第六話 なんか旅立つ
コメントいただきました。ありがとうございました!
左右から唸りをあげて迫る石造の戦槍斧を、身体能力上昇魔法の効果により軽々と避ける。
ここは小屋のある森の奥。普段は物静かなこの森の中で、俺は5体の土人形達と交戦を繰り広げていた。
俺はハルバートの攻撃を避けた後一歩下がる。このまま攻撃をしてもよかったのだが、俺が手にしている木の〝棒きれ〟は、一応補助魔法で強度を上げてはいるものの、武器とは言い難い。固い土で練成されたあのゴーレムたちには、全く歯が立たないだろう。使えて1回攻撃を防ぐ程度だ。
そのため、俺は一度ゴーレム達から距離をおき、作戦考察の時間を稼ごうとする。脚力ももちろん強化済みで、俺はもの凄いスピードでゴーレムたちから離れる。
しかしこいつらは〝あのアデーレばあさんが練成した〟ゴーレムだ。この森に居る魔物とは格が違うようで、俺はすぐに距離を縮められてしまう。
俺は小さく舌打ちをすると、さらに補助魔法を発動する。
『オムネスブースト』
複数の魔法陣が俺の周りに展開する。普通であれがたった一回の発動で複数の魔法を展開することは不可能だ。
これは俺のオリジナルの魔法であり、魔法陣自体に、連鎖作用の術式を埋め込むことによって、複数の魔法を一気に展開させることができる。
俺は一つ一つの魔法陣を確認しながら、展開に異常がないかを確認する。
良し、異常なし。確認した後魔法陣が一気に発動。俺の体に強化補助の魔法が掛かる。
補助魔法の一つ体感速度上昇をもともと掛けていた俺は、この作業を瞬時にして行う。傍から見れば一瞬魔法陣が展開してすぐ消えたようにしか見えないだろう。
さらに速くなった脚力でゴーレムのハルバートを避けつつ、距離をとる。
さて、身体能力を上げたはいいが、どうやって攻撃を与えようか。
直接攻撃ではダメージを与えることはできないだろう。アデーレばあさんはこの木の棒きれ以外与えてくれなかったのだ。となれば……。
「アレしかないか……」
魔力を無駄に消費するからできれば使いたくなかったのだが、背に腹は代えられない。仕方なく実行に移す。相手のゴーレムの数は5体。少しぎりぎりなのでタイミングが重要だ。
俺は1体のゴーレムに向かって走り出す。すると待ってましたとばかりに上段からのハルバートの攻撃が襲いかかる。
「遅い!」
しかし強化された俺の脚力にはかなわず、ハルバートは空を切る。俺は体勢を崩したゴーレムの足を標的に魔法をかける。
『フィクサーション』
俺が魔法を発動させたと同時に、ゴーレムの足元から硬質な金属を弾いたような音が鳴る。この音は魔法が正常に発動した証しだ。
フィクサーションを掛けたゴーレムの足は、しっかりと地面に固定され、動くことが叶わなくなる。フィクサーションは物質と物質を固定化することができる魔法だ。
一体のゴーレムの固定化に成功した俺に向かって、残りの4体が襲いかかる。
俺とゴーレムの距離が10mを切ったころ、俺は固定化されたゴーレムのハルバートを木の棒きれで受けつつ、新たに魔法を展開する。
『ストーンシールド』
地響きとともに地面が割れ、俺と固定化されているゴーレムを中心に3方向に岩の盾が出現する。この魔法は保護対象者を覆うように1つの岩壁盾を出現させるものであり、今保護対象をこの固定化したゴーレムにしている。
もちろんこんな盾でゴーレムたちの突進を止めることができるはずもなく、難なく避けられ盾の内側へ侵入する。
俺はその瞬間を狙っていた。強化された脚力でクレーターができるほど地面を思いっきり蹴り、20mほど飛びあがると最後の仕上げに岩壁盾に2つの魔法を掛けた。
『マグニティス』
『グラビドリリース』
岩と岩が衝突し砕け散る音が森の中に響き渡り、ゴーレムたちはそのまま3枚の岩壁盾に猛烈な勢いで挟まれて潰れた。
マグニティスで岩壁盾に強力な磁力を与え、さらにグラビドリリースで重力から解放することによって、岩と岩とを衝突させたのだ。
