第四話 なんか王族の食卓?2
前回のあらすじ。
なんかデュオン王子が可哀想。救いはないんですか?
以上。
投稿遅れました><; 本当に申し訳ないです;;
『鳥の巣』と呼ばれる宿屋の夕食の時間は、もうとっくに過ぎているというのに、ロビー横の食堂はクエスト帰りの酒に酔った冒険者たちでごった返していた。冒険者たちはクエストで自分がいかに活躍したか、どんな戦利品を手に入れたかなど、自分の名誉を高らかに言い合いながら出された酒を楽しんでいる。これが彼らの冒険者としての日常の1コマなのだろう。
しかし俺はその活気にあふれる冒険者たちを一目見ることなく、重い足を引きずりながらロビーでサッサと泊る手続きを済ませると、指定された部屋に入りベッドにダイブする。
「つ、疲れた……」
時刻は午後11時を回った頃だろうか。下の階から聞こえる雑音を除けば、すでに皆寝静まりかえっているころだ。まさか王様との食事と面会がこんなにも時間がかかるものだとは思っていなかった。精々、『よくやった』お礼言われて、『帰っていいよ』で終わると思っていた。
人間普段慣れないことをすると、疲労が溜まりやすいらしく、王様との面会は先日のドラゴンとの戦闘よりもずっと疲れたような気がする。
誰だよ王様との面会なんて緊張しないなんて言ったやつ! ……俺か。
このまま目蓋を閉じてしまえばすぐに眠りに着くことができそうだが、服がこのままだというのも気持ち悪いし、今日あった出来事も頭の中で整理したいので、ここは一度我慢してベッドから起き上がる。
俺が借りた『鳥の巣』の個室は12畳ほど。前の宿屋でもそうだったが、個室にしては部屋が広い。いや、この世界の家屋が、俺のいた世界と比べ全体的に見て広いのだ。まったく羨ましい限りである。
しかし、部屋の内装はシンプルで、壁は木造床は石造、家具はベッドとクローゼットとテーブルとイスのみである。そのため部屋がより一層広く見えるので、日本育ちの俺としては些か落ち着かない。
俺はその広い部屋の隅にある、クローゼットの中に脱いだ服をかけると、体の汚れを落とす洗浄の魔法をかけ、荷物の中から寝巻を取り出し着替える。そして木造の椅子に腰かけ、今日あった出来事を振り返る。
***
王様とその家族との食事は、デュオン王子とシルヴィ姫の漫才(?)によって、和やかなムードの中で行始まった。最初の会話はデュオン王子をシルヴィ姫が弄るという、なんともデュオン王子の面目丸つぶれなものだったが、その後段々と俺に対する質問が多くなってきた。
どこの国出身だとか、どのような目的でウズルへやってきたのかなど、俺はヨゼフ王たちから様々な質問攻めにあう。恐らく精神がここまで疲労したのは、これが原因だろう。返答にはいちいち言葉を選び、言えないことがある時は誤魔化したり話を逸らしたりなど大変だった。
そして食事も一段落つき、侍女や執事が食器を片づけ始めたところで、ヨゼフ王が『さて、ここからが本題なのだが』と切り出す。俺はようやく質問攻めから逃れられたので安堵した。
「そちには先ほども言ったように、非常に感謝している。そこで余は、貴殿に何か感謝の証として褒美を与えたいと思っているのだが、何か希望はあるかね?」
と、ここでやっと俺を呼び出した本当の目的を話すヨゼフ王。
しかし俺はこの話を辞退する。なぜなら、ここで褒美をもらってしまうと、嫌でもウルズ国と繋がりができてしまうからだ。ただでさえスクルドの刺客に目を付けられたというのに、さらにウルズ国とも繋がってしまうとなれば、今度は貴族にも目をつけられるのではと考えたからだ。
少し考えすぎではないかとも思うが、慎重に事を運ぶに越したことはないので褒美は貰わないことにする。欲しいけどね!
