秀吉、世界を相手に遊ぶ
会社を去ったジュンヤは一人で市場に立ち、国家すら揺らす“見えない戦争”に足を踏み入れる。
ニュースが、世界を駆け巡った。
「新興国通貨、急落」
「大手ファンド、巨額損失」
「原因不明の市場変動」
誰も、理由を説明できなかった。
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その中心にいる男は。
「……寒い」
コンビニの前で、コーヒーを飲んでいた。
ジュンヤ。
一人。
スーツでもない。
組織にも属していない。
ただの、個人。
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「……これでいいのかな」
スマホを見る。
数字が並ぶ。
桁が、もう現実じゃない。
だが。
「……つまんないな」
ぽつりと呟く。
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――ピロン。
『贅沢なことを言うでない』
「……秀吉さん」
少しだけ、安心する声。
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『世界が相手で、つまらぬとはのう』
「なんか……」
言葉を探す。
「誰も顔が見えないからですかね」
『ほう』
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「会社の時は」
神崎の顔が、よぎる。
「誰かのためにやってる感じがあったんですけど」
今は違う。
ただの数字。
ただの勝ち負け。
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『ならば、顔が見える戦をすればよい』
「……戦?」
『うむ』
少しだけ、楽しそうな気配。
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そのとき。
ニュース速報。
『某国、通貨防衛のため市場介入』
ジュンヤは、画面を見る。
「……ああ」
分かる。
動きが。
焦りが。
恐怖が。
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「これ、崩れますね」
『うむ』
即答。
『あそこはもう持たん』
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ジュンヤは、少しだけ迷う。
「……これ、やったら」
言葉にする。
「国、壊れますよね」
静かに。
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『壊れるのは国ではない』
秀吉の声。
低くなる。
『弱き構造じゃ』
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「でも……」
『止めるか?』
問い。
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ジュンヤは、考える。
数秒。
そして。
「……やります」
静かに。
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スマホを操作する。
ポジションを取る。
巨大な。
一個人とは思えない量。
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数分後。
市場が、反応する。
「……来た」
ジュンヤが呟く。
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下がる。
一気に。
通貨が。
株が。
連鎖する。
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遠くの国で。
悲鳴が上がる。
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「介入しろ!」
「資金が足りません!」
「誰だ、この売りは!」
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だが。
誰も知らない。
その引き金を引いたのが。
コンビニ前の男だということを。
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ジュンヤは、画面を見る。
無表情で。
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「……すごいですね」
『何がじゃ』
「こんなに簡単に、壊れるんだなって」
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沈黙。
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『それが“力”じゃ』
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ジュンヤは、目を閉じる。
「……これでいいんですかね」
誰に聞くでもなく。
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『良いも悪いもない』
秀吉の声。
静かに。
『おぬしが選んだ道じゃ』
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そのとき。
ジュンヤの頭に。
神崎の顔が浮かぶ。
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(……俺、何やってるんだろ)
一瞬だけ。
迷い。
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だが。
次の瞬間。
画面が光る。
新たな動き。
新たな“戦”。
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「……忙しいな」
小さく笑う。
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その日。
一つの国の経済が、崩れた。
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だがそれは。
始まりに過ぎなかった。
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数日後。
世界の金融機関で、ある噂が流れる。
「見えないトレーダーがいる」
「市場を読んでいるんじゃない、“決めている”」
「名前は……分からない」
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ジュンヤは、知らない。
自分が今。
“伝説”になり始めていることを。
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そして。
スマホが、また鳴る。
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『次は、もっと大きいぞ』
「……どこですか」
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少しの間。
そして。
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『戦争じゃ』
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「……え?」
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『国家同士の、のう』
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ジュンヤは、画面を見る。
世界地図。
点と点。
資金の流れ。
思惑。
恐怖。
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全部、見える。
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「……やば」
少しだけ、笑う。
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「楽しそうですね」




