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なんか転生した  作者: 名もなき人
第一章  なんか転生した
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第十四話  なんかピンチっぽい?

誤字・脱字がありましたらコメントください。

カラカラガタガタ

平地や森を走っていたころよりも、いささか大きな音を立てて進む馬車。それもそうだろう、いくら整備されているからといって、岩だらけのこの道をまっすぐきれいにするというのは不可能だ。崖の上から風化によって崩れた小さな岩や石が落ちてくるし、わずかに水が流れているのでどうしても表面がでこぼこしてしまう。

あんなに揺れてリリス(とその従者)は大丈夫だろうか? 俺だったら3秒で吐くね。むしろ馬に乗っていたほうが揺れが少ないくらいだ。


「ふぁ~暇ね。誰か適当に襲ってこないかしら」


横からのラナの物騒な発言に、俺の意識は思考から現実へと戻る。

というか、最近リリスのことばかり考えているような気がする……。いやっ違うよっ! そういうのじゃないんだからねっ!


「僕たちが暇だということは、いいことじゃないですか」


「あんたにいちいち言われなくても分かってるわよ! でも暇なものは暇なのよ!」


「うーん……。では『しりとり』でもしますか?」


「しりとり? なにそれ?」


あれ……アルマータには、しりとりないのか?

俺はラナしりとりの簡単な説明をする。するとミレイヤも寄ってきて、入れてほしいと言ってきた。おそらく俺が説明しているのが聞こえたのだろう。


「ふ~ん。つまらなそうだけど、仕方ないからやってあげるわ」


と言いつつも、やる気満々そうなラナ。ちょっと意外。こういうのが好きなのか?


「ミレイヤちゃん、ルール分かった?」


「ふっふっふ! ウチはちまたでは『しりとり女王』と呼ばれているような気がするので問題ありませんっ!」


気がするだけかよ! しかも今教えたばかりじゃん……。ミレイヤの巷の範囲が気になる。


「では、しりとりの〝り〟から始めますよ~。最初はミレイヤちゃんからね」


俺はミレイヤの発言はとりあえずスルーして、ゲームを開始するため仕切り始める。


「はいっ! えっと……〝リボン〟っ!」


「ルール無視っ!?」


「いや、今のは……れ、練習ですっ!」


「そ、そうなの……じゃあもう一回どうぞ」


「り、り、り……〝リボルリッチ〟っ!」


「ん~と、〝チュパカブラ〟」


ミレイヤの後にラナが続ける。

りぼるりっち? なんじゃそりゃ? この世界にはチュパカブラが存在するのか!?


「ら、ら、……〝ラジオ〟」


「はあ? なにそれ?」


「なんですかっ? 〝らじお〟って」


「……」


俺は今頃になって悟った。お互いの世界の名詞知らないとこのゲームは成立しないということに。


「……さて、次は『あっち向いてほい』をしましょう!」


「えっ! 終わったの!? しりとりって〝ん〟が出るまで続けるんじゃないの!?」


「ラナさん。時には退かねばならない戦いもあるのですよ……」


「そうなの……ってまだ一巡しかしてないじゃない!」


「では、誰にでもわかる〝あっち向いてほい〟のやり方をご説明いたします!」


「いぇーいっ!」


「無視するな! ってミレイヤも切り替え早いわよ!」


ラナの鋭い突っ込みが入る中、俺はあっち向いてほいの説明を始めようとした。その時、


ドゴンッ!


「……っ!?」


突如上空から、鼓膜が破けるかと思うほど大きな爆発音が聞こえる。


ガガガガガッ! ガラガラガラガラ……


爆発音が起こった次の瞬間には、地響きと岩が崩れ落ちる音が聞こえた。俺は咄嗟に音のした方へ目を向ける。

うそだろ……?


「……っ!? まずいっ! みんな走れぇっ!」


俺が見たもの。

それは爆破によって崩れ落ちた、無数の大きな岩や石が雨のように降ってくる光景だった。

俺の声に気付いた冒険者とリリスの馬車は、急いで速度を上げて逃れようとする。しかし、この『ヴェゲルキャニオン』を囲んでいる崖の傾斜度はほぼ90度。壁に当たったとしても、落ちてくる岩や石の速度は、ほぼ自由落下の速度と等しい。つまりこのまま逃げても間に合わない。


「……くそっ!」


もうすでにいくつかの岩が落ちてきている。今のところ奇跡的に当たってはいないが、道を塞ぐほどの大きな岩が落ちてきたらひとたまりもないだろう。

それに馬車のスピードが、馬に乗っている冒険者に比べると断然遅い。このままではリリスと従者たちが岩につぶされてしまう。


「くっ……馬車を捨てるぞっ! 走れぇっ!」


リリスが従者たちに指令を出す。馬車を引いていた馬を使ってもよかったのだが、馬車にくくりつけた縄を解く暇がなかったため、リリスと従者は走って逃げている。


「……っうわあああああああ!」


しかし落ちてくる岩の数はだんだんと増えてきて、一人の従者が下敷きになってしまった。

まずい。このままじゃ全滅だ!


「くそっ!」


「ちょっとあんたっ!? 何やってるのよ!」


一か八かの賭けだ。ラナが驚いていたが、俺はもと来た道をひき返し、リリス達がまだ走っている方へと向かう。


「コウイチ!? 何を!」


「リリスっ! いいから逃げてっ!」


こんな状況であったが、初めてリリスを呼び捨てにできたことをうれしく思う俺。


俺はリリスが逃げたことを確認すると、馬だけを逃がして岩が降ってきている上空を眺める。

数が多いな……。不特定多数だが魔力はもつか?

