第十九話 なんか紳士だった
久々の投稿です。
遅れて申し訳ないです;;
時刻は20時をまわった頃であろうか、当然この『ヴェゲルキャニオン』には街灯などは存在せず、崖の間の夜空に見える二つの月の光だけが、うっすらと辺りを照らしている。
そのわずかな光にあてられ、俺の隣で不気味に横たわっている黒い竜。俺が先ほど止めを刺した黒鉄竜シュバルツアイゼンである。
黒鉄竜は火山地帯がある『死の国スクルド』の南の地域に生息しているので、『大地の国ウルズ』に現れることは地理的に見てもありえない。つまり、あの白仮面はスクルドから遠く離れたウルズまで黒鉄竜を召喚したことになる。召喚できる距離は、術者の才能や魔力量によるのだが、ここまでの長い距離で召喚するのは、並大抵の術者では不可能だろう。
しかも召喚にかかる魔力は、召喚する者の格と大きさや質量で決まり、あの巨大なうえBランクである黒鉄竜を召喚したあの白仮面は、相当な実力者と言えよう。
スクルドの権力の高さは実力に比例するらしいのだが、あの白仮面は実力からして相当位が高いと思える。俺はその白仮面に名前と顔を見られ、「覚えておきますよ」なんて言われてしまったのだ。
嗚呼……転生後も短い人生だったな。
これから魔王を倒しに行かなければならないかもしれないのに、さらにスクルドという大きな敵を作ってしまったのだ。
まさに両手に爆弾。こんなにモテたのは前世合わせても初めてである。まったくもってうれしくないが……。
俺ががっくりと肩を落としていると、後ろから凛とした少女の声が聞こえた。
「ホジョ……いえ、コウイチ様。この度は助けていただきありがとうございました」
振り返ると、水色の綺麗な髪を垂らしながら、ペコリと頭を下げるフィリティアナ姫の姿があった。顔を上げ俺の素顔を見て、過ぐに顔を逸らす。頬は少し赤みを帯びているように見える。
どうせまた女と間違えられてるんだろうな……。
〝ホジョマジョさん〟と言いかけて途中で止めたということは、ミレイヤであった時の記憶はちゃんと残っているみたいだ。
「いえ、当然のことをしたまでです」
俺はもうホジョマジョさんと呼んでもらえないことに、一抹の寂しさを感じながら答える。『魔装変格』を使っているいじょう、ミレイヤは実在するのだが、本物のミレイヤは俺のことを知らない。つまり、この旅で知り合ったミレイヤはもう存在しないのだ。
「コウイチ。よかった、無事で」
フィリティアナ姫の背後から、赤い髪をたなびかせながらリリスがやってくる。リリスはフードのない俺の素顔を見て、少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻った。
俺はリリスにも声をかけようとしたのだが、すぐに目を逸らす。
「どうしたのだ?」
「いや……その」
チラッとリリスを見ると、きょとんとした顔でこちらを見ている。リリスは身に着けていた衣服を、あの忌々しい賊どもに破られてしまったので、今は裸の上に鎧を着けるのみとなっている。そしてリリスがつけている鎧は、動きやすいよう最低限のことろしか覆われていない。なので、その豊満な胸が作り出した芸術的な谷間や、剥き出しになっているほっそりとした白い太腿、女性らしい柔らかい曲線を描くボディーラインが丸見えなのだ。
つまり何が言いたいのかというと……目のやり場に困りますということだ。
これが伝説の裸エプロン……いやっ! 裸鎧ってやつなのか!?
