第五話 なんか復活した
大変遅くなりました><
「なんと! それは誠か!?」
「はい、お父様。すべて事実です」
フィリティアナの命を救ったというコウイチと名乗る冒険者が帰った後、私はフィリティアナを自室に招いていた。外ではセバスティアンが控えているだろうが、部屋の中には私と娘のみ。テーブルの上に添えられた蝋燭の炎だけが薄暗く照らす中、私は娘からある報告を受けて思わず声を荒げてしまった。
「それではディナ女王に呼び出されたというのか?」
フィリティアナは黙って首を縦に振る。
「手紙を見てまさかと思ってはいたが……」
娘が失踪する前に残してあった置手紙には、詫びの言葉とともに『ディナ様のところへ向かいます』と書かれていた。私はこの一文に不安を覚えずにはいられなかった。
ディナ・シー・フェアリー。
ウルズ国王都ノルンから見て北西の方角にある『北の妖精王国』の女王である。
アルマータにはウルズ、ウェルザンディ、スクルドの国境の中心から4方向に4つの妖精王国が存在している。『北の妖精王国』はそのうちの一つであり、4つの妖精王国を束ねる実質リーダーのような存在で規模が一番大きい。
妖精王国の主な役目は、それぞれの王国に存在する妖精の女王が妖精王国内の妖精と各地の散らばっている妖精たちの加護を与え、妖精たちが暮らしている土地を保護することなのだが、この『北の妖精王国』の女王ディナには他の女王にはない特別な能力があり、その能力を使った役目があった。
その能力と言うのは『未来予知』であり、役目と言うのは妖精に被る災厄を伝達し、回避させることであった。
我がウルズ国は『北の妖精王国』と同盟のような関係を結んでいる。〝ような〟というのは、実際は正式な同盟ではなく、ウルズ国初代国王とディナ王女との間に交わされた口約束にしか過ぎないからだ。
その同盟内容は、災厄が降り注ぐときに妖精王国はウルズ側に伝え、ウルズ国は妖精王国に危機が迫る時に保護するというものだ。
ここまでは我がウルズ国にとってもとてもよい同盟なのだが、ただ一つ面倒な決まりごとがあった。
それは、妖精王国女王ディナ王女はウルズ国初代国王の正式な血筋でないと面会できない、というものだ。元々妖精は、妖精以外の種族と関係を持つことはない。初代国王とディナ王女との間に何があったのかは分からないが、初代国王はディナ王女ととても友好な関係にあったそうだ。
そのため、ディナ王女は王家の人間としか面会しない。新しい子供が生まれた際には必ずディナと面会させることが仕来たりとなっている。
私が手紙に不安を感じたのは、ディナ王女と面会するということはなにか我が国に災厄が降り注ぐというのと同義であり、過去の記録からその災厄の内容は1つしか存在していないからだ。
「魔王の復活……よりにもよってこの時期に・・・・・・」
ディナ王女の『未来予知』で予知できる災害は、戦争などの人為的ものではなく自然に起こる災害で、今までディナ王女がウルズ国に伝えた災害のほぼすべてが魔王復活の知らせだった。
魔王は大体100年から200年周期で復活し、近隣の国に重大な被害を与えるだけではなく、放っておくと世界中を巻き込む大惨事になりかねない。よって魔王復活の知らせはすぐさま世界中に通達され、それぞれの国で討伐隊などを編成して対処するのだ。魔王は時間が経つにつれてより強大になっていくので、逆に言えば早い段階で発見することができれば被害は最小限に抑えることができる。
しかし今は戦時中。魔王討伐に回す時間も金も戦力もない。
「……それで、今までの被害は?」
「今現在の被害はないそうです」
「ほう、今回はかなり早い段階で予知できたようだな。これならば魔王が動き出す前にこちらから仕掛け被害を出さずに済ますことも可能か」
そうなれば明日にでも部隊を派遣し、早々に始末するのが得策だろう。被害が出てないということは最小の戦力で排除できる。
と私が楽観的に考えていると、娘は顔を曇らせ困ったような表情をする。
「いいえ……魔王の復活は16年前にはすでに起こっていたと仰っていました」
「16年前っ!?」
娘の言った驚愕の事実に、再び大声を出してしまう。
「それはどういうことなのだ!」
「発見できたのは最近だそうです。それも予知ではなく、魔王の特殊な魔力を感じたことで。ディナ様が仰るには、今回の魔王は今までの魔王と何か違う、何か特別な力を持っているのではないかと」
ディナ王女にも予知できない魔王。このような魔王は少なくとも私は知る限り存在したことがない。しかも今まで被害が出ていないというのはおかしい。いくら力の弱い魔王でも、力を付けるのに必要な時間は5年もあれば十分。周りの魔物を進化させ統率し、やがて強力な魔王軍を率いてありとあらゆる生物をせん滅せんと襲い掛かってくるはずだ。
その魔王が16年も動かずにじっとしていたのだ。これは異例というレベルの問題ではない。
「それで出現位置は?」
「それが……最果ての大地にいると」
「まさか……そんなことが……!?」
最果ての大地。最果ての大地という名称は正式なものではなく、ただそう呼ばれているだけの未開拓地である。アルマータの最北端に位置し、それ以上先は何も存在しない言われている。一年中雪で覆われた氷の大地には生物が生存することができず、もちろんそのようなことろに住みつく種族もいない無人の大地だ。
