資産が1億円に変わる朝
ジュンヤは一晩、眠れなかった。
スマホを握ったまま、ただ画面を見続けていた。
「……ありえない」
口に出しても、現実は変わらない。
増えている。
確実に、金が増えている。
たった一度の取引で、数万円だった資金は数十万円に膨れ上がっていた。
普通なら、ここで終わる。
“たまたま運が良かった”で片付く話だ。
だが。
――ピロン。
再び、通知音が鳴る。
『次はベビたんベッド株を10時に買え』
「……また来た」
指が震える。
怖いのか、期待しているのか、自分でも分からない。
ただ一つ言えるのは――
これに乗れば、人生が変わる。
「……やる」
購入。
数分後。
株価が動き出す。
最初は微々たる変化。
だが次第に。
ぐん、と。
明らかに異常な角度で上昇していく。
「……っ!」
呼吸が浅くなる。
画面から目が離せない。
『今すぐ売れ』
指示が来る。
――売却。
次の瞬間。
チャートが、さらに急騰した。
「また……一番いいところ……」
偶然じゃない。
これは完全に“操作されている”。
いや、違う。
未来を知っている。
ジュンヤは、震える手で資産欄を開いた。
そして、固まる。
「……一億」
たった一晩で。
自分が。
一億円を持っている。
笑いがこみ上げる。
止まらない。
「はは……はははっ(笑)……!」
あの部屋。
あのナイフ。
あの絶望。
全部が、遠い過去のようだった。
そのとき。
画面に、これまでと違うメッセージが表示される。
『金は力だ。だが、使い方を誤れば、お前もまた喰われる側になる』
「……誰だよ、お前」
初めて、“意思”を感じる文章。
ただの指示じゃない。
これは――会話だ。
『次で、お前は試される』
画面が、暗転する。
ジュンヤは、ゆっくりと息を吐いた。
そして、呟く。
「……いいよ」
どうせ、失うものはもうない。
だったら。
「全部、取りにいく」
その目は、もう死を選ぼうとした男のものではなかった。




