第九話 なんか変なあだ名ついた
なんかお気に入り登録数がかなり増えた。何があったっ!?
とにかく、お気に入り登録してくれた方々、評価してくださった方々、ありがとうございますっ!
それと指摘コメントもいただきました! とても助かります!
あーあー。本日は晴天なり。本日は晴天なり。
とマイクテストしたくなるくらいの雲ひとつない青空。日当たり良好で、馬に跨っていても思わず眠くなってしまう。
ヴィロムスを出発した護衛対象の団体と俺たち冒険者一行は王都ノルンを目指し、パカパカカラカラと馬と馬車を進めていた。目の前には大きな平原が広がっている。
まだ出発から1日もたっていないため整備されたきれいな道が続いているが、ヴィロムスから王都に行くには、大きな森と断崖絶壁に囲まれた谷間を抜けなければならないそうで、整備された道はそう長く続かない。とリリスの従者が教えてくれた。
「見て、ロバート12世っ! あそこで大人しそうな魔物さんたちがじゃれ合ってるよっ!」
ミレイヤが遠くに見える草食の魔物を指差し、馬と会話している。
あれ? あのロナウド5世じゃなかったっけ? そんなことを思いつつも、このお茶目少女に心癒される俺であった。
「コウイチさんっ! あの魔物さんおいしそうですっ! 捕まえて食べましょうっ!」
「いや、食うのかよ!?」
ミレイヤがじゃれ合ってる魔物をかわいいと見つめていたと思っていた俺は、ついツッコんでしまう。
「ああっ! おいしそうな魔物さんたちが襲われてますぅ~」
ミレイヤが指差したあの草食の魔物たちは、なんか肉食っぽい魔物に襲われていた。しかし草食の魔物たちは意外と素早いようだ。
あ、逃げられてる、晩飯逃したみたい。んで、こっちに来るわけだよな~。
など間抜けなことを考えているうちにその狂暴そうな魔物はこちらへ向かってきた。
魔物は、見た目はオオカミ。でも俊敏さもオオカミとは比べ物にならないし、頭に2本の角を生やしている。数は15、6匹ってところだろうか。
「ホーンウルフ……。出番みたいね」
ラナが馬から降りて魔物に向かって走り出す。どうやらあの角オオカミはホーンウルフというらしい。そんままだな。
「……」
ラングは無言でうなずき、ラナの後を追う。相変わらず無駄なことは話さない。
「よくもウチの晩御飯をぉ~~」
ミレイヤはそういって馬に跨ったまま、魔物とある程度距離をとりつつ弓を引いている。意外と器用なんだな。
「俺も行くか」
ランクは一番低いが、足手まといになるのは嫌だ。俺はミレイヤと同じように馬に跨ったまま移動する。
「はあああぁぁっ!」
ラナの大剣による重い一撃に3匹の角オオカミが吹っ飛ぶ。ラナの大剣の柄の部分には、魔物の毛皮らしきものが装飾されており、刀身はおそらく牙を鍛えたものだろう。
おお、あの重そうな大剣で俊敏な角オオカミをとらえるとはなかなかのものだ。ランクCというのは伊達ではないようだ。
ラングは鋼色のバスタードソードを片手で振り回しながら角オオカミたちをなぎ払っている。
ストンッストンッ
ミレイヤは3本に2本当てるような精度で弓矢を放っている。あの素早い角オオカミに対して、馬に乗りながらなかなかの正確さだ。ミレイヤは木と魔物の皮や腱を張り合わせた複合弓を使用しているらしい。
俺は他の冒険者の動きに感心しながら、タクトを腰から抜いて構え、魔法効果範囲を前に居る3人に絞り魔法を唱える。
『モノ・オムネスブースト』
〝腕力強化魔法発動〟
〝脚力強化魔法発動〟
〝視覚強化魔法発動〟
〝聴覚強化魔法発動〟
無詠唱で瞬時に4つの魔法が発動する。
どうやら魔法は成功したようだ。3人の動きが前と比べて素早く強くなる。
「なっ!?」
「……ふむ」
「ふぇえ?」
俺が何も言葉をかけていなかったせいか、3人ともそれぞれの反応を見せる。
「あ、あんたいつのまに! それに急に掛けないでよねっ!」
ラナはそういってさらに素早くなった動きで角オオカミたちを吹き飛ばす。
しかし余所見をしていたせいか、2匹の角オオカミたちが後ろから迫ってきていることに気付かない。
「『スラッシュ』っ!」
ラングの叫びとともに、足元に白い魔法陣が現れる。ラングが物理攻撃のスキルを発動したのだ。バスタードソードで空を切ると、距離が離れていたはずの2匹の角オオカミたちは真っ二つになった。
あれがスキルか……。初めて見た。
スキルとは、魔法使いが使う魔法とは違うが、魔力を消費することで発動する戦士などの技の総称である。詠唱は必要なくすぐに発動することができるが、物理的攻撃しか与えることができないため距離や威力に制限がある。
今ラングが使用した『スラッシュ』は、日本風でいえば『かまいたち』のようなもので、少し離れた相手に斬撃を与えることができる技だ。
「気をつけろ」
「ちょ、ちょっと油断してただけよっ!」