どうりで被害が出ないはずだ。そこには生物どころか魔物でさえ存在していないのだから。
「と言うことは、魔王の軍は形成されていないというわけか?」
「はい、おそらくそうではないかと」
これで魔王軍が攻めてくるという心配はなくなった。しかし最果ての大地はアルマータ最北端に位置し、当然3大国の中で一番ウルズが近い。そしてウルズより南にあるスクルドと挟まれた状態になる。しかも16年の間発見されていなかったということは、今までにない想像を絶する力を有している可能性がある。これはウルズにとって存亡の危機と言っても過言ではない。
「予知ができないとなると、相手の力量もつかめないだろう。迂闊に手が出せないか……」
あまり大きな戦力を送ると、南側のスクルドに足をすくわれてしまう。だからと言って、少数の軍を送って無暗に戦力を減らすことも、ましては放置することもできない。
「……ディナ王女はこのことについて何か申していたか?」
「軍の勢力で攻めるのであればウェルザンディと相談して決めた方がよいと。もしくは〝例の召喚〟を行使するという手もあると仰っていました」
〝例の召喚〟。これはおそらく『勇者召喚』のことを指しているのだろう。
異世界から強力な力を持つ勇者を『勇者召喚』用の魔法陣で選び出し、召喚する。召喚された勇者はたいていこの世に存在しない能力を有していたり、膨大な魔力を秘めていたりと軍隊に勝る大きな戦力となる。
しかしこの召喚にもいくつかのデメリットがあり、そう易々と使えるわけではない。つまり、こういったやむを得ない状況でしか使うことができないのだ。
「……もし『勇者召喚』を行うとしたら、其方が召喚の儀を行うことになる」
「はい。それは承知しています」
『勇者召喚』は王族だけに引き継がれていた、いわば秘伝の魔法。今存在している王族の中で一番魔法に秀でているフィリティアナが『勇者召喚』を行うことは当然であろう。
だが、『勇者召喚』を行った術師には身体的負荷と精神的負荷がかかり、何週間も眠り続けてしまうという記録がある。
「余はあまり其方に負担をかけたくはないのだが……」
「私なら大丈夫ですお父様。むしろこのような大役、とても名誉に思いますわ」
不本意ながら、私はフィリティアナにたった二人でディナ王女の元へ向かわせてしまったのだ。護衛もいないとなれば相当な負担がかかっただろう。さらに『勇者召喚』の負担をかけさせてしまっては、フィリティアナの体が持たないかもしれない。
「……召喚は1カ月後に行う。その間にしっかりと休養しておくように。行事や会談などは余が話を通しておく」
「1カ月後でよろしいのですか?」
「ああ……。心配するでない」
確かに自体は一刻を争うが、敵の戦力が分からない以上偵察などの調査をしなければならない。また、儀式などの準備や市民への報告を考ると、このくらいが妥当な期間だろう。
「それにしても、なぜ旅立つ前に余に一言報告しなかったのだ?」
話がひと段落したので、気になっていたことをフィリティアナに尋ねる。
「報告したらお父様は必ず付いてくるじゃないですか。それも大量の兵士を連れて」
「あたりまえだ。可愛い娘を一人で危険な外に出せるものか」
「お父様はディナ様に疎まれていらっしゃるのをお忘れですか?」
「う……それは……」
あれはフィリティアナが生まれた時のことだ。初めての娘を持った私は、うれしさのあまりかなり過保護になってしまったのだ。そして恒例である娘とディナ王女との面談時、いつもは妖精王国の門前で控えさせている兵士を『心配だから!』と王国内まで連れてきてしまい、ディナ王女を怒らせてしまったのだ。
「それ以来、ディナ様はお父様とはお会いになられないと聞きました」
「……確かにそうだが」
「また同じようにお父様が兵士を連れて訪れていたら、今度こそ同盟が解消してしまう。そう判断したのです」
「しかし、せめて門前まで小隊で護衛を……」
「それだけで済みますか?」
「……」
それだけで済むはずがない。私がもしフィリティアナから報告を受けていたならば、軍隊を3つほど連れて行って護衛させただろう。
「それにディナ様は私のみをお呼びになりました」
まさか娘を守るために取った行動が、このような形で仇となるとは。
「夜が更けてしまったので、これで失礼します。お休みなさいませ、お父様」
「ああ。つき合せて悪かったな」
「いいえ。では」
そう言ってフィリティアナはそのまま私の部屋を後にした。
それからしばらくの時が経ち、誰もいなくなった狭い部屋で一人ため息をこぼし、扉の方へ声をかける。
「セバスティアン。そこに居るか?」
「ここにございます」
扉からセバスティアンの声が聞こえる。夜遅くだというのに、私とフィリティアナの話が終わるのを外で控えていたのだ。
「今の話は聞いていたな? 明日の朝、各署に連絡をたのむ。」
「かしこまりました」
足音もなくセバスティアンの気配が消える。いや、最初から気配など感じなかったがそんな気がしたのだ。
「……相変わらずだな」
セバスティアンは私が呼ぶといつの間にか現れ、用事を言いつけると音もなく去っていくのだ。もしセバスティアンが私を狙う刺客ならば、すぐに殺されてしまうだろう。
と、少し恐ろしいことを考えながら床につき、私は意識を手放した。
急いで書いたのでおかしなところがあります(断定w)
ご指摘・コメント等お待ちしております。