だたこの2つの魔法は、もって数秒な上に膨大な魔力を使うため、使えない付与補助魔法として人族から忘れられた存在であった。
しかし、俺はこの世に存在している補助魔法を使えないがなんだろうが無差別に習得してしまったため、こういった魔法を使うことができる。
それにこのような応用をすれば使えないこともない。まあ、それでも魔力は無駄に消費するのだが。
「ふむ…3分25秒か。やはり攻撃魔法なしでは少し時間がかかってしまうのぅ。コウイチの魔力量にしてはの話じゃが」
スタッときれいに地面に着地を決めて、息を整えている俺のことろにアデーレばあさんがやってくる。
ちなみに時間の数え方は前世のものと変わらないし、暦も同じだったりする。
しかし、3分はかかりすぎだと思う。
たしかにアデーレばあさんが作り出したゴーレムは強いが、俺の魔力量からすれば、攻撃魔法を使うことができたら30秒程度で殲滅することができるだろう。
「まさかこんな戦闘するとは思ってなかったからな……」
最初俺はこの世界で補助魔法師として〝後衛の立場〟になるつもりだったのだ。
しかし6年前に現れた女神ペルセフォネによって事態は急変。もしかしたら魔王と戦わなければならなくなってしまったのだ。
そのため、今までのように後衛ばかりに回っていては到底魔王を倒せないだろうと判断したアデーレばあさんは、俺に戦闘用の補助魔法の修行をさせるようにしていたのだ。
その修行のひとつが、この複数のゴーレムを相手にした木の棒きれでの戦闘である。
あのお告げから修行を始めて6年がたち、俺は16歳となっていた。10歳のころ旅立ちを決意したはずだったのに……。
「コウイチは強い。わしの今までの苦労はなんだったのかと思うほどのぅ。じゃがしかし、魔王が相手となると、やはり後衛向きなのかもしれん。仲間の存在が必要不可欠じゃわい」
「やっぱりそうかぁ~」
こんなことなら初めから攻撃魔法覚えときゃよかったぜ。と今更後悔する俺。保身のつもりが、逆に身を危険にさらす結果となってしまった。
「ホッホッホ、まあそう落ち込むでない。わしからしてみればコウイチはかなり規格外じゃぞ? 魔力量も軽くわしを超えておるし、身体能力も高い。わしが苦労して開発した『死の光線』も軽々と習得してしまったしのぅ」
デット・レイとは、アデーレばあさんが俺に最初に見せた攻撃魔法、あの〝口からビーム〟である。俺もアデーレばあさんから教わったが(断じて口からは出していない)、威力は桁違いでアデーレばあさんには敵わない。それに発動にも時間がかかる。どうやら俺に攻撃魔法の才能はないようだ。
そして俺の唯一の攻撃魔法である。
「それも全部アデーレおばあさんのおかげだよ」
俺は目の前に立っている、16年前と比べ老いたアデーレばあさんを見る。
「明日、僕はここを出ることにするよ、アデーレおばあさん」
そして前々から考えていたことをアデーレばあさんに告白する。
ちなみに俺の口調は変わっていない。なんか容姿がさ……「俺っ!」て言う感じじゃないんだよね。思考とはだいぶ違うので、なんか変な感じがする。
アデーレばあさんは俺がこう言いだすことが分かっていたのか、さほど驚いていない様子だ。
「そうかぇ、……わしもちょうどいい時期だと思っておった」
アデーレばあさんは快く同意をしてくれる。
この16年間、異世界から転生した得体のしれない俺を、ずっと我が子のように育ててくれた。
アデーレばあさんにはものすごく感謝している。
「もし僕がお金を稼いだらさ、きっと恩返しするよ」
「ホッホッホ、期待しないで待っておるぞぇ」
アデーレばあさんはそういうと、俺の体を引き寄せて抱き締めた。最近俺の背のほうがアデーレばあさんより大きくなってしまって、抱きしめたとは言い難いようになってしまったが。
「魔王なんぞ倒さんでも、いつでも帰ってくるとええ」
「ありがとう…………」
俺はこの日のうちに旅の支度を終え、次の日にはこの小屋を旅立ったのであった。