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第7章 マヤズメモリーズ 7

 翌日、両陛下と皇太子夫妻の遺体がマガリアの兵士達に守られて、サミルカンドの地に運ばれて来た。

 サミルカンド市への入り口で有る城門前で、内の他にも、カチューシエ妹大公マイタイゴウ后、ビンセント侯爵、今朝早くにサミルカンドに到着した姉のソミーナ第一王女、センドリック大聖教、それに若きサミルカンド市長のマブルバリオス伯爵等の主だった者達が、四台の棺を出迎えた。

 サミルカンド市長で有るマブルバリオスの祖父は、先々代の王スカラディンプルグ十七世の次男で、先代のレノマダス二十一世が国王に即位した折に王室を去り、「伯爵マブルバリオス家」を賜ってサミルカンド市長に就任した。

 現市長のマブルバリオス=レグナスは、その次男の孫に当り、現マブルバリオス家の当主で、内とは従曾姪孫じゅうそうてっそんの間柄で有った。

 実は、このレグナスからは王室メンバーに加入する事の承諾を、内は既に受け取っていた。

 その為、レグナスは一昨日の会合には参加していなかったのだ。

 

 スカラディンプルグ十七世は、王室が途絶える事を懸念して側室を多く迎えた。

 先代のレノマダス二十一世だけが正室の子息で、レグナスの祖父は側室では最も高位に有る王貴妃の子息で、異なる貴妃を母に持つ三男と四男は、それぞれ「麗爵エステナローズ家」と「華爵ヘルグモンド家」を賜った。

 だが、四男の「ヘルグモンド家」は子息に恵まれず、歴代、当主は入り婿が努めていた。

 一昨日、内に質問をしたナジャ郷の領主が、入り婿のヘルグモンド華爵で、内とは血の繋がりは無い。


 やがて、棺は粛々とカチューシエとビンセントが住む、スカラデン家の館に歩を進めた。

 市中には、弔意を表す白い布が、どの家からも吊されていた。

 棺を見た姉のソミーナは泣き崩れ、カチューシエとビンセントもその両目に涙を浮かべていたが、内は既に泣き過ぎて涙が枯れていた事と、今後の国土防衛の事で頭が一杯だったので涙を流す事は無かった。

 若しかしたら、ソミーナからは内は薄情な奴に映ったかも知れない。


 その棺の中に眠る一人で有る、ヘルナンデス皇太子は内に取っては実の弟なのだが、ヘルナンデスは幼くしてドワーフ王国の国王家に預けられた。

 |ドワーフ王国の厳しい戒律に身《ルビを入力…》を置いて、自らを律する習慣を身に付けさせる事と、彼らの優れた軍務に関する知識を得る為の一種の留学だったが、だ母に甘えたい年頃だったのに、可哀そうだと思った事が内には有る。

 ヘルナンデスが300歳を迎えた頃、彼は若くして婚礼が決まった事でドワーフ王国を去ってピクシア王国に戻って来たが、教師達から帝王学を詰め込まる日々で、宮廷内で顔を合わせて挨拶を交わす事は有ったが、遂に内と親しくする機会は無かった。

 それは、姉のソミーナも同じだったが。

 男子が誕生する機会に恵まれないピクシー族では、男子には周囲から過剰な期待が掛かる。

 それが王家とも成れば尚更だ。

 思えば、余り甘える事も楽しい時間を過ごす事も少ない境遇に耐えて、これからが真に活躍する舞台に登る筈だった弟の事を思うと、涙が枯れ切っていたと思っていた内の眼に、一筋の涙がこぼれた。


 それから、スカラデン家の祭壇に置かれた棺に、センドリック大聖教猊下を筆頭に、スフィアン教会から聖教が2名と大司教が3名が来館して、死者を弔う慰霊の儀がおごそかに行われた。

