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第7章 マヤズメモリーズ 10

 「マーヤ公女様、お初にお目に掛かります。 私はジルベッフル・マーシャルと申します」

 ダウンズが連れて来たその男性は、内に深々と頭を下げた。 

 彼は青年と呼ぶには少し老けて見えたが、ピクシー族にしては立派な体格の持ち主だった。

 「ジルベッフル・マーシャル? ああ、先のスカラデン家当主、スカラデン=フリーゼル侯爵の一番上の姉君のご子息ね」

 「私の事をご存知とは、恐悦至極でございます」

 「マーシャル、余りかしこまらないでね。 貴方はジルベッフル家の当主で、ベルゼン郷の領主卿だったわね」

 「ええ、その通りでございます」

 「まあ、立ち話も何だから、こちらに座って下さいな。 爺、陛下もお見えなので、何か飲み物を持って来て頂戴」

 「かしこまりました、姫」

 マーシャルは、ビンセントの隣の椅子に腰掛けた。


 「マーシャル、今回は王室メンバーに加わって呉れて有難う。 この事は先程、陛下にもお話したのだけれど、土爵と言う爵位しか授与が出来無くて御免なさいね」

 「滅相もございません。卿位だけでも恐れ多かったのに、爵位まで賜りまして」

 「爵位は只の資格の様な物で、マーシャルにはベルゼン郷領主としての手腕に期待しているの。 ベルゼンは近々郡に格上げして、ピクシア王国の守備の要にする予定だから」

 「はっ! 陛下と公女様の為に、精一杯、私お尽しする事をお誓いします」

 その時、爺とダウンズが軽食と飲み物を運んで来た。

 「マーヤ公女様、朕がマーシャルをここに呼んだのは、彼がコボルト共に対して、こちらが先に仕掛ける方策が有ると言うので・・・」

 内は、ビンセントのその言葉を聞いて、何かしら希望が溢れて来た。

 「まあ、本当? 実は内もずっとその事を考えていたんだけど、中々、妙案は浮かばなくて。マーシャル、是非、貴方の策を聞かせて!」

 「私の考えと言うよりは公女様への情報提供です。 お役に立てれば良いのですが・・・」

 「いいえ、何かのヒントが得られるかも知れないから」

 「そうですか」


 爺とダウンズがお互いの顔を見合わせて、頷き合った。

 「そう言うお話なら、少しお酒でも召し上がった方が盛り上がられるのは?」

 ダウンズが、爺よりも先に内らに声を掛けた。

 「陛下は未だ未成年ですが、国王に対して何かを言う者などおりませんし、これからは外交でお酒を召し上がる機会も増えます」

 「そうだな。それでは今の内に、少しばかり飲酒の練習をして置くとしよう」

 爺からそう言われて、ビンセントが同意した段階で、これから酒盛りが始まる事は確定した。

 「サミルカンドを代表する地酒、バッキーノなの?」

 「公女様、バッキーノも良いお酒ですが、実はスカラデン家には代々伝わる秘蔵酒が有るのです。 名前は無いのでスカラ酒とでもお呼び下さい」

 「ほう? それは朕も初めて聞いた。それは是非共、お二人に振る舞って呉れ」

 「承知!」


 ダウンズが持参したその秘蔵酒は信じられない程、まろややな酒だった。

 「まあ、何て美味しいお酒なのでしょう?」 

 内が皆と乾杯を終えてそう言った時には、爺とダウンズは給仕の女性を残してこの部屋から去っていた。

 ダウンズは長年、スカラデン家の執事を努めていたし、爺は内だけでは無く皇太子の世話役もしていたから、今頃はスカラ酒を吞みながら積る話でもしているのだろう。

 「私の策のひとつ目は、コボルト帝国の内部を二つの勢力に分断する策です」

 「え~っ?そんな事が出来るの?」

 「皆様もご存知の通り、コボルト帝国の国家元首は、世襲では無く権力闘争に勝った者がその座に就く方式です」

 「そうね」

 「コボルト帝国の現皇帝のガバンは元々は軍部の総棟梁で、ドリードックスの入植に関して強権を発動して押し進めた結果、国民からは嫌われている一面が有るのです」

 「成程、これは何だか良い話が聞けそうだわ。 さあ、皆さん呑みましょう。 陛下もどうぞ」

 「それではお言葉に甘えて」

 それまで、恐る恐る吞んでいたビンセントだったが、内の言葉でスカラ酒が注がれていた盃を一気に吞み干した。

 給仕の女性が、直ぐにビンセントの盃にスカラ酒を注いだ。

 ビンセントも国王に成ったのだから、お酒も鍛えなくてはね。


 「今、コボルト帝国で人気があるのは、軍部の現総棟梁で有るバルバドスです。 彼はドリードックスの入植を肯定していますが、ドリードックスにはコボルト帝国の領地を割譲すべきだと言う考えです。 ですが、今の所はその事は伏せて、ガバンに従っている振りをしています」

 「そうなの? それじぁ、バルバドスに工作を仕掛けるとでも?」

 内も、思わずスカラ酒の盃を一気呑みした。

 「先ずは、ドワーフ帝国のゼシーノ皇帝陛下の救出を、コボルト帝国以外の全種族に呼び掛けるのです」

 「そうしたいのは山々だけど、内は事件が起きて7日後にドワーフ帝国に出向いて、今回の不始末のお詫びと共に、共闘してゼシーノ陛下を救出しようと申し出たのだけれど、丞相総大臣のダワコフはそれには乗り気では無かった」

 内は、その時の事を思い出して、深い溜息を吐いた。


 「下手にコボルト帝国を刺激したら、ゼシーノ皇帝陛下のお命が危ないと言われたのでしょう?」

 「どうしてそれを?」

 「実は、ゼシーノ陛下の拉致を、ガバンに進言したのはバルバドスなのです。 が単純なガバンはゼシーノ陛下を拉致してドワーフ帝国を脅す事で、ドワーフ帝国を自分の側に付かせようと考えたのです」

 「う~ん」

 「ですが、コボルト帝国の総棟梁バルバドスとドワーフ帝国の丞相総大臣のダワコフは裏で繋がっているのです」

 「まさか?」

 「今回の全種族会議に出席した元首はゼシーノ陛下だけだったでしょう? それはダワコフがゼシーノ陛下に出席を勧めたからです」

 内は、給仕が注いで呉れたスカラ酒を、口に運ぶしか無かった。

 「今回のゼシーノ皇帝陛下の拉致は、バルバドスとダワコフが仕組んだと言うの?」


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