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―4― 別れのとき


 その翌日の朝……。

「それではスコッティオさん。大変、お世話になりました」

「ええ……。

今回は残念な結果だったけど、メル……あなたのそのおしゃべりな悪い口クセが直ったら、また来なさい。

それだったら私だってねぇ……」

「それは無理というモノです、スコッティオさん。

小鳥に鳴いちゃダメ!と、言ってもそれは無茶な話でしょう? 小鳥は鳴くことで自分の存在を『ここですよぅ~』『わたしはここに居るの! だから誰か会いに来てぇー!』と……ああやって鳴くことで伝えていると思うのです。

(せみ)だってそうです! きっと、みんなそうなのだとわたしは思います。

だからわたしは、今のままの自分が大好きなんです!」

 それを聞いて、スコッティオは頭を抱えている。

「メル、アンタはその……蝉や鳥なんかじゃないんだよ。ちゃんとした1人の人間なんだ」

 そんなコトは分かってるけど、とメルは思わず口を挟み出しそうになったが、そこは(こら)(ひか)えた。代わりに別の話に変えることでそれを交わした。

「モチロン……大人になるに()れて口数が減る、なんてコトもあるのかもしれませんから。その時には1時間くらいで自分がどれくらい黙ってられるのかを一応計ってみて、それでまた来れるのかどうかを判断したいと思いますので。1時間でどれくらい黙ってられたら合格点なのかだけでも、もしよろしければここでお教え頂けるととても助かるのですが、どうでしょう? スコッティオさん」

「1時間で……と急に言われたってねぇ…」

 スコッティオは再び頭を抱え、

「取り敢えず、1時間くらいは無言で耐えられて。さらに1度におしゃべりをする量を、今さっきの3分の……いや5分の1くらいで止められる様になったら、わたしゃそれで構わないと思うよ?」

「そんなのは無理です!! そんなの、私には拷問(ごうもん)に近いもの!!!」

「ご……ごうもん、って……アンタ…」

「スコッティオさんはきっと、わたしのことなんか本当は採用する気が無いモノだからそんなイジワルなコトを言ってるに違いないんです!」

「イ……この私が、イジワルをですって?! むしろ私はねぇ……」

「もういいんです! そんな風に気を使って頂かなくても別に、まったく! 気になんかしてませんから。

そりゃあ……本当のトコロを言うと、残念な気持ちは今だってあります。

だけどわたしは幸いなコトに、昨日ここで生涯の親友を見つけるコトが出来ましたし、それだけでもう今は十分満足なんです♪」

「しんゆう……だってぇ?」

「はい! それだけでもとても幸運だったとわたしは思っています。あれからわたし、直ぐには神様なんてイジワルだァー! って思って神様の悪口ばかり考えてましたけど。でも今は違います。

今はむしろ、ああぁ~神様ごめんなさい! 今は後悔しています。そう今は……というよりも、正確に言うと。昨日のあの時のあの件についてだけなんですけど、とても感謝をしたい気持ちで一杯なんです。それに──」

「ああ、わかった。分かったからもう勘弁しておくれ……メル」

 スコッティオはそこでメルのおしゃべり遮る。

 メルはそれで仕方なく、口を閉ざし。大人しくスコッティオのあとを着いてゆき、屋敷の玄関先に止めてあった馬車へと一人乗り込む。

 その間、メルはずっと黙ったままだった。

 そして……もう二度と見ることの叶わないだろうこの素敵な屋敷を遠目に見つめ、吐息をついた。

「それではね、メル。この手紙を孤児院の方にお渡しなさい。いいね?」

「……はい。スコッティオさん」

 ここに至っては、さすがのメルも静かなモノだった。

 そんなメルを見つめ、スコッティオは吐息をつき口を開く。

「では、行っておくれ!」

 そのスコッティオの声と共に、騎手は馬車へと鞭を打ち、走り出した。

 走り出す馬車の中にずっと黙って静かにしていたメルは、だけど堪らず馬車の小さな窓から顔を出し涙目に見つめ、

「ごめんなさい! さようなら、スコッティオさん! さようなら……シャリル……さようなら――!」と叫んでいた。




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