「……これ羽織って」
俺はリリスを見ないように(できるだけ)努力しながらフードマントを脱ぎ、彼女の細めの肩にかける。フィリティアナ姫は、「まあ」と口に手を当て小さく驚いていたが、リリスは首をかしげ、俺の行動が理解不能と言う顔をしながら「ありがとう」と礼を言った。
どうやらリリスは、自分が男から厭らしい目で見られるという意識が薄いようだ。高校2年生で青春真っ盛りの俺としてはうれし……ゲフンゲフンッ! いやぁー、困ったものだ。
「うふふ、紳士なのですねコウイチ様は」
フィリティアナ姫は、口を押さえながら上品に笑う。そのほんのちょっとした動作にも、気品にあふれていてさすがお姫様と思える。
だが一言言いたいのだが、俺は紳士などではない。ただのチキンだ。
「あ、あのっ! ラナは、無事なんですか?」
話を逸らそうと何か話題を探していたのだが、その時重傷を負ったラナのことを思い出した。
「はい、今は治療を終え安全なところで休ませています。切り落とされた腕は何とか繋がりましたわ」
「そうですか……よかった」
ホッと胸をなでおろす俺。
しかしその安心感と同時に俺の心の中には罪悪感があった。俺が迷って悩んでいたせいで、ラナ達を命の危険にさらしてしまったのだ。
「すみません……僕がもっと早く駆けつけていれば」
「そんなことないぞコウイチ。お前が来てくれなければ、姫様は連れ去られ、私達は殺されていたのだからな……。私こそ姫様の護衛として失格だ」
俺が謝ると、リリスがそういって肩を落とす。
「そんなことありません! リリスはこの旅で、一所懸命私を守ってくれました。私こそ軽率な行動をして、敵に人質に取られてしまって……」
それに姫様も続き、三人の中に暗い雰囲気が漂う。
「いやっ! 僕がもっと早く!」
「私が敵を見抜けなかったからっ!」
「いえ、私の軽率な行動でっ!」
「いや僕が……」
「私が……」
「いえ私の」
「ちょっ!? ストッープッ!」
あれ? なんだこれ?
いつの間にか自虐大会になりつつあったのでとりあえず止めた。なんだか三人とも自分を責める癖があるようで、気持ちがどんどん悪い方へ悪い方へ向かっている。
「やめましょうこんな話。きりがありません」
「そうですわね。こんなことをしていても過去には戻れませんのに」
「しかし……始めたのはコウイチではなかったか?」
「あ……」
俺はリリスの的確な指摘に、間抜けな声を出す。その時の俺のとぼけた顔がおもしろかったのか、クスクスっと笑いだす二人。
なんか知らないが、場が和んできたのでよかった。と思ったのもつかの間、フィリティアナがいきなり真面目な顔になり、遠慮がちにこう尋ねてきた。
「それで単刀直入に聞きますが……。コウイチ様、あなたはいったい何者ですか?」
「……と言いますと?」
俺は質問に質問で返す。お前何者だ! といきなり言われて正確に答えられるものはいないだろう。
「魔法行使の正確さや素早さ、魔力量からしてもFランク冒険者のものとは思えません。私が見たことのない魔法まで使いこなしていました。それに、あの戦い方はどうも魔法使いとは思えませんでした」
あの危機的状況の中、よく見てるなこのお姫様は……。
「あー、それは最近冒険者になったからってだけですよ。ただの田舎から来た一般人です。魔法は大したものではありません、補助魔法使いですから」
正直あまり目立ちたくはないので、一般人ですよアピールをする。しかし証拠も何もないので信じてもらえるというわけでもない。ギルドカードは一応あるが、ギルド登録したときに何の調査もなく国籍も調べられなかったので、証拠にはならないだろう。
「そうですか……。しかしランクのほうはともかく、魔法のほうが気になりますね。……でも、命の恩人にそのような追求は致しませんわ」
やはりこのお姫様は優しすぎるんじゃないか? と心配になりながらも、何とか切り抜けられたことに安堵する。
「姫様。今日のところはここらで野営をして、明日出発された方がよろしいのでは?」
話がひと段落ついたところで、リリスがフィリティアナ姫に話しかける。
「ええ、そうしましょう」
その後、残った2人のリリスの従者、もといフィリティアナの従者たちもやってきて野営の準備を始めた。夜警は冒険者の中で残っている俺がすることになった。フィリティアナ姫やリリスに止められはしたが、ついでにラナの看護をするということで、渋々納得してくれた。
夜更かしはお肌の大敵。依頼主やお姫様に徹夜はさせられないのである。
「俺やっぱ紳士じゃね?」
夜が更けて皆が寝静まった頃、俺はラナの様子が気になり、ラナを休ませている布を敷き詰めた簡易ベッドに近づく。
ランプの光に灯され、ぼんやりと口のところまで毛布にくるまったラナの顔が浮かび上がっている。ちなみに俺のフードマントは返してもらった。リリスの服の換えを、壊れた馬車の中から発見したのだ。つまり、俺は再びフードを被った謎の男と化している。なんか落ち着くのだ。
俺は布に湖で汲んでいた冷たい水を湿らせ、ラナの額に流れる汗を拭ってやる。治癒魔法と言っても完璧ではない。腕は完全に繋がっているが、若干の痛みが残るのだ。その痛みに耐えているため、ラナはとても苦しそうな寝顔をしていた。
「ん……」
俺がラナの汗を拭っていると、ラナがうっすらと目を開けた。
「すいません。起こしてしまいましたか」
「あんた……生きていたのねっ! うっ……」
ラナは急に体を起こそうとして、痛みに顔を歪める。
「動いては駄目です、ラナさん。傷は治ってもまだ痛みは引いてないから」
俺はラナの頭を抱え、元の場所に戻す。
「あ、ありがと……」
「え?」
「な、なんでもないのっ!」
顔を赤らめながら小さく何か言ったような気がしたのだが、残念ながら聞き取ることができず、ラナは機嫌を悪くしてしまった。
「あの……コウイチ。迷惑掛けてごめんなさい」
と思ったら、急に悲しそうな顔になり謝ってくるラナ。
「ど、どうしたのですか? 急に。らしくないですよ?」
「……そうね」
いつもならここで「あんたに言われる筋合いはないわよっ!」とケンカ腰で掛かってくるのだが……。ラナは戦闘中、頭でも打ってしまったのだろうか?