しかしヨゼフ王も負けじと褒美を与えたがる。さすがフィリティアナ姫のお父さん、頑固なところがそっくりです。
いくらか話し合った末、結局褒美はまた今度ということになった。正直しつこいです、お父様。
話が終わり、そろそろお開きになるかと思ったのだが、ヨゼフ王は今度はリリスに矛先を向ける。というより、こちらの方が実際重要な話だったのだ。
そしてその時になってようやく気付いたのだが、リリスは出された料理にほとんど口を付けていなかった。
「リリスよ。余はそちにも話さなければならないことがある」
ヨゼフ王は、先ほどとはまた別の真剣な面持ちでそう切り出す。これにリリスは分かっていたかのようにヨゼフ王の目を見据え返事をする。
その話の内容は、簡単に言うとリリスの処罰についてだ。
ヨゼフ王曰く、国に仕える身であるにもかかわらずフィリティアナ姫の国外への無許可脱出を手助けし、危険な目にあわせたというものだった。
確かに、たとえフィリティアナ姫の頼みだとしてもここは協力せずに止めるべきだろう。時期からしても、フィリティアナ姫が狙われる危険性が高いことは容易に判断できたはずだ。
しかし、ヨゼフ王のこの発言にフィリティアナ姫は猛反発する。
「私が無理矢理リリスにお願いしたのです! リリスは悪くありません!」
「そのくらい分かっている」
「ではなぜ……!」
「余はお前の父であると同時にこの国の王だ。主観的に見ればお前の必死な頼みを断れなかったリリスは無実であるが、客観的にみるとそういうわけにもいかない。いくらリリスがお前の友だとしても、リリスは国に仕える騎士でありその責任を放棄することは許されないのだ。それにもし余がリリスを無罪とした場合、余に仕える貴族らが黙ってはいないだろう。分かるな? フィリティアナ」
「でも……でも……」
フィリティアナ姫はヨゼフ王に何も言い返すことができなくなる。ヨゼフ王の言った言葉はすべて事実だったからだろう。
「余がここにリリスを呼び出したのは、この件について謝罪するためだ。リリスよ、娘が迷惑をかけた」
そういって頭を下げるヨゼフ王。わざわざ食事にまで誘い謝罪したところをみると、ヨゼフ王も本当はリリスに罰を与えるのは気が進まないのだろう。
「いいえ、これはすべて私の意志です。フィリティアナ姫様をお止しなかったことも、協力したことも」
「リリス!?」
リリスの言葉に驚くフィリティアナ姫。
「私はフィリティアナ姫様のご行為は間違いではないと判断し、自ら罪を犯しました」
と、リリスは自分の罪を自ら告白する。リリスとフィリティアナ姫がここまでの危険を冒してまで達成しなければならない目的はいったい何だったのか。俺には知る術がない。
「では罪を認めるというのかね?」
「はい……どんな罰でもお受けいたします」
ヨゼフ王は目蓋を閉じ、リリスは決心がついたような面持でヨゼフ王の言葉を待っている。王族の皆さんは静まり返り、フィリティアナ姫は今にも泣き出しそうな顔をしている。
えっと……俺はものすごく場違いなんじゃないか?
一人蚊帳の外だった俺は、ますますこの場の重い雰囲気に耐えられなくなる。このままだと、すでに衰弱しきっている俺の精神が、暴走してしまいそうで怖い。
何とかしたいのは山々だが、ここで逆を行って雰囲気を和ませるのは論外だし、話を逸らすことも無理そうだ。
ならば解決する方法は一つ。
「あ、あの~」
しんと静まり返っている部屋に、俺の頼りない声が響いた。すると、この場にいた全員の視線が俺に集中する。
最近注目を浴びることが多いような気がするが、全く慣れる様子がない。これも主人公にはなれないモブキャラのステータスなのだろうか。
しかし、俺はそのプレッシャーに何とか耐えながら続けた。
「えっと……褒美の件についてなのですが、決まったので申し上げてもよろしいですか?」
「「…………」」
空気が凍る。部屋にはさらに重苦しい空気が立ち込める。
そして全員から『は? 何言ってんのこいつ、この状況で』という穏やかとは言い難い視線が刺さる。
しかし、ここまでは予想済み。ヨゼフ王も呆気にとられてはいたが、『申してみよ』と返事をくれた。
「私はリリス様の免罪を要望いたします」
***
結果を言うと俺の要望は受け入れられ、リリスは免罪された。
正確にはまだ確定ではなく、これから上位貴族たちとの会議で決断するらしい。もちろん俺の褒美の代わりにリリスを免罪するなど矛盾が生じて貴族たちが黙ってはいないだろうが、そこは何とかするそうだ。……何とかなるのか?
まあ、一介の冒険者に褒美を与え支出が発生するよりも、リリスを免罪することで損失を抑えた方がいいだろうという考えに至ることを願いたい。
そこで終わっていればめでたしめでたしだったのだが、この行為に感動したヨゼフ王が『ぜひ我が王国の騎士に志願してみないかね?』と俺への勧誘が始めたのだ。
それを必死に断り続け、さらにフィリティアナ姫からのお礼などなんやかんやあって現在の時刻まで帰ってこれなかったというのが現状だ。
「……これ国と繋がりできたとか言わないよな」
事あるごとに呼び出しをくらうとか、そういうのは勘弁してほしい。むしろ二度と行きたくない。
「……これから息をひそめて生活するか」
対策などは明日考えることにしよう。今日はいろいろありすぎて脳がショートしてしまいそうだ。
そして俺は再びベッドにダイブする。そして間もないうちに意識を手放すのであった。
なぜか回想になってしまった。なぜに?
読み返していって自己嫌悪に陥りましたw
ご指摘・コメント等
よろしくお願いします。