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第6章 アカシックな冒険 10

 ライラック号が、ゾー ンマトリに戻っても海は静かなままで、セキュリティが発動されている気配は無かった。

「マヤ様、不気味な位、静かですね」

 ハローズは呟いた。

「糞牛の目は未だくるくると回っているのさ! だけどハローズ、ここで焦っては駄目だよ! 低速飛行で抜けるよ」

 私は、ブちゃんが私達の行動を既に許している事を確信していたが、その事は二人には黙っていた。


「了解しました」

 私達が、ゾーンマトリを出る時、ゾーンマトリの出入り口の受付は、私達にはっきりと「アディオス」と別れの言葉を掛けた。

 そして、ゼノンの記憶を出る時は「オ・ルヴォワール」と声を掛けられた。

 ゼノン記憶を出るまでは、出入り口の場所を記録していたが、ゼノンの記憶を出たエリアはポートとの通路が無数に広がっていた。

「ここまではマザーの自動誘導で来たから、ポート234への通路が分からない! 通路は一体何処(どこ)だ! 虱潰しらみつぶしに探したら時間が幾ら有っても足らないよ。 ハローズ、どうする?」

「帰りも自動誘導をお願いしましょう! マヤ様、マザーにポート234に誘導する旨を伝えて下さい」

「成程、流石はハローズ!」

 マヤが珍しくハローズを褒めた。


「こちらは、閲覧申請ナンバーHGZ91658907SP、閲覧を完了しました! ポート234への誘導をお願いします」

 マザーからは返答は無かったが、飛行を停止していたライラック号をマザーはポート234に誘導し始めた。

 やがて、ライラックは無事にポート234に到着した。

 最後の最後で、ニューロンニホンでの蛮行がとがめられるかと、マヤとハローズは心配していた様子だったがそれは杞憂に終わった。

「お疲れ様でした。 今から皆さんの声紋の確認を行います。 各自、ヒエラルキーを述べて下さい」

 私達は、それぞれ自身のヒエラルキーを述べた。

「皆さんの声紋一致が確認されました。 マザーは、皆様の又のお越しをお待ちしております」

 マザーからの別れの言葉を背に、私達はポイントビューウィックに向かって帰路に就いた。


 私は、マザーからポイントビューウィックに帰還する道中、マヤの口数が極端に少ない事が気に成っていた。

 ハローズは、無事にマザーから出域が出来たので、終始、ご機嫌でマヤに色々と話し掛けていたが、マヤの方は、その度に「ハローズは頑張ったね」とぼそりと呟くばかりだった。

 マヤが破格の元気印の持ち主で有っても、あの小さな身体からだだ。

 そして、ニューロンニホンではあれだけの活躍をやって退けたのだ。

 マヤが疲れを感じていても全く不思議は無いと私は思った。


 私はビューウィックに着艦する前に、宇宙空間の中に地球を探した。

 今回は、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の北部が夜を迎えている様だった。

 ロサンゼルスとサンフランシスコの二つの灯りが先に私の目に止まり、やがて位置的にニューヨークに間違いない更に大きくて美しい輝きが見えた。

 それから今回の私は、太陽を反射して輝く月の明かりも見る事が出来た。

「やはり、お月様は神秘的で美しい!」

 其れから暫くして、私たちは無事、母船に帰還した。


 ポイントヴューイックの17番カタパルトの作戦室で、連絡を受けていたリンドウが満面の笑顔で私達を出迎えた。

「皆様、お疲れ様でした。この一連のミッションの中で、最も外部要因に左右される難関を無事クリアされた事、お見事でした!乗組員一同、大変喜んでいます」

 リンドウが私達の功績を讃えた。

「さあ、エルドラルド船長とリルジーナ様が、ミーティングルームでお待ちです。今宵はお祝いの宴を催しましょう!今回はマヤも参加出来ますね」

 リンドウは前回の会食に、マヤがライラック号の機器類調整の為に参加が出来なかった事を残念に思っていた様だった。

「う、うん」

 マヤは気の無い返事をした。

 リンドウとハローズは肩を並べて何やら談笑しながらミーティングルームへ向ったが、マヤは無言で二人の後に続いた。


「ミッションの大成功に乾杯!」

 エルドラルド船長が乾杯の音頭を取った。

 前回の会食時もそうだったが、今回も運ばれて来た料理や飲み物は各人で全く異なっていた。

 各自の味覚的嗜好を既に分析済みとは言え、宇宙的ヒエラルキーの違いや惑星的な種族の違いが有るだろうから、この配慮は当然だった。

 私の前には、食前酒としてのショートカクテルの定番、アレキサンダーが置かれた。

 リンドウは、アレキサンダーがお祝いのカクテルで有る事を知っていたのだろうか?

 リンドウは「モリヤの笛」からの観察で、アストラルの客がこのカクテルを注文した後、連れの男性がこのカクテルは、英国王エドワード七世とデンマーク王妃アレクサンドラの婚礼を記念して作られたカクテルだと薀蓄うんちくを述べたのを聞いていたのかも知れない。


 今夜はリルジーナの機嫌も良くて、前回の会食では報告事項しか言葉を交わさなかったハローズが饒舌に成っていた。

 特に、ニューロンニホンでの大活劇について、ハローズは面白可笑しく皆に話をした。

 私もマヤも、それには笑顔でこの「ハローズ節」に相槌を打った。

 マヤの身体は小さいので多くの量を食べる事は出来ないし、元来、気性的にも早食いなので、マヤは皆の食事のペースに合わせる事に疲れを感じている様子だった。

 「マヤ、大丈夫? 疲れが出たのでは?」

 「ごちそう様、ウチは少し疲れたみたいだから、先に自室に戻る。 今日はユウカも良く頑張ったね」

 マヤは言うと、自室に戻ろうとした。

 

 「マヤ、貴女が活躍して呉れたお陰で、このミッションの日程も大幅に短縮されました。 皆を代表してわたくしからお礼を言わせてね。 有難う!」

 リルジーナはマヤの後ろ姿に向ってそうねぎらった、

 「ははは」

 マヤは振り向くと、精一杯の笑顔をリルジーナに返した。

 マヤは大丈夫かな? 私はマヤの事が少しばかり心配に成った。


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