第6章 アカシックな冒険 9
「先ずはこの壁越しから、あの糞鬼に閃光弾を発射するよ」
「了解」
マヤは、或るモニターを拡大させた。
「壁の強度を測定した結果、この場所が一番強度が弱い。 帰りのエネルギーを残して全部ここにぶち込めば破壊する事が出来るよ」
「成程」
ハローズもモニターの画面を見て納得した様子だった。
「だけど、これは10cmの狂いも許され無いので、ハローズはビーム砲の自動照準をこのポイントに完全リンクをさせる事!」
「了解です」
「中に入ったら、念の為、糞鬼にもう一発、閃光弾をお見舞いして記憶をリロードしたら、ソッコー退却するよ」
マヤの作戦は大胆だった。
「マヤ様、照準設定が完了しました」
「ハローズ、アンタは糞鬼に気に入られている様だから、アンタが糞鬼をこちら側に向かせて頂戴!」
「分かりました」
「自分が、必ず糞鬼を振り向かせます!」
好青年のハローズも、やはりブル鬼の事を糞鬼だと思っていたのか?
それとも、単にマヤに合わせているだけなのか?
「お前ら、おとといおいで!」
そう言うと、通関士は私達からくるりと背を向けると、自分の執務室に戻ろうした。
「あの、通関士様。実は貴方様に我々からプレゼントが有るのですが……」
「ん? 幾ら良い奴からでも、俺様にワイロは通用せんぞ!」
「いえいえ、ワイロでは有りません。 もっと良い物です」
「ほ~? それは何だ?」
糞鬼は、壁の近くまで戻って来て私達の方を見た。
「ハロ-ズ、今だ!」
閃光弾が、前方のブル鬼に向かって90度の角度で炸裂した。
それは閃光弾の後方にいた私でさえも、眩しくて暫くは物が見えない程だった。
「お、お前ら!何て事をしやがる!」
糞鬼と、二人からは呼ばれているブル鬼は叫び声を上げた。
「ハローズ、ビーム砲照射!」
「了解! 照射します!」
砲口から放たれる超高温のビームが、強固な透明の壁を急速に溶かし始めた。
ブル鬼はまだ目が眩んでいる様子で、同じ場所をくるくると回っていた。
「マヤ様、侵入が出来るだけのスペースが確保されました!」
ハローズが叫んだ。
「オッケイ、中に入るよ」
ライラック号がゆっくりと、ニューロンニホンの内部に入った。
ブル鬼が何かを喚きながら、ライラック号の方に近付いて来た。
「糞鬼に閃光弾を再発射!」
私は、ブル鬼が少し可哀想な気がしたが、閃光弾はブル鬼の姿を激しい光の渦の中に巻き込んだ。
「ぐわっ」
ブル鬼は、後方に腰砕けに成って尻餅をついた。
「ユカ、あの白い石から記憶をリロードして! ウチはモリヤの雫にそのコピーを取るから」
「分かったわ」
私はそう返事をしたが、どうすれば過去世の記憶をリロード出来るのかは分からなかった。
取り敢えず、私はそのダイヤモンドに似た白い石に意識を集中させた。
何かが、私の頭の中に激しく注ぎ込まれている様な実感が私の中に生じた。
若しかしたら、記憶がリロードされているのか?
白い石は点滅を繰り返し、やがて灰色の石に成ってから点滅は止まった。
ルビーの様な赤い石の方も灰色化して点滅は止んだ。
石が灰色に成れば、ダウウンロードが完了したと言うサインなのか?
「モリヤの雫へのコピーが完了! ユカ、そっちはどう?」
マヤが言葉を発したと同時に、脳裏に流れ込んでいたエネルギーがスーッと途絶えた。
私はこくんと頷いた。
「よし、任務完了! さっさとズラかるよ! ハローズ、その場でライラック号を180度回転させて!」
「ライラック、180度の旋回動作に入ります」
ライラック号はその場で、ゆっくりと旋回を始めた。
「糞! 何て奴らだ! だが、これだけ骨が有る奴らに会うのは初めてだ! お前らの勇気に免じて、ここはマザーに通報するのは止めておいてやる」
ブル鬼は両目を擦りながら、そう呟いた。
「お前ら、俺様に感謝するんだな! まあ、俺様の場合、始末書を書くのは慣れているけどな」
私達は、尻餅をついたままのブル鬼を眼下に見ながら、ニューロンニホンの外、即ちゾーンマトリの領域に戻ろうとした。
私の席からは、ブ鬼ちゃんが私達に片手を振っている姿が見えた。
そしてブ鬼ちゃんの口が、「さようなら」と動いた様にも見えた。




