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―5― 思ってもみない奇跡


 メルを乗せた馬車は走り出して(わず)か30分ほどで止まった。

 それまでこの地、最後という思いもあって周りの景色に黙って見とれるばかりであったメルは、騎手の人に怪訝(けげん)な顔をして「急に、どうしたのですか?」と訊いた。

「はい。実はココで、一度休憩してから行く様に、と……言われておりましたので」

「ここで……?」

 ここは湖のほとり近くで、花もたくさん咲いていて、とても綺麗な場所だった。

「スコッティオさん……ありがとうございます! 感謝します!!」

 メルは直ぐに馬車を降り、湖近くの花を見つめ、その場で寝転んだ。そしてスーッ……と、ゆっくりと息を吸い込み幸せを感じる。ささいなことだったけど、スコッティオさんのこうした自分への配慮がとてもメルには嬉しかった。自分への配慮……自分だけに対しての配慮……自分一人への……そんなものはこれまで体験したことのないメルにとって、初めて心に感じ残るとても不思議な経験だった。

 でも……。

「だけど、どうしてここまでしてくれるのなら、わたしをあの屋敷で雇ってくれなかったのかしら? こんな風に優しくされちゃうと、なんだか返って寂しく感じてしまうのに……あぁ…」

 そう思い吐息をつくメルの傍へ、1人の女性が現れた。

「ねぇ、ココ。座ってもいいかなぁ?」

「あ……ハイ」

 全く見知らぬ女性の人だった。だけど、その身なりからそれなりの身分の人だというのだけは分かる。それに美人だし、見るからに聡明を絵に描いたような方だった。

 メルは半身を起こし、とりあえず失礼がない様にと身を整えた。

 そんなメルの傍にその人はクスリと笑いながら座り、メルと同じように半身だけ身を起こしている。

「とても綺麗な草花よねぇ~。ここでこうしていると、なんだか癒される気がするわ♪」

「はい……この花達と湖と近くにあった川……どれもこれも素敵でとても素晴らしいところだとわたしも思います。だから最後に、しっかりとこの目に焼付けて置こうと思って今は眺めていました」

「……というと? あなたはこれから、どこか他所へ行くのかな?」

「ええ……孤児院へ。

あ! だけどそこは州都に近く。とても賑やかで、孤児院のみんなともとても仲良くて……でもわたしは、今年14歳になるから、きっとまた直ぐに出て行かないとダメなの……」

「そう……そういう決まりがあるの? そこ」

「ええ……そういう決まりなんです。そこは」

 メルはそこでつい、ほぅとため息をついてしまった。

「あ! 別に、出て行くのは構わない、ってこれでも一応は思っているのよ! だけど、自分が気に入らないトコロへ行くくらいならわたし、この身を売ってでも独りで生きてゆくつもりなんです!」

「身を……売る?」

「あ! なにも別に娼婦(しょうふ)になる、って意味ではないですから!

女の人でも働ける場所があれば、もうなんでもやるつもりなんです!

だからもしそこが自分には合わない、って思ったら。実はわたし、夜中にでもこっそりとそこから抜け出す計画もしていて───」

「───ぷっ!」

 メルの話の途中で、その女性の人は急に吹き出し笑っていた。

「スコッティオの言う通りねぇ~、アナタ! 本当に独りでよくしゃべるモンだから、さすがの私もついつい笑っちゃったわよ♪

そういえば、シャリルを助けてくれたそうね? それについて、改めてここでお礼を含め感謝をして置くわ。ありがとう、メル!」

「……え? ええ??」

「自己紹介するわ。

私の名前は、ケイリング・メルキメデス」


 め……メルキメデス、って!!? まさかあの??!


「メル……いい? これから私が言うことをよく聞いておいてね?

《私の名に()いて、メル・シャメールをメルキメデス家のハウスメイドとして雇うこととする!》ってな訳でぇ~、メル! 今後ともどうぞよろしくね♪」


「───はあっ!?」



 わたしは訳がわからないまま再び、そのケイリング様と一緒に馬車へ乗り込み。ここまで通って来た同じ道を戻り始める。

 その後……屋敷の玄関先で、スコッティオさんと親友のシャリルがこのわたしを出迎えてくれた!

 シャリルはわたしが馬車から出て顔を見せると同時に飛びついて抱きしめてくれた。あれにはちょっと驚いちゃったけど、本当にとても嬉しかったわ。

 これはあとで聞いた話なんだけど……シャリルはケイリング・メルキメデス様の従者(ヴァレット)だったらしいの。もうびっくり!

 あの後シャリルがケイリング様に直接お願いして、わたしがここに残れるように嘆願してくれたらしいんだけど、シャリル自体はそんなコトなにも言わなかったからわたしはこうなった経緯(いきさつ)なんてまるで分からなかった。だけどその話を、ケイリング様が教えてくれたから、初めて知ることが出来たの。

 シャリル……本当にありがとう! 

 こうしてわたしは、名門メルキメデス家のハウスメイドとして正式に雇われることに決まったのだ。それも……あの〝シャリル様付のメイド〟としてね! こんなに素晴らしいコトはもうきっとない、って素直にそう思ったの。本当いうと、今でも信じられないくらいだわ。

 あぁ神様……今まで正直なコトをいうと、余りアナタのことこれまで信じてなかったんだけど、今回ばかりは本当に感謝を致します。今後はもう少し、信心深くなれるように努力だけは致します。

 約束は……出来ないかも知れないけど。でも、どうかそれでこれからもずぅーっとこのわたしに幸せのひとかけらを少しずつでも構わないので下さい。シャリルと一緒に!

           


                  メル・シャメールより、親愛なる神様へ








    『パーラースワートローム物語外伝』 ―ハウスメイド・メルの物語― 【完】



 最後まで読んでくださり大変ありがとうございました。序盤から会話文ばかりで始まるこの異色の作品は、このメルの特徴をなによりも生かす演出として思いつきスタートし。その日の内にここまで書き終えることが出来ました。

 おそらく、作品序盤の会話文ばかりで始まる冒頭部分で読み捨てて終われる方が大半だったかもしれません。それでもあの冒頭部分を切り捨てることは、この作品の特徴を無くすことなので、それはとても出来ないことでした。そんな中、最後まで本作品を読んで頂いた読者の方々にはとても感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました!


 このメルは、『パーラースワートローム物語』 ―カルロス― の 《特別イベント追加話【神魔の鼓動への序曲】》で初めて出て来るキャラとなります。他にこの作品では、ロムニーなど変わったメイドが登場する作品ですが登場するのは作品後半からとなります。


 よろしければ、作品本編となるカルロスの方もどうぞよろしくお願いいたします。



 最後に改めまして、本当にありがとうございました! 感謝します。そして、今後ともよろしくお願い致します。


 以下はDIG版(無料購読)の『ハウスメイド・メルの物語』へのリンクです。

 http://booklog.jp/item/14/5794838764486

 DIG版ならではのメルの物語が楽しめるかと思います。どうぞお気軽にお越しくださいませ。


※DIG版『ハウスメイド・メルの物語』は、来年2月末までで以降は閲覧不可となります。興味のある方はお早めにどうぞ。



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