好きな人
親友と好きな人がかぶりました。
「それでねっ、今日山崎君としゃべっちゃった」
香は幸せそうに報告をしてきた。
「そっか」
うん、うん、と香の話をただうなずいて聞いていた。
「由衣はいないの?好きな人」
よくこんなことも聞かれていたが本音を言えたことはない。
「いないって」
「えー、本当に?」
「本当。できたら必ず香にはいうよ」
「うん。その時は絶対に応援するから!」
「ありがと」
それでも言えない。私も山崎君のことが好きだということはずっといえなかった。
「由衣って山崎君と同じ図書委員だよね?」
「そうだよ」
「山崎君とよく話したりする?」
「うん。当番かぶってるし」
「そうなの!?」
「金曜日の放課後が一緒。来たら会えるよ」
「行く行く!」
「はいはい」
香とは幼馴染みで、これからも親友でいたくて、仲良しでいたいから私の気持ちを教えるつもりはない。気まずくなってしまうのが一番嫌だから。
私が山崎君を気になり始めたのは、香よりも2カ月ほど早かった。
同じ図書委員になって初めて出会った。最初は運動部のエースの彼に関心をもつこともなかった。地味な私にとっては世界の違う人だった。
そんな彼に興味を持ったのは本の趣味が一緒だったというとだ。好きな作者や作品が一緒で、とても話しやすくていつの間にか好きになっていた。
だけど、すぐに終わりがきた。
「ねえ、時野さんさ・・・1組の中島さんと仲いいよね」
唐突に香の名前がでて驚いた。
「香?」
「そ、そう」
「香がどうかしたの・・・?」
「えーと、うん・・・その・・・」
少し照れながら、そして歯切れ悪そうに言った。
「中島さんって・・・彼氏いるのかなあ・・・」
そういうことか。香、かわいいもんね。
「いないよ」
ズキっと痛む胸を押さえて答えた。
「何?山崎君、香のこと好きなの?」
駄目押しのように、そして自分の気持ちを悟られないように聞いた。
「あ・・・うん・・・」
顔を真っ赤にしてうなずいた。
「そっか」
彼の気持ちはすでに香に向いていた。
「がんばれ」
「お、おう」
照れながら答える彼をみて、そして香のことを思った。
正直、2人はお似合いだと思った。
山崎君のアプローチが始まる少し前から香が彼を気にかけていたのは知っていた。
ただ、私の応援がきっかけで2人の距離が縮まるのもわかった。
だから香の
「私、好きな人できた!」
という発言にも何の驚きもなかった。
ただ、これで両想い確定。私の失恋が決まったことを意味していただけだ。
2人の恋愛相談にもそれぞれのっていて、両想いだとは気が付いていない2人が付き合うのは時間の問題だった。
そして、その日はやってくる。
今日は金曜日だ。
図書委員の仕事をしていると香が遊びにきた。
「由衣ー」
カウンターで香と対面した。
「あっちで、本の整理してるよ」
山崎君のいる方向を指さした。
「もう!」
照れながらでも、視線を指さした方向に向けた。
「行っておいでよ」
「うん」
そっとそばに行く香を眺めた。
そして、閉館時間になると私と香と山崎君の3人だけとなった。
「山崎君、香・・・」
「何?」
「どうした?」
決めた。こうすればいいんだ。チャンスをあげればいいんだ。
「私、用事あるから先に帰るね」
「え?じゃあ、私も!」
香がカバンをつかむと、私は止めた。
「ごめん、香。山崎君1人だと戸締りとか大変だからさ、手伝ってあげてくれない?」
「え・・・」
「お願い!」
「あ・・・うん」
その返事を聞いて私はカバンを持った。
「じゃあ、また明日。あと、よろしくね」
逃げるように図書室をでてドアを閉めた。
これでいい。こうでもしないと・・・。
「あ・・・、あの、ごめんね!由衣ったら」
「いや・・・いいよ」
『・・・』
2人の焦った声が聞こえて、沈黙が続いた。
「なにこわがってんのよ・・・」
ぼそっと呟く。2人は何も怖がることないのに。
「あの・・・中島さん!」
「は、はい!」
山崎君が動いた。
「えっと・・・好きです!ずっと前から中島さんのこと好きでした!」
「!!」
「つきあってください!」
一生懸命に伝えようとしているのがわかる。
「は、はい。よろしくお願いします・・・!」
私には向けられない想いを香が受け、応えた。
「うん・・・」
これでいいんだ。
その後、2人が何かを話し始めたけれど、私は静かにその場を立ち去った。
その日の夜、さっそく香から電話が来た。
「由衣!あのね!」
内容は山崎君に告白されたこと、付き合い始めたこと、そしていままで応援してくれてありがとう、というものだった。
「おめでとう、よかったね」
そこまで言うと、また、あの質問がきた。
「由衣は本当に好きな人いないの?」
「・・・うん」
言えない。
「いつかさ、由衣もさ彼氏できたらさ、4人でデートしようね!」
「そうだね」
香は何もしらない。だから言える理想だ。
でも、今は言わないでほしい。
「いつか・・・叶うといいね」
頬を冷たいものが伝っていきながら、平静を装ってそう答える。
いつか、この傷が癒えたら
いつか、新しく好きな人ができたら
いつか、この恋を笑って話せるようになれば
言えるかもしれない。
だから、それまではこの私の片想いはそっと心の奥にしまっておこう。




