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第7章 マヤズメモリーズ 6

 「内は最初、コボルト共の狙いが王室の絶滅に有ると考えていたけど、思案を重ねると、コボルト共はパーリヤ最古の王朝、ピクシア王国の王室を絶滅させれば全種族から大反発を受けるから、別の方法で彼等の目的を果たそうとしていると思うの」

 内は、王室男系と血の繋がりが有る25名の者達の前で自説を説いていた。

「即ち彼らの狙いは、ピクシア王国を全面降伏させて、その領地を大幅に割譲させる事に有る。何故なら宇宙漂流民だったドリードックスは、このパーリヤの地に自分達の土地も国も持っていないから」

 会場に集まっていた者達の間に、さわめきが起こった。

 

 亡き父、リチャーダイン五世の王室範典改正案に沿って、父の先々代に当るスカラディンプルグ十七世以降の男系の王族の子孫、男女併せて40名に、内は書簡を送ったのだが、この場に集まったのは25名だけだった。

 残りの15名は、色々と理由を付けて出席を断って来ていた。

 その事は内に取っては想定内で、寧ろ25名も集まって呉れた事の方が望外の喜びだった。

 「だから今回、皆さんが王室メンバーに成ってもその身に危険が及ぶと言う事は無いと考えて貰って構わないわ。それよりもこの国家存亡の危機に、王家と血縁が有る者達が一致団結して事に当ると言う、ピクシア王国の決意を内外に示す事が第一義的な目的なのよ」

 内の言葉で、参加者に一定の安心感が生まれた様な気配は感じられた。


 「王室メンバーに加わって呉れる方には、現在検討している尊称を贈ると共に、政府の歳入から王室公費を皆さんには支給します。皆さんの主なお仕事は外交です。主に他国への使者として出向いて貰う事に成ると思う。勿論、他国との交渉等は閣府の専門家達が行うから、使者の代表としてピクシア王国の風格を示して貰えればそれで良いの」

 「それには、コボルト帝国への使者も含まれますか?」

 ナジャと言う郷の領主を務めている者が、内に質問した。

 「まさか!そんな危険な任務を皆さんにお願いする事は有りません。それから貴方はナジャの領主でしたね。今回、王室メンバーに加わったからと言って、領主の様な行政上の職位はそのままよ」

 「了解しました」

 「王女様、行政上の役職を持たない者は、サミルカンドに居を移さなければ成らないのですか?」

 今度は別の者が内に質問した。

 「王室メンバーに加わったからと言って、サミルカンドに移住する必要は有りません」

 「そうですか、それをお聞きして安心しました」


 「ですが、これは王室メンバーに限った事では無くて、現在、内と宰相殿及び行政閣府の大臣達との間で詰めを行っている事項が有ります。これは未だ決定事項では無いので、5日後までには皆さんには書簡で内容をお知らせします。要は、コボルト帝国はパーリアで最強の武力を誇る国ですし、ドリードックスに至ってはその軍事力は完全に未知数です。ドリードックスは先程もお話した通り、宇宙漂流民ですから、強大な軍備を持っているとは考えにくいのですが、コボルト共が凶行に及んだと言う事は、彼らにも勝算が有っての事ですから油断は禁物です」

 「お尋ねし難いのですが、私共に支給されると言う王室公費の金額は如何いかほどでしょうか?

 更に、今度は女性の参加者から質問が有った。

 彼女が若し既婚者だったら、嫁ぎ先との関係上、王室公費の金額が気に成るのは当然かと思って、内は心の中で苦笑した。

 だが、この質問のお陰で居住地を5か所に絞る事を、この場で言わなくても済みそうな話の流れに成ったので、内は彼女の質問に感謝した。


 「未だ決定はされていませんが、皆さんの顔は潰さない額にします。この事は皆さんのご判断に影響しますので、5日後までに個別にご連絡を致します。その金額は王家との繋がりの深さに依って、皆さんに贈る尊称も異なり、王室公費の支給額はその尊称毎に異なるからです」

 「分かりました」

 その女性は、内の言葉に納得した。

 「それでは、この会合はこれで終了します。不明な点は書簡でお尋ね下さい。答える事が出来る範囲で早急に返事を送りますから。ですが、この非常事態ゆえに全ての事を迅速に決める必要が有ります。皆さんには申し訳無いのですが、最終回答は1か月後の来月20日とさせて戴きます。その期限までに回答が無かった場合は辞退された物として処理しますので宜しくお願いします」

 内の閉会宣言で、参加者たちはそれぞれ何かを話し合いながら、この場から去った。


 何人が王室メンバーに加わって呉れるのか、それは内にも予想が付かなかった。

 王家の血筋だと言っても、その子孫達の大半は長い間、単なる庶民だったのだ。

 今更、王家としての気骨や責任感を求める事自体が、所詮は無理な話だったのかも知れない。

 兎に角、内はするべき仕事はした。

 後は結果を、座して待とう!

