第5章 テスト飛行 9
「ユウカ様、宇宙飛行は如何でしたか?綺麗だったでしょう?」
その時、私とエルドラルドの近くにリンドウがやって来た。
「そうね。星々がうっとりする程、美しかった」
「それは何よりでした」
リンドウは、右手に持っていたフライフィズのグラスを顔の近くに持ち上げて、乾杯のサインを私に送った。
「リンドウ様、丁度、良い所に!ユウカ様はどうやら、今度の本番がご自身のご記憶を取り戻す旅だと、ご存じ無かった様ですよ」
「ああ、ご記憶のリロードの件ですね?それは別にユウカ様に隠していた訳では無いのです」
そう言うと、リンドウはフライフィズを一口だけ飲んだ。
「リロード?ダウンロードじゃ無くて?」
私は思わず、リンドウに訊き返した。
「ええ、リロードです。ユウカ様がアカシックレコードに向われるのは、今回で2回目なのです」
「リンドウは、私が既にアカシックレコードに行った経験が有るって言うの?」
私は、リンドウの方に詰め寄った。
「イカにも、タコにも、アワビにも!!!」
「へっ?」
それが寿司ネタを使った下手な駄洒落だと言う事は私には分かったし、リンドウは宇宙人で而も精霊属性だから、場違いな発言をしてしまう事も理解出来た。
それにしてもこの会話の流れで、普通、そんな事を言うかな?
私は驚く程のキャラ違いな発言に、リンドウの自動翻訳機が故障していない事を願った。
「成程、リンドウ様、アワビでしたか!!!」
恐らく、エルドラルドも地球人の話の流れは理解していない筈だ。
「コホン!リンドウ、今回の訪問が2回目だと言うのなら、私の1回目のアカシックレコード訪問は何時なのよ?」
私は気を取り直すと、リンドウに尋ねた。
「それはユウカ様が神弥呼と呼ばれる帝皇女として、レムリア大陸の民を導いておられた頃です。その時の地球もアセンションの可能性が有ったからです」
アセンションと言う言葉は、ここポイントビューウイックに来てから何度か聞いた事が有る。
それにしても、私がかつてレムリア大陸の民を導いていたですって?
「アセンションって、次元上昇って意味だよね」
「イカにも・・・」
「タコにも、アワビにも、でしょ!」
「えっ?ユウカ様、どうしてそれを?」
「良いから、話を続けなさい」
私専用に用意されていた赤ワインが注がれたグラスを、私は一気に自分の口に傾けた。
「パンゲア大陸が分裂して地殻移動をする前までの地球は、太陽系第3惑星テラと呼ばれていました。それはその頃の地球を守護していたのが地母女神がテラ様だったからです」
「うん、それで?」
「ところがそのパンゲア大陸が分裂して地殻移動を始めた頃、オールザットイズの意向で、惑星テラが地球、要するに次期天球と成るべき後継惑星に指名されたのです」
パンゲア大陸って何?天球って?それにオールザットイズって一体何者なのよ?と訊きたかったのだが、それを質問すると話がややこしく成るので、私はそれをグッと我慢した。
「うん、うん、それで?」
「そこで、時の女神宗家の大女神パールサティ様、そのお方はサラフィーリア様のお母上ですが、若手のエース女神として周囲の期待を一身に受けていた大女神ティアマト様の長女、女神ガイア様を新生惑星テラ、即ち地球の地母女神に起用されたのです」
「うん、うん、うん、それで?」
私は近くを通った、アンドロイドだと思しき給仕の女性に、赤ウィンをもう一杯持って来る様に頼んだ。
「それからのガイア様は、僕なんぞが軽々しくは語れ無い程の努力を払われ、そして辛酸も舐め尽されて、実に2回も地球にアセンションの可能性が有る状態にまで導かれました。しかし時の運に見放されてそれらは全て失敗に終わりました。ユウカ様がレムリア大陸の民を導いておられた頃が、地球の3回目のアセンションチャンスの時期だったのです」
「う~ん」
私は考え込んでしまった。
リンドウが嘘を付く筈は無かったのだが、自分自身がその話を信じられる様に成る為には、私はどうしてもエルドラルドから裏を取る必要が有った。
「エルドラルド艦長さんも、そのお話はご存じだったのかしら?」
「ええ、本官が卒業したペテルギウス軍事アカデミーでは、東オリオン史は必修科目でしたから、大まかな事は存じておりまして、全てが今、りンドウ様が仰られた事に相違が有りません」
私の問い掛けに、エルドラルドは即座に答えた。
「そうなんだ?」
「仮にそれが本当だとしたら、私は地球の地母女神ガイア様のアセンションを手助けする為に、そのレムリア大陸の民を導いていたって事に成るよね」
「その通りですよ、ユウカ様」
私がエルドラルドの方を見ると、彼もその事に頷いていた。
「ユウカ様は地球に転生される前までは、故有って、上位5次元の白シリウスで女王をされていたサラフィーリア様の皇女として、長い期間、ご一緒に白シリウスを統治されていたのです」
「何ですって?」
この場で聞いた事の全てに驚いた私だったが、特にこの話には驚いた。
リンドウは、私がサラフィーリアと共に、5次元に有る白シリウスで皇女として統治していたなんて!
だから今日、セレスでの自己紹介が古代シリウスの言語に成ったのかしら?




