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第5章 テスト飛行 3

 ライラック号の発進は極めて静かでスムーズだった。

 ロケットが発射される時のように、轟音が響いて火や煙が立ち上る情景を予想していた私だったので、それは拍子抜けする程、静寂に包まれた中での旅立ちだった。

 後部座席の窓は広くて透明だったので、そこから見える無数の星々は、溜息が漏れる美しさだった。

 空母ポイントビューウィックの寝室から見える星々も十分に美しかったが、敵襲に備えて常時、バリアとシールドが展開されている為に、何も展開していないライラック号から見る星々の美しさには及ばなかった。

 加えてポイントビューウィックは停泊中だったが、ライラックの方は超高速で移動しており、距離が近い星はその位置を移動している様に見えて、それはまるで流星を思わせた。

 「これから海王星の先、カイパーベルトの一番太陽系に近い宙域に向かいます」

 「そこまでの予定所要時間は?」

 マヤがハローズに訊いた。

 「ライラックは調査空艇ながら戦闘空挺並みの速度が出せます。地球時間に換算すると時速110万3千kmを誇りますので、通常の高速飛行で9時間30分の予定です。マヤ様が機器類に慣れられるには十分な時間かと」

 コクピットと後部座席は透明な板のような物で仕切られていたが、コクピットの中での会話は明瞭に聞き取る事が出来た。


 時速11万3千km!

 かつて八木沢が、高速道路で時速180kmを出した時、ぎゃーと叫んだ私は一体何だったんだろう。

 暫くするとマヤが、ふわーっと大きな欠伸をした。

 「初めて乗る船でも、通常のナビゲートの操作なら15分も有れば覚えてしまうからね」

 「流石です。マヤ様」

 「それに、ウチは今朝、6時に起きたんよ!眠いに決まっているねん」

 「それでは、オールト雲まで足を伸ばしますか?あそこの宙域は小惑星が密集しているから、飛行がスリリングですよ」

 ハローズが、マヤの眠気を覚ます方策を提案した。

 「ばーか、飛行訓練に来ているんじゃ無いんだから」

 そうマヤからたしなめられて、ハローズは沈黙した。


 「ねえ、ハローズ。今日はワープを3回予定しているんだよね?」

 「ええ、その予定です」

 「だったら、今、オールト雲まで超高速飛行に切り替えたら、ビューウィックに帰る時に、船のエネルギーが枯渇してしまう心配が起きるんじゃ?」

 「ご、ご明察です!」

 ポイント・ビューウィックの首席パイロットに対して、マヤは貫禄を示していた。

 私には何の事なのか意味は分からなかったが、兎に角、この二人の会話は、まるで漫才の掛け合いを聞いてるみたいで面白かった。


 「仕方が無い。ドリンクでも飲んで時間を潰すか」

 「申し訳有りません。何せコクピットなもので、酒類はフライフィズとラッキーシェイクしか有りません」

 「飛行中だし、贅沢は言えないよね。じゃあラッキーを」

 マヤは口こそ悪いが、真剣な時には思いやりが有る言動を取る。

 何処どこまでも不思議な妖精だ!

 「どうぞ」

 ハローズは汗を拭きながら、操縦ブースだけに配置されているボタンを押して、マヤにラッキーシェイクを提供した。


 何、何?

 ラッキーシェイク?それはお酒?

 若しかしたら、チャクラが覚醒した今だったら、念願のフライフィズだって飲めるんじゃ?

 私はクリアな頭脳で、ハローズが押したラッキーシェイクのボタンの図形を記憶していた。

 恐らく長時間のフライト場合、安全な宙域では自動操縦に切り替えて、パイロットは後部座席で酒でも飲みながら休息を取るのだろう。

 後部座席には幾つものボタンが配されていた。

 この広い宇宙空間で飲酒操縦を取り締まる警察官などいないだろうし。 

 

 