 内は、この会合で疲れを覚えたので、その夜は早々に床に就いた。


 「マーヤ王女様のご指示に従って、我々は懸命に検討を重ねたのですが、流石に全国民を5か所に収容する事は無理でございます」

 内にそう言ったのは、各地の領主達を監督する国土大臣だった。

 「仮の住まいだとしても、それを建設するには相当の時間がかります。それにそれぞれの郷には畑や果樹園が有るので、彼らを全員、その5か所に移住させれば、ピクシアの民は食糧難に陥ってしますます」

 この国土大臣が指摘した事は、内も考えて見ていた。

 只、コボルト共は一気に全面戦争を仕掛けては来ないだろうが、早々に幾つかの辺鄙な郷を占領して来る事は予想する事が出来た。

 内の信念は、戦争で国民を生命の危険にさらさないと言う事で有る。

 その為には、我が国に取って現在が、如何に危機的な状況なのかを全国民に対して警鐘を鳴らしたかったのだ。

 勿論、新たな「居住区」が完成しなければ、移住などは出来ない話なので、内は関連する閣僚達にどれだけの時間を与えれば「居住区」が完成するのかを検討させていたのだ。


 「より早期に必要な数の住居を建設するには、拠点は5か所よりも、10か所に増やす方が、それぞれの拠点の近郊から木材や建材を確保出来るので良ろしいかと存じます」

 そう提案したのは、建設大臣だった。

 「マーヤ王女様がお決めに成られた5か所は確かに守りに適しております。従いまして敵が攻めて来た時の防衛の拠点と、反撃の拠点として外せ無い事は確かです」

 今度は防衛大臣が発言した。

 「しかし最悪の場合は、ここサミルカンドと新首都のトルミアードを中核都市として、一種の地域的籠城作戦で抵抗する必要が有ります」

 防衛大臣のこの発言の後に、制服組トップの幕僚総長が捕捉を加えた。

 「軍の現場からは、建設大臣が言われた更なる5か所の拠点選定は、サミルカンドとトルミアードから距離的に近い郷にして戴けると助かります。2拠点だけより7拠点の方が色々と有機的な作戦が取れるからです」

 内は、この幕僚総長の意見は尤もだと思った。


 新たに宰相に就任したセンドリック大聖教の方を見ると、内が予想した通り、彼は既に閣僚達の意見に賛同している様子だった。

 両陛下と皇太子夫妻が殺害された事で、ピクシア王国の民に不安が広まっているとは言え、1万5千年間も平和を享受して来たから、彼らに内と同じ水準で危機感を持てと言う方が土台、無理な話だったのかも知れない。

 その事は、昨日の王家血縁者との会合でも、内は痛感していた。

 確かに敵から未だ攻撃も受けていない段階で、居住区の準備が整う度に段階的な移住を民に命じれば、彼らの反発を招く恐れが有る。

 そしてその反発が、王室や政府に対する不信感に繋がれば、挙国一致体制など望むべくも無い。

 内は決断した。


 「皆の意見は良く分かった。ではこうしましょう。先ず拠点と成る郡は、既決の5か所とサミルカンドとトルミアードの近郊に有る郷を5か所加えて、計10か所とします」

 私が決定事項を話始めたので、閣僚達は一斉にメモに筆を走らせた。

 「次に、地域的籠城戦に備えて、その10か所の畑や果樹園を順次拡大すると共に、倉庫を増設して食料や嗜好品等の備蓄を開始します」

 閣僚の多くが、内の言葉に頷きながらメモを取っていた。

 「最後に、国民には移住では無く、有事に備えて皆の避難場所を建設すると伝えます。以上」

 「おお、マーヤ王女様、ご英明です」

 閣僚達は、口々に内の決定事項に賛意を表した。

 「それじゃ、皆さん。至急、その線で国民に伝える内容の骨子を纏めて頂戴ね」

 内がそう言って会議室を後にしようとした時、閣僚達だけでは無くセンドリックまで、コウーメの礼で内を見送って呉れた。


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