天才投資家レイナが、天然ジュンヤに敗北する!
都内某所。
高層ビルの一室。
複数のモニターに映る株価チャートが、異様な動きをしていた。
「……また、こいつ」
女は、静かに呟いた。
切れ長の目。無駄のない所作。
スーツ姿のその女は、“勝つことが当たり前”の人間だった。
名前は――神崎レイナ。
25歳。
外資系投資会社のエース。
市場では“女王”と呼ばれている。
「このタイミングで入って、このタイミングで抜ける……ありえない」
偶然ではない。
完全に、“未来を知っている動き”。
「調べて」
背後の部下に命じる。
「このトレーダー、必ず見つけなさい」
⸻
一方その頃。
ジュンヤは、コンビニで悩んでいた。
「……高い」
目の前には、180円のコーヒー。
(これ、贅沢すぎませんか……?うちには冷蔵庫がないワンルームだから、飲み切れないしな、)
口座には、数十億。
だが。
彼の中の基準は、何も変わっていなかった。
「100円のにしますか……」
そのとき。
「――あなた、ですね」
後ろから声がした。
振り返る。
そこにいたのは――
“場違いなほど整った女”。
「えっと……どちらさまですか?」
神崎レイナは、まっすぐジュンヤを見下ろす。
「あなたが、あの取引をしている人間で間違いないですね」
「……あの取引?」
「とぼけないでください」
一歩、距離を詰める。
「あなた、何者ですか?」
ジュンヤは、少し考えたあと答えた。
「……えっと、無職で、特に何者て人じゃねえっす」
沈黙。
「ふざけているんですか?」
「いえ、ガチで…..」
神崎の眉がわずかに動く。
この女、今まで“理解できない人間”に出会ったことがない。
だが目の前の男は――
理解の外にいる。
「あなたの取引は異常です」
「そうかな?」
「そうかな、じゃありません」
ジュンヤは、少し安心したように頷く。
「よかった。怒られることじゃないんですね」
「怒ってます!!」
コンビニの店員がちらりと見る。
神崎は一瞬で冷静さを取り戻した。
「……場所を変えましょう」
⸻
数分後。
近くのカフェ。
神崎はストレートに切り込む。
「あなた、インサイダーですか?」
「いんさいだー……?」
「情報を事前に知って取引しているんじゃないんですか」
ジュンヤは少し考える。
(未来を知ってる……みたいな感じだけど)
「似てるかもしれません」
「やはり」
神崎の目が鋭くなる。
「その情報源は?」
「えっと……メールです」
「メール?」
「はい。知らない人から来ます」
神崎は、一瞬だけ言葉を失った。
「……本気で言ってるんですか?」
「はい」
「それを信じて取引してると?」
「今のところ、全部当たってるので」
沈黙。
完全に、常識が通じない。
だが。
だからこそ分かる。
――こいつは、本物だ。
神崎は、深く息を吐いた。
「……いいでしょう」
決めた。
「私と組みなさい」
「組む?」
「あなたのその力。個人で扱えるものじゃない」
当然の提案。
合理的な判断。
だが。
ジュンヤは首をかしげた。
「……一人じゃダメなんですか?」
「ダメです」
「なんでですか?」
神崎は、はっきりと言い切る。
「あなた、確実に破滅します」
ジュンヤは、少しだけ考えて。
そして、こう言った。
「……じゃあ」
神崎が目を細める。
「試してみますか?」
「何を?」
「どっちが正しいか」
静かに、言う。
「次の取引」
空気が変わる。
「僕、一人でやってみます」
神崎の目に、初めて“興奮”が宿る。
「……面白い」
女王は、笑った。
「いいでしょう」
勝負だ。
市場を舞台にした、異常者同士の。
「後悔しないでくださいね」
ジュンヤは、少し困ったように笑う。
「大丈夫です」
そして、ぽつりと。
「なんとかなってるので、今まで」
その一言が。
神崎レイナの“常識”を、完全に壊した。




