第6章 アカシックな冒険 8
流石に「ブル鬼」の筈は無いよね。
宇宙に犬族自体は多いのかも知れ無かったが、少く共、ブルドッグと言う種がポピュラーな存在だとは考え難かったからだ。
「おい。お前ら! 取り出す者が考え中だから、お前らの為に、俺様が特別に良い事を教えてやろう」
「宜しくお願いします」
ブル鬼の言葉に、ハローズは素直に聞き耳を立てた。
その事は、ハローズの耳の形が変わったので誰の眼にも明らかだった。
「よかろう。お前らはこの口頭試問に不合格に成っても、どうせ又来るだろう! その時の為に知っておけよ!」
「さっさと言わんかい!」
マヤの頭頂から吹き上がる湯気が、その量を更に増して来た。
「2回目とも成ると、口頭試問の問題は更に難しい問題に成るゾ!」
「まあ、そうでしょうね」
ハローズは納得した様子だった。
「例えば、美しく気高く完全無欠の俺様を、言葉で馬鹿にせよ!とかの難問が出される」
「難問と言うより、馬鹿に面と向かってバカと言うのは確かに勇気が要るね」
マヤがブル鬼を揶揄った。
「チビ助、そんな問題は嘘に決まっているだろうが!ガハハ」
「嘘かよ!」
折角、収まりかけていたマヤの湯気は、又、沸騰して立ち上り始めた。
「通関士様、その件は良く分かりました。 他に何か良い情報は無いでしょうか?」
ハローズが二人の仲を取り持った。
「運転手は良い奴だから特別に教えてやろう! コホン、良く聞け! お前らの先に輝いている白い石が見えるな! あれがここの母の脳神経の先端だ。 取り出す者はあそこから記憶を受け取るのだ」
確かにダイヤモンドの様に美しく輝く、プラムの果実程の大きさの白い石が見えた。
私は、あの石から過去世の記憶をリロードする事に成るのか!
「通関士様、その下に輝いている小さな赤い石も見えますが・・・」
ハローズは訊いた。
「おう、お前らの運転手は良い奴の上に注意力も上等だ。 あの赤い石は取り出す者以外の誰かの記憶を、母が特別にランダムに与えて呉れる石だ」
「と言う事は、あの赤い石は、自分達にも記憶を取り戻させて呉れる可能性が有るのですね」
ハローズは赤い石に興味を示した。
「おうよ。この場所で取り出す者以外の者と言えば、お前ら二人の内のどちらかだ」
「自分かマヤ様どちらかと言う事ですね?」
「そこのチビ助の名はマヤと言うのか? チビマヤネーズだな」
ブル鬼は、意味不明な事を言った。
「この赤い石が出ている事は超珍しい! お前らラッキーだな。尤も試問に合格すればの話だがな」
マヤも興味深そうに赤い石を見詰めている。
「只、白い石は取り出す者が望めば、許可された記憶の複写を取る事が許されるが、赤い石の方は複写を取る事が出来ない。 自分で覚えて置くしか方法は無いのダ」
ブル鬼は、確かに言葉遣いは野卑だが、案外、親切な奴なのかも知れないと私は思った。
「さて、シンキングタイムは終了! 取り出す者はアンサー、プリーズ」
ブル鬼が、突然、英語混じりの言葉を使ったので、私は大いに驚いたが、それはマヤもハローズも同じだった様だ。
私は、色々と考えて見たが、今回は「白き鬼」で様子を見ようと思っていた。
「白き鬼」
「惜しい! 白きと鬼は正解だが、その間にワンフレーズが入る」
ブル鬼は、私にヒントを与えた。
どう言う言葉がその間に入るのか、正直、私はさっぱり分からなかった。
もう、ここはブル鬼の見た目から感じる私の感覚を信じるしか無いと私は覚悟を決めた。
「白き醜い鬼!」
ブル鬼は私の瞳を見つめた。
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
私は、それが最終回答で有る事を宣言した。
「ぶっぶう~!不正解! 正解は白き美しき鬼でした」
これが私に取って最後の回答機会だったが、仮に百回の更なる回答機会を与えられたとしても、私がブ鬼ちゃんに「美しき」と言うフレースを思い付く事は絶対に無かったに違い無い。
だから、それは結局の所、同じ事だと私は思った。
しかし良く考えてみると、ブ鬼ちゃんは先刻、自分の事を美しく気高いと言っていたからヒントは出していた事に成る。
只、その「美しく気高い」と言う言葉を、私が信じなかっただけなのだ。
ここは諦めて、再起を図るしか無いか!
「お前らは、俺様の口頭試問に不合格に成った。 また顔を洗って出直すんだな! 2回目の時の問題は難問だがな。 ガハハ」
ブル鬼は、勝ち誇った様な表情に成った。
「ふ、ふざけんじゃ無いよ!」
マヤの頭頂からの湯気は、丁度、準惑星セレスで見た間欠泉の様に高々と噴出していた。
「ガッデム! マヤ様を舐めると承知せんで! ハローズ、ここを強行突破するよ!」
「強行突破? マヤ様、そんな事をすれば、不法侵入に成って自分達はセキュリティから拿捕されるのでは?」
「その時はその時! サラフィーリア様が何とかして呉れるさぁね」
「ああ、確かに! サラフィーリア様が何とかして呉れますよね。 よし、やりましょう!」
二人の意見は強硬突破で一致した。
おいおい君達、本当にそうなのか?
私は二人に突っ込みを入れたかったが、私自身もこのまま引き下がりたく無い気分には成っていた。




