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なんか転生した  作者: 名もなき人
第二章  大地の国ウルズ
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第一話  なんか王の悩みの種

ここから第二章に入ります。

もしかしたら書き溜めに、更新が遅れるかもしれません;;

「はぁ……」


机に積み上がった書類の一部を片づけると、署名に使った、鷲魔じゅうまの羽を使って作られたペンを一旦机の上に置き、一つ大きな溜息を吐いた。ガラス張りの窓の外は薄暗い。いつの間にか一日が終わろうとしていた。

銀や金で軽く装飾された石造の書斎の壁に、等間隔で設置されてあるランプに魔法で火を灯す。薄暗くなった部屋は、ぼんやりと光るランプに照らされ、物影が作る陰影が一層くっきりと浮かび上がった。

すでに乾ききった目を閉じ、最近より皺の多くなった人差し指と親指で眉間を抑え、少し休もうと椅子の背もたれに寄りかかる。

ギシリ

木造りの椅子が軋む音が聞こえる。この椅子も長く使っている。先代王も愛用していた椅子だ、老朽化しているのは当たり前だろう。だが、積み上がった書類を見ると、椅子の新調を考える余裕などなかった。


ここ最近ろくに眠っていない。戦況報告、戦費の申請書、戦のための戦時免税の許可書、兵士たちの物資配給手続き、貴族たちのご機嫌伺いの手紙。これらを一つ一つ目を通し処理しているのだが、一向に減る様子はない。むしろ日々増え続けている。とても十分に眠る暇などないのだ。


だが、それは仕方のないことだった。今、我が国ウルズとスクルドは戦争状態にある。

スクルドは我が国と戦争を起こす以前にも、各国から忌み嫌われる存在であった。異種族の土地にいきなり攻め入り虐殺、略奪を繰り返す。大陸全体で禁忌とされている闇魔法の開発を進め、異種族の虐殺および実験のために行使した。


いつ何をしでかすか分からないスクルドは、アルマータにとって病原体と言える存在であった。しかしアルマータの三大国の一つと数えられているだけあって、その領土は広大であり、戦力も計り知れない。それに異種族の土地にまで手を出し、物資を得てさらに領土を拡大している。迂闊には手を出せないのだ。ゆえに、そのことを危惧した我が国は、近々『月の国ウェルザンディ』と協定を結ぼうと考えていた。

だが、協定を交わす前に、スクルドからの宣戦布告なしの攻撃を受け、我が国とスクルドは戦争状態へと突入した。相手の狙いは、我が国の領土と資源だろう。

我が国は『大地の国』と呼ばれるだけあって、豊富な作物や資源があり、三大国の中でもっとも豊かな国と言えただろう。剣や武術でも秀でていると言える。ただ、物を創造する技術は『月の国ウェルザンディ』に劣り、魔法の技術は『死の国スクルド』に劣っていた。つまり三大国は非常にバランスがとれており、お互いに協力し合えば理想国家の設立も夢ではないのだが。


「はあ……」


書斎の中にまた一つ、深い溜息がこぼれる。昔と比べすっかり色が抜け落ち、白く染まった頭髪を掻きながら、城を抜け出したバカ娘の顔を思い浮かべる。

私を悩ませているのはスクルドだけではない。むしろこっちの方が大きな悩みの種と言っていい。外からも内からも問題が起こり、近頃常に頭痛が絶えない。


「ヨゼフ様。そろそろお時間でございます」


部屋の中、ちょうど自分の間後ろの方から、掠れてはいるが高く凛とした声が響き、考えが中断される。その聞きなれた声に振りかえると、そこにはオールバックに片眼鏡、高い鼻の下には形の良い髭を蓄え、見事に執事服を着こなしているウルズ国王付きの執事セバスティアンの姿があった。

セバスティアンは私が振り返ると同時に、恭しく綺麗な一礼をする。が、彫の深い引き締まった顔は、いつもの通り無表情を貫いている。


「時間?」


「はい。8時からウェルザンディからお出でになった、使者様方との面会がございます」


「……ああ、そうであったな」


悩みの種の多さと、仕事の多さですっかり忘れていた。今日はウェルザンディから招いた使者との面会の予定があったのだ。この面会はこの国の将来を左右するものかもしれない。我が国は使者を通じて、ウェルザンディとの共同戦線の申し込みをしようとしていたのだ。

しかし『月の国ウェルザンディ』としても、スクルドは目の上のこぶに違いない。利害が一致するので、快く引き受けてくれると思うが……。


「持ち前の商業魂で、不利な条約を交わされなければよいが……」


ウェルザンディは物作りに長けているだけあって、商業も盛んであり、我が国とも友好な貿易関係を結んでいる。そして、現ウェルザンディ国王も、たぐい稀な商売上手と聞く。


「そこはヨゼフ様の交渉次第でございます」


「簡単に言ってくれる」


「事実をありのままに話すことが、私の役目でございますので」


「わかっておる……」


セバスティアンは、役目を確実にこなし妥協を許さない。執事は状況を冷静に見つめ、主を正しく導く役目があり、私はセバスティアンのそういう性格を買ってこの位の就かせたのだ。


「して……フィリティアナの捜索はどうなっておる?」


「はい。各城塞警護部隊隊長、及び各兵に捜索を出させておりますが、依然見つかっておりません。恐らく、ヘルメス様の〝あの〟魔法を行使して城から抜け出したもようでございます」


