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第5章 テスト飛行 7

 「ユウカ様、この少し先にセレスの泉と言う場所が有ります」

 防護ヘルメットをかぶった上での会話だったが、それは通信機を使って話しているような機械的な音声では無かった。

 「ここの間欠泉は、そのセレスの泉に向けて水蒸気を放出している様なのです」

 「そうなの?」

 「セレスの泉は小さな窪みに過ぎませんが、ここの間欠泉を含めて、複数の間欠泉から水が流れ込んで、夜には満々と水を蓄えます」

 「ふ~ん、それで?」

 「ですが、昼間に灼熱の太陽光線を浴びるので、その水分は全てが蒸発してしまいます」

 「それは単なる自然現象なのでは?」

 その時、それまで高々と水蒸気を吹き上げていた間欠泉の吹き上げが、ピタリと止まった。

 「結構、劇的に吹き上げが止まるね」

 「これは若しかしたら、ユウカ様のご訪問を歓迎している現象かも知れません」

 「まさか!」

 私は思わず、ハハハと笑ってしまった。

 首席パイロットのハローズが、私でさえ非科学的に思える事を真面目な顔で言ったからだ。

 私達が被っているフルフェイスの防護ヘルメットは透明なので、被っている者の表情まで良く見えるのだ。


 「実は、セレスの泉は地母女神のセレス様が、この惑星に将来、大気を醸成する為に起こしている現象だと言う有力説が有るのです」

 「その説を唱えているのは、多分、非科学的なエセ学者ね」

 「う~ん。地球の方の感覚だと、そう言う風に感じられるのですね」

 「えっ?」

 私は、ハローズが言っている意味が分からなかった。


 「ご身分は属性で、しかも降臨中とは言え、既に女神のリルジーナ様や、聖霊のリンドウ様にはユウカ様も既にお会いに成られていますよね。マヤ様は本身分が妖精ですし・・・」

 ハローズから言われて見れば、空母ビューウィックに来てからは、確かに私はそうした人達と親しくして来た。

 「ですから、地母女神は自らが守護する天体と一体化されている為に、同じ次元に属する生命体からもその姿は見えませんが、確かに存在していると言うのが科学者だけでは無く、我々、宇宙の民の常識なのです」

 「う~ん。そう言われると・・・そんな気も・・・」

 ハローズは私の反応を見て、何かに対して自信を深めた様だ。

 「地母女神セレス様が、ユウカ様のご訪問をウェルカムと感じられたのなら、この間欠泉が止まっている間が、セレス様にご挨拶を成されるチャンスですよ!」

 「う~ん。結果は別にして、それが今回のテスト飛行の目的のひとつだと言うのなら、断る訳にも行かないわね」

 「そうです共!セレス様にご挨拶をなさる場所としては、そのセレスの泉のほとりが最適の筈なのです。自分がご案内をします。さあ、ご一緒に参りましょう!」

 

 ハローズの案内で私はセレスの泉の畔に立つと、未だ水が僅かだが残ってる水面に向かって、私は会った事も無い地母女神セレスに「初めまして。わたくしはユウカと申します」と挨拶をした。

 私は、自分の事を「わたくし」と呼んだ事も初めてだったが、姿が見えない相手に自己紹介をした事も初めてだった。

 しかもその自己紹介は、日本語でしたのだった。

 だって、私は日本語しか喋れないから。

 「ユウカ様、自分は驚きました!今、ユウカ様が話されたのは今は亡き白シリウスの古代言語だったのでは?」

 「へっ?」

 「ユウカ様は、今、何と言われたのですか?」

 ハローズは真剣に驚いた表情で、私にそう尋ねた。

 これがマヤだったら、私を揶揄からかっている筈だったけど、ハローズは超が付く程の真面目人間で軍人だ。

 彼が嘘を付く筈が無い。

 「えっ?普通に、私はユウカですって言ったんだけど・・・ハローズ、聞いて無かったの?」

 「聞いていました共!でも、自分は古代白シリウス語は知りませんし、自動翻訳機にもそのデータベースは有りませんから」

 「???・・・って事は、私が日本語で話した積りの言葉が、古代白シリウスの言葉だったって言うの?」 

 「若しかすると、ユウカ様!今からセレス様からお言葉を賜れるかも知れませんよ」

 

 冷静で有るべき腕利きのパイロットが、興奮を抑え切れないと言う表情で私の顔を見た。

 暫く待っては見たが、私には何も言葉らしき物は聞こえて来なかった。

 「まさかね。そんなに簡単に地母女神と話が出来たりはしないわよ。一応、トライはした訳だし。、さあ、其々《そろそろ》ライラック号に戻りましょう」

 ハローズに私がそう言った時、私のヘルメットの中をとても爽やか風が何度も私の顔面を撫でて行った。

 「ねえ、ハローズ、念の為に聞くけど、このヘルメットの中に風が吹くって事は有り得る?」

 ハローズは私の質問の意図が分からずに、構造的且つ物理的な観点からの自身の見解を述べた。

 「そのような事は絶対に有りません。吐き出す息はヘルメットが吸収しますので息が跳ね返される事は無いのです」

 「ふ~ん、今、私のヘルメットの中で風が吹いたみたいだったんだけど・・・」

 「何度も言う様ですが、それは有り得ません。第一、風が起こる為には大気が必要です。ですが準惑星セレスには大気が有りませんから」

 「だよね。私の気の所為せいだったのかな?」


 「これはこれは。女神宗家のユウカ様でしたか?セレスがご挨拶を申し上げます」

 「嘘!」

 私は確かに、自分のヘリメットの中で、玉を転がす様な女性の声を聴いたのだ。

 「ユウカ様がお望みなら、このセレス、微力を尽くします。この泉の水の蒸発が進んで、わたくしはこれ以上、話せませ・・・」

 それから暫く、私はその場に待機して見たが、何かが聴こえる事は無かった。

 「ユウカ様、自分は先程、ユウカ様の中に女神様を見たような気がしたのですが・・・」

 ハローズが、恐る恐る私に近付いて来ると、自分が感じた事を私に伝えた。

 「ハローズ、若しかしたら私、地母女神セレス様とご挨拶を交わせたかも知れないわ」

 「本当ですか?」

 「多分」

 「おおっ!!!流石はユウカ様!」

 ハローズは私に、オリオン軍式の敬礼をした。 

 「てへへ」

 私達は、今日予定していた作戦行動を全て完了して、ポイント・ビューウイックに帰還すべく準惑星セレスを後にした。


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