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第8章 イニシエーション 2

 私は恐々《おそるおそる》、リルジーナの左手に自分の右手を重ねた。

 「柔っ!」

 このポンントビューウィックに初めて私が来た日に、リルジーナと握手を交わした事を私は思い出した。

 マシュマロが御免なさいと脱帽するしかない、リルジーナの柔らかい手を握って、不安だった私の気持ちは不思議に落ち着いた。

 「さあ、参りましょう」

 私は思い切り目を閉じた。

 「ユウカ様、幽体離脱は終わりましたよ」

 「へっ?」

 「眼下をご覧下さい。ユウカ様とわたくしの身体が見えるでしょう?」

 リルジーナにそう言われて眼下を見下ろすと、そこには優雅な顔付きのリルジーナと、歯を食いしばって力一杯目を閉じている間抜けづらの私がいた。

 「嘘?」


 「あれがつい先程まで、わたくし達が現実感を得ていた、『肉体』と呼ばれている3次元の身体です」

 「う~ん」

 「わたくし達は下位4次元からこの情景を俯瞰ふかんしていますが、上位3次元と下位4次元は次元膜の上下で接続していますので、ご自身の肉体が見える様にと、今回は空間として上位3次元を選択しました」

 「空間が上位3次元って事は、リンドウからは見えるって事?」

 「いいえ、わたくし達の姿は今のリンドウでは見る事が出来ません。わたくし達は既に幽体と言う肉体よりも精妙な身体をまとっているからです。要するに一種の幽霊状態に成っているのです」

 私は、遂に幽霊にまで成ってしまったのか?

 「さあ、ユウカ様、それではそろそろ霊体に離脱致しましょう!」

 未だヤルのか!

 って、お約束だもんね、仕方が無いか。


 「今度は霊体なので実際に上位4次元空間に移動します」

 「え、ええーっ?上位4次元に移動するの?」

 「そうですよ。上位4次元はマヤの故郷が有る次元です。わたくしに残されいる離脱可能時間は長くは無いので、一気に次元上昇を行います」

 トレーニングブースにいた時は、私とリルジーナは隣り合う座席で片手を合わせていたが、今は二人共、空中に浮揚して手を繋いでいる状態だった。

 「次元上昇で大切な事はひとつだけです。幽体の場合は、今にも空を飛べそうだと言う感覚です。ユウカ様、今は身体が軽く成って、空を飛べそうな感覚が有りませんか?」

 リルジーナからそう言われて、私は自分の現在の身体状況を探って見た。

 確かに、これまでは重ね着をした上にコートまで羽織っていたのが、今は半袖の薄いシャツと短パンを履いている様な気分だった。

 しかも、今にも大空を舞えそうな感覚が確かに有った。

 「準備は完了しました。それでは上位4次元に参りましょう!」

 私は繋いでいた手を、リルジーナから強く引っ張り上げられた。


 「はい、上位4次元に到着です」

 「早っ!」

 「後は霊体に離脱するだけです。身体の離脱は心身共にリラックスする事です。本番ではわたくしよりも身体離脱に熟練した使徒が、サラフィーリア様から送られて来ますので、この経験さえしていれば、高次元での遊泳をお楽しみ戴けますよ」

 リルジーナは繋いでいた私の手を、更に強く引っ張った。

 あの細身で上品極まりないリルジーナに、これだけ強い力が有ったとは!

 私はかつてリンドウが言った、「僕は未だ地球人類の力加減に慣れていないので」と言う言葉を思い出していた。


 「どうですか?霊体の着心地は?」

 先刻まで半袖シャツと短パン状態だったが、今は素っ裸に成った様な感覚が有って、私は何となく恥ずかしかった。

 「ユウカ様、眼下に先程まで纏っていた幽体が見えるでしょう?」 

 リルジーナにそう言われて眼下を見下ろすと、私とリルジーナの幽体が見えた。

 私は、歯を食いしばって力一杯目を閉じている状態では無く、其れなりに平穏な顔付きをしていた。

 そして私とリルジーナの幽体は、蛍光色に光輝いていた。

 「訓練はこれで終わりです。わたくしに残されている時間はもう少しなので、急いで上位3次元に戻りましょう!」


 私がトレーニングルームで目を覚ました時、隣の座席にいる筈のリルジーナの姿は見えなかった。

 私がよろよろとした足取りで、トレーニングブースから出ると、そこにはリンドウが笑顔で待っていた。

 「ユウカ様、お疲れ様でした。無事に訓練が終了したそうで何よりです」

 「リルジーナ様は?」

 「艦長の所に報告に行かれています」

 「あ、そう」

 「ユウカ様、何かお飲みに成りますか?」

 私は喉が渇き切っていた。

 「じゃあ、オレンジジュースをお願いするわ」

 「了解です」

 リンドウはそう言うと、この部屋から出て行こうとした。


 「その前に、リンドウ!」

 「えっ?」

 リンドウは私の方に振り返った。

 振り返ったリンドウを、私はぎろりとにらみ付けた。

 「サラフィーリア様からは、今回の訓練は全てリンドウに任せているって聞いていたんだけど、貴方がした事は私にバイバイの手を振っただけだったよね」

 「ああ、その事ですか?それはサラフィーリア様のジョ-クです」

 「ジョ-クですって!」

 「ええ、僕は下位5次元の存在ですよ。僕に出来るのは精々幽体離脱のサポートまでで、とても霊体離脱のサポートとかは無理です。だから今朝、リルジーナ様がユウカ様のお部屋を訪問されたでしょう?」

 最初から、リルジーナが私のサポートをする手筈だったのか。

 それにしても、サラフィーリアのジョ-クは私には分かりづらい。

 てか、全く笑えないし。

 我が母ながら、サラフィーリのジョ-ク感覚には、私は付いて行けないと思った。


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