「私ね……実は他の人とクエストするのEランク以来初めてなの」
「……ええ!?」
意外だった。Cランク冒険者と言えば、冒険者としても中堅にあたり、命にかかわるクエストも増えてくる。つまりパーティーを組む機会が増えてくるのだ。それに信頼のおける仲間を作り、毎回クエストでパーティーを組む、チームを作る冒険者も少なくはない。
ラナはEランク以来ずっと一人と言った。つまりCランクのクエストもすべて一人でこなしてきたことになる。
「どうしてパーティーを組まなかったのですか?」
「私の性格だと、すぐに仲間と喧嘩しちゃうのよ……Eランクの時も喧嘩ばかりしていたわ。もちろんクエストは順調に進まなかったし、むしろ一人でした方が早く仕事が片付いた。だからずっと一人でクエストをしてたの」
「あーなるほどっ! たしかにそうですね!」
「即理解!? もう少し慰めてよっ!」
「だって、その通りですもの」
「はぅ……やっぱり?」
ラナはそういうと、毛布を頭の上まで被る。
あれ? ちょっと正直に言いすぎたか。
「でも、僕はラナさんの性格、嫌いじゃないですよ?」
「え?」
ちょこっとだけ毛布から顔を出すラナ。その仕草がかわいいと思ってしまったのは内緒だ。
「最初は少々イラッときましたが、話しているうちにだんだん実はいい人なんだなと思えました」
「慰めようとしてるのか、侮辱しているのか分からない言い方ね……」
「それにラナさんは、依頼を達成しようと頑張ってたじゃないですか。あんな大きな大剣を軽々と振り回していて、すごくかっこよかったですよ?」
「でも……コウイチを弄ったり、魔物と戦ってるときに隙を作ったり、コウイチを弄ったり、ラングの挑発にのっちゃったり、コウイチを弄ったり……私ドジしてばっかり」
俺を弄ったのはドジの中に入るのか。てか弄り過ぎだろっ!
「それにラングに人質に取られたりしましたね」
「はぅ……」
再び毛布を被るラナ。
あ、しまった。つい本当のことを。
「でも俺が落石に襲われた時、泣いてくれてたんでよね? フィリティアナ姫様から聞きました」
「えぇっ!? それは……あ、欠伸よっ! 目にゴミが入ってくしゃみが出そうになって、眠くなって欠伸が出ただけよ! それでちょうど涙が出たのよっ!」
「ふふ……それは大変でしたね」
「そ、そうよっ! 別にあんたのために泣いたんじゃないんだからねっ!」
「はいはい、分かりましたよ」
「あーっ! もう全然信じてない! もう寝るおやすみっ!」
ガバッと毛布を巻いて反対向きになってしまったラナ。
フィリティアナ姫から聞いたミレイヤだったころの記憶で、ラナが泣いていたと聞いた時は正直驚いたが、どうやら本当のようだ。
「素直じゃありませんね。おやすみなさい」
素直になれないのはツンデレのステータスなのだろうか?
俺は眠ろうとしているラナを邪魔しないよう、少し離れた場所に行き、夜が明けるのを静かに待った。
コウイチは夜に仲良くなるのが得意なのだろうか?
ご指摘・ご感想等お願いします。
追記:これにて第一章が終了となりますw