「あのバカ娘め……。悩みの種を増やしおって……」


ちょうど3週間前のことだ。スクルドとウルズとの国境に位置する、ロザヌス川の前線で戦っていた歩兵、長弓兵、槍兵を交えた先行部隊の伝令兵から、戦況が有利になってきたという報告を受けた。しかし、その朗報に喜ぶのもつかの間、フィリティアナについていた侍女の一人が、慌てた様子で書斎に訪れ、信じられない報告をする。

その内容は、フィリティアナ姫の脱走。部屋に置手紙があり、予知に従っての行動だという。私はその手紙を読み青ざめ、すぐに捜索の手配をしたが、結局今までフィリティアナを見つけることは出来なかった。


なぜフィリティアナはそんなことをしたのか。冷静で沈着なフィリティアナの行動としては、些かおかしいと思った。そして最近、フィリティアナの様子がおかしかったことに気がついた。


元々フィリティアナには予知の能力があった。それは天性的なのもで、城に仕える神官によって発覚したのだ。と言っても、確実な未来が予測できるわけではない。悪夢を見て何か悪いことが起きそうだとか、何か嫌な予感がするだとか、その程度であてにするほどの価値があるものではなかった。


だが、フィリティアナはここ最近、毎日悪夢を見るようになった。それがなんの予兆なのか、本人もよくわからないようで、実際何も起こることはなかった。

しかしフィリティアナはそのことをとても気にしているようだった。私は、あまり悩んでいては体に悪いと思い、あまり気にしないようにとその予知を軽視するようになった。フィリティアナに相談されても軽く答えるだけで、真剣に考えることはなかった。


残された置手紙によると、その予知に具体的なものを見出したらしい。それで城を抜け出した。だが、それは一国の王女として軽率すぎる行動だ。

私はもちろんのこと、私の妻やフィリティアナの兄や妹も心配をしている。無論国民には知らせてはいない。もしこのことが国民に知れ渡ったならば、国中が大混乱となり、士気も落ちてしまうだろう。だが、それにも限界がある。3週間も城を留守にすれば、噂の一つやふたつ出回るというものだ。


「一応リリス様も同行していますが、彼女もフィリティアナ姫様もまだ幼すぎます。早期発見に越したことはないでしょう」


「もう少し、心配しないように言えないのか。お前は」


「それが私の役目なので」


「そうだったな……」


ギシッ

私が立ち上がると、老朽化の進んだ椅子が再び軋み、木製独特の音を上げる。セバスティアンが即座に来賓用の服を用意し、部屋の外で控えていた3人の侍女が私を着替えさせる。

着替え終わり、書斎を出てウェルザンディの使者が待つ謁見の間へ向かおうと思った、その時、


トントン

木製の扉をたたく音が書斎の中に響く。その後、部屋の警護を務めていたと思われる兵の声が続く。


「国王様、伝令の者が参りました」


「そうか、通せ」


「はっ!」


警護兵が扉を開けると、伝令兵が部屋に入り跪く。


「報告します。フィリティアナ姫様、及びリリス様ご一行を城下南大門の検問所にて発見いたしました」


「なにっ!? それは誠か!?」


「はい。現在馬車と騎馬隊を派遣し、お身を保護。こちらへ向かっていらっしゃるとのことです」


「そうか……。私は今から用事があるのですぐには向かえない。城に着いたら私の部屋に通すようにしてくれ」


「はっ! そのように。……しかしもう一つ、ご報告がございます」


「なんだ。申してみよ」


伝令兵はやけに言いにくそうな顔をしている。少し間があって、ようやく口を開く。


「実はフィリティアナ姫様が旅の途中、冒険者ギルドにて冒険者をお雇いになられたようなのですが……。その冒険者に命を救われたらしく、その……お礼をしたいと」


「なっ……!」


私はその冒険者のことよりも、「命を救われた」という言葉に驚いた。命を救われたということは、命の危険があったということだからだ。


「フィ、フィリティアナは無事なのか!?」


「はっ! 幸い怪我一つございません」


「そ、そうか……」


その言葉を聞いた瞬間、肩の荷が落ち安堵の溜息が自然と零れ落ちた。と同時に、ここまで心配させた愛娘に対して怒りが沸き起こってきた。

後でみっちりお説教だな。今日は忙しいというのに……。


「ではその〝命の恩人〟も一緒に通すがよい。ご苦労だったな」


「はっ! 失礼します」


伝令兵は報告を終えると、そのまま部屋を出て行った。


城の一角、国王専用の書斎の中に再び静寂が訪れる。


「ウェルザンディとの交渉、お前がやってはくれまいか? セバスティアン」


その静寂を破るように、私の疲れきった声が響く。


「我が国の招きにわざわざ応じていただいた使者様方のお相手を、この一介の執事であるセバスティアンにお任せになると?」


「……冗談だ」


そういって私は、再び溜息を漏らすのであった。

執事と言ったらセバスチャンですよねw

読み方を変えてセバスティアンです。しかし愛称は変わらず「セバス」ですw


追記:ただいま、今までの話の文章などを編集しています。内容等は変更しません。

読者の皆様にいつも迷惑をかけてしまい、大変申し訳ないです;;

「ここの文章をこうしたらよいのでは?」というご指摘も募集しております。どうかよろしくお願いします。


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