 国王陛下を含む4体の遺体は、スカラデン家の氷室に安置された。

 「マーヤ、お疲れ様でした。后達は悲しんでばかりはいられないわね。ビンセントの即位式も有る事だし。少しは食べて皆が元気に成らないと」

 猊下とスフィアン教の者達を見送ってから、カチューシエは内にそう言った。

 「久し振りにソミーナがこの館に来て呉れているから、少し時間は早いけど、身内だけで晩餐を摂りましょう」

 「叔母上様、ビンセントの即位式は王室メンバーが決まった後に成ります。即位式に合わせて彼等への尊称授与式も行いますので」

 「マーヤ、后は言った筈ですよ。まつりごとは全てマーヤにお任せすると」

 カチューシエはそう言うと、執事のダウンズに晩餐の用意を命じた。


 内に取って、この一か月は多忙を極めた為に、慌ただしく時が過ぎて行った。

 居住区の建設と倉庫の増設、畑と果樹園の拡張の方は、順調に滑り出していたが、軍隊と軍備の強化には時間が経かりそうだった。

 それから、辺境に有る郷が敵から襲撃を受けた際の対応策にも時間を取られた。


 コボルト共の襲撃で一番怖いのは弓矢に依る攻撃だったが、ピクシー族は弓矢が届かない高さに舞い上がる事は出来るので、当面は安全なのだが、体力面では劣るので長時間の飛行は出来ない。

 その為、近郊の地上に降りてそこで休息を取る必要が有る。

 そこでの休息中をコボルト軍に襲われたら万事休すだ。

 どちらの方向に逃げたのかは、コボルト共も目視で分かるからだ。

 内は、それぞれの郷毎に、襲撃を受けた場合の一時的な避難場所を指定し、それを各郷に伝達した。

 コボルト軍は、ピクシア王国の土地勘は無いので、内が指定した一時避難場所の洞窟等を早期に発見するのは至難の業の筈だった。


 加えて内は、レインボーバード族と特約を締結した。

 それは、コボルト軍がピクシア王国に侵攻を開始した時点から、上空から彼らの動向を偵察して我々に知らせる役目に関する特約だった。

 そして、ピクシー族が指定された避難場所に退避したと言う情報をペガサス公国に知らせる事までが特約に含んだ。

 レインボーバード族は国を持たない飛遊ひゆうの民だ。

 だがどの国家も、レインボーバード族には報酬を支払っているとは言え、道義的な借りが有るので、彼らの求めが有れば喜んで肥沃な土地を一時的に貸与した。

 レインボーバード族は、その地で子孫を残す事が常だった。


 古代より、ピクシー族とペガサス族とは友好関係に有り、現代でも我が父、リチャーダイン五世国王とペガサス公国の公主、ヘンドリクス公とは昵懇じっこんの仲だった。

 そこで内は、ペガサス公国に出向き、有事の際はペガサス公国から「天馬船」を出して、ピクシー王国の民を救出して貰う条約を締結した。

 ペガサス族は、この惑星パーリアでその輸送力の高さでは他の追従を全く許さない。

 何しろ、ペガサス十頭立ての天馬船で、ピクシー族なら3三百精を遥かに超える数を、一度に長距離輸送を行う事が出来るのだ。

 だが、辺境郷でもその精口は十万前後は有るので、その全員を救出する為には、天馬船が三百隻は出動しなければ成らない。

 出動するペガサスの数は三千頭に上る。

 内とヘンドリクス公との交渉の結果、ピクシー王国から十頭立て天馬船を百五十隻建造してペガサス公国に献納する事と、天馬船1回の出動毎に80万ヴィンを支払う事で合意した。

 幾ら裕福なピクシー王国と言えども、ひとつの郷の救出に二千四百万ヴィンの支出は安い物では無かった。

 彼らの労力を考えれば、その値段は相場に比べても相当に良心的な物では有ったのだが。

 兎に角、国民の安全を第一に考え無ければ!

 内は喜んでその条約に王印で調印をした。


 「愈々《いよいよ》、今日が王室メンバーの締め切り日ですな」

 振り向くと、爺が内の部屋に入って来ていた。

 「爺か?お陰で内が期待していた最低限の数は、何とか確保する事が出来たね」

 「今の段階で、王室メンバーへの加入を承諾した者は十四名ですな」

 「それでも、今の四名に比べれば四倍だわ。内はその事をとても有り難く思う。それに運良く、彼らは皆、粒揃いの人材だし」

 「確かに!」

 「さあ、今から爺と二人で酒盛りを始めるよ!」

 「酒盛りですか?未だ、昼過ぎですが・・・」

 「良いのよ。他国との間で特約と条約は締結したけど。内政は全てが現在進行形。この王室メンバー拡大が内が初めて完結させた内政よ。お祝いをしなきゃ」

 「おお。そう言う事なら、この爺、どこまでもお付き合いを致しますぞ、姫」

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