ラングの言葉にさらに角オオカミたちを殲滅していくラナ。その合間を縫ってミレイヤの放つ矢が角オオカミを襲う。
ああ、なんかこれ。出番なくね? まあ、必要ないだろうけど一応やるか。
戦える角オオカミたちは10匹ほどになっていた。俺はそれらの角オオカミの足と地面に標準を合わせ魔法を唱える。
『固定化』
ガシ、ガシ、ガシンッ! 硬質な金属を弾いたような音が鳴る。そして角オオカミたちの動きが止まる。
これによって、角オオカミたちは一気にラナたちの攻撃を受け戦闘はあっという間に終わり、平原には再び穏やかな雰囲気が流れ始める。
「みなさん、お疲れ様です」
「コウイチさんっ! すごいです、あんな数の素早いホーンウルフを同時に止めちゃうなんてっ!」
「そうかな? 僕はミレイヤちゃんの馬上での弓の命中率のほうがすごいと思うけど?」
「そ、そうですか? えへへ」
ミレイヤは照れたように頭の後ろを書いてモジモジしている。
あ~和むわ~。
「ちょっとあんたたち! おしゃべりしてないで素材はぎ取るの手伝いなさいよ!」
俺がミレイヤで和んでいるとラナに声をかけられる。俺とミレイヤは馬から降りて、腰にさしたサバイバルナイフのようなもので素材をはぎ取るのを手伝った。
はぎ取って使える部位は魔物によってそれぞれ違い、このホーンウルフは毛皮と角をはぎ取ることができる。
そしてはぎ取りが終わったか、もしくはそのまま放置された魔物はやがて自然魔力の『ダスト』に還元されるので死骸は放置したままでいいのだ。
「すいませーん!」
俺たちのはぎ取りが終わったころ、後ろのほうで待機していたリリスの従者の一人がこちらに向かって声を上げた。
「今日の移動はここまでにします。今から野宿するところを決めて、野営の準備に取り掛かりましょう。」
「わかったわ」
「了解した」
「分かりました」
「えへへ、了解ですっ! 隊長っ!」
分かっていると思うが最後に返事をしたのはミレイヤである。あのリリスの従者はいつから隊長に昇格したんだろう。しかし従者のほうもまんざらではない様子だ。って、おい。
というわけて、一日目の護衛は特に問題なく終了。野営の準備を済ませ夕食をとった俺たちは、冒険者同士で話し合い夜警の順番を決めた。
今日がラナで、ミレイヤ、ラング、俺という順番になったのだが、ラナ曰く、「あんたは初めてのクエストみたいだから、体調壊して足手まといになったら困るわ。旅に慣れるためにも最後にしなさい」と気を使ってくれた。
実は優しいんだなっと思ったが「あんたが夜警してると闇討ちされそうで怖いわ。変なフードかぶってるし」と言われた。どうやらただ警戒されているだけらしい。
続いて2日目、3日目と何も起こらず、俺たち冒険者は暇な時を過ごしていた。
長時間馬に乗っていたせいで、ミレイヤが腰が痛くなり始め涙目になったので治癒魔法を掛けてやったらすごく懐かれた。
「痛くなくなったっ!? コウイチさんはもしや魔法使い!?」
「今頃っ!? 結構魔法つかってたと思うんだけどな……」
「え、でも攻撃魔法使ってなかったじゃないですか」
「ああ。僕、補助魔法使いだし」
「何よ補助魔法使いって! 聞いたことないわ」
俺とミレイヤがイチャイチャ(勝手に俺が思っている)していると、嫉妬した(勝手に…以下略)ラナが割り込んでくる。
「まさか補助魔法しか使えないんじゃないでしょうね」
「補助魔法しか使えないんじゃなくて、補助魔法しか使わないんですよ、僕は。」
「何でよっ! もっと攻撃的な魔法も習得すればいいじゃない」
「……保身って、大事ですよね?」
「……あきれた。あなたってヘタレだったのね」
はぁ。とため息を吐いてラナが離れていく。悪かったな、ヘタレで。
「すごいですっ! コウイチさんっ! 冒険者としてはあるまじきヘタレっぷりですっ!」
あれ、それって誉めてるの? ねぇ誉めてるの?
「これからもよろしくですっ! 〝ホジョマジョ〟さんっ!」
「え? 〝ホジョマジョ〟?」
「そうですっ! 補助魔法使いイマジョウ、略して〝ホジョマジョ〟ですっ! いま2秒で考えましたっ!」
なんか変なあだ名がついた。あだ名なのにコウイチより長くなってるじゃん!
しかも補助魔女みたいで嫌なんですけどっ! 何その日曜朝七時からやってそうな番組のネーミングっ!? ってかフードかぶってるのにまた女扱い!?
「あ! ホジョマジョさんっ! あそこにおいしそうな魔物さんを発見っ!」
どうやらもうすでに定着してしまったらしい。
ああ、もういいや。楽しそうだし……ツッコむのはよそう。
この日も特に異常はなく移動は終了。明日はリリスの従者が言っていた大きな森とやらに入るらしい。
このまま何も起こらないとうれしいな。おっと、いかんいかんっ! フラグみたいじゃん今の。
などどうでもいいことを考えながら俺は眠気に身を任せた。
ラングとリリスのセリフが皆無な件について。
…………仕様ですb