俺は両腕を天に向かって掲げ、範囲指定を最大にして無詠唱で魔法を発動させる。


重力解放グラビドリリース


ガクンッ

まるで激しい滝の水のように魔力が消失していく。俺は思わず膝をつくが、腕だけは天に向かって伸ばしていた。

俺の重力解放の魔法により、岩や石が宙を浮く。

本来ならば、重力から解放されたとしても力の方向がしたならば、慣性の法則により岩の速度は変わらないが、この重力解放の魔法は力の向きを一度リセットしてそのうえで重力から解放する魔法なので、このようにすべての岩が浮いたのだ。


「くっ……」


雨にぬれたように大量の汗が噴き出す。魔力の急激な減少により、頭痛やめまいが起きて、意識が遠のきそうだ。

まだだ……あともう少し。


リリスは膝をついている俺に気付いてこちらに来ようとしていたが、周りに居た従者に止められ先へ進んでいた。

よかった……。

俺の苦労も報われたというものだ。だが俺の生存はもはや絶望的だろう。魔力は尽きていないが、重力解放の魔法は体力も激しく消耗するので、魔法を解かなければ動くこともできないだろう。

最後にできることと言ったら……。



ガラガラガラ、ガガガガガガーンッ!

重力解放の魔法の効果が切れた岩が無数に落ちてきて、激しい地響きと地面との衝突音が聞こえたが、その後すぐに暗闇が覆い、何も見えなくなった。



※※※



ガラガラガラ、ガガガガガガーンッ!

後方でものすごい地響きと衝突音が聞こえる。今まで空中で止められていた岩が一気に落ちた音だ。なぜそんなことが起きたか、おそらくあいつがリリス様のことろへ向かった後に、何かの魔法を唱えていたから、それが原因だろう。

つまりあいつは、リリス様たちを救うために自ら犠牲になったのだ。


「そ、そんな……」


「コウイチっ! コウイチーっ!」


リリス様が今は静かになった崖崩れのほうに向かってあいつの名前を叫んでいた。

しかし、積み上がった岩の山からはだれの返答もなく、沈黙を維持していた。あれだけの数の岩だ、おそらく生きてはいないだろう。


「お願いします! 返事してくださいいぃっ!」


ミレイヤも大きな声をあげて、あいつに向かって叫んでいる。目にたくさんの涙を浮かべながら。


私は四肢の力が抜け膝をつき、ただ呆然とその光景を見つめていた。

私はあいつのことを口では馬鹿にしていたが、本当は内心面白いやつだと思っていた。最初は変なフードを被っていて、いけ好かないやつだと思っていたが、旅をしていてミレイヤと話しているあいつを見ていて、仲良くなりたいと思うようになっていた。


そして今日、私は初めてあいつとゲームを通じて普通に会話をした。正直とてもうれしかった。

いつも口を開けば他人の悪口を言ってしまう私は、小さいころからずっと友達が存在せず、今もなお孤独に一人で冒険者となり暮らしていたのだが、あいつは私が悪口を言っても避けたりしないで、普通に会話をしてくれた。

だからこのクエストが終わったら、友達になれるかなと思っていた。あいつは初クエストだと言っていたから、どこかの店で一緒に祝ってやろうとも考えていた。


だけどあいつは……

そんなことを考えていると、いつの間にか目から涙が零れ落ちていた。人のために泣いたのはいつぶりだっただろうか。久々に感じる頬を涙が伝う感触に、さらに私の気持ちは落ち込んでいく。


「うぅ……うわーん!」


ミレイヤがついに耐えきれなくなったのか、大きな声をあげて泣いた。それもそのはずだ。あいつがこの旅で一番仲良くしていたのはミレイヤだったし、ミレイヤのほうもあいつと一緒に居るのがとても楽しそうだったから。

私はミレイヤの近くにより、頭をなでてやる。今の私にはこれぐらいしかできない。私はあの時、もと来た道を戻っていくあいつを止められなかったのだから。

ミレイヤが私に抱きつき、涙が私の着物にシミを作った。


あたりはだんだん暗くなっていき、まるで私たちの心を表したかのように闇に染まっていった。


「……くっ、まだだ! まだ死んだとは決まっていない!」


リリス様はそういうと、がけ崩れのほうへ向かう。従者はあわてたように追いかけ、ミレイヤもそれに続く。


「わ、私も!」


私は涙を袖で乱暴に拭い、リリス様の後を追いかけようとした。


が、私は行くことができなかった。


後ろから私の首に、鋼色のバスタードソードを当てられて、身動きが取れなくなったからだ。


「……っ!?」


私は後ろを振り向くこともできないまま、自分に起きた状況を理解することができなかった。


「……だから言っただろう? 敵に後ろを取られないように注意しろと」


なぜなら私の耳元でささやかれた声の主は、私たちと行動を共にしていた冒険者の一人だったから。


作者の一言

・誰か従者の死を憐れんでください。

編集 


作者のミスで、最初ラルグと名乗っていたのに途中からラングと名前が変わっていました。

読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、「ラング」に名前を変更させていただきました。申し訳ないです;;

あと、バスターソードからバスタードソードに変更しました。


ご指摘してくださったアデリーさん ありがとうございました!

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