、学校にこのまま向かうか迷っていた。
坂の向こうからやってくる車やバイク、路面電車。その中でひしめき合う人々。
自分を追い越していく小学生やサラリーマン。
今、動かなければまた遅刻だろう。そう思いながら、新はのろのろと歩を進めた。
ドーン。
その時、何かが壊れるような鈍い音が響いた。
新が学校に着くと、昨日まであったはずの学校が跡形もなく消えていた。
コンクリートの瓦礫が積み重なり、あちらこちらから叫び声やうめき声、泣き声が聞こえる。
彼が消えればいいと願い、行きたくないと思っていた学校は
本当になくなっていた。
それより遡ること数分前。
まだ数人の先生しかいない学校で、一人の生徒が楽しそうに廊下を歩いていた。
斎藤幹也は成績優秀、スポーツ万能で生徒からの人望もあり、先生たちからの信頼も厚い。
彼は各教室を回り、学校指定のトートバックに詰め込んだ四角い箱を教卓の下に置いて行った。
最上階の教室を回り終えると、2階にある職員室に入った。
「失礼します」
そう言ってはいると、主幹教諭と教頭がいるだけで、それぞれに仕事をしていた。
幹也を一瞥すると、おはようと声をかけて自分の仕事に戻った。
(先生、あなたのせいで、この学校はなくなりますよ)
幹也は、自分を唯一侮辱した教員の机の上に、分厚い本を置いた。
そろそろ朝練するために生徒が登校する時間になる。
問題の教員もその登校する一群の中にいた。それを満足そうに見つめると、幹也は手元に置いていたいくつかのボタンを順番に押した。
「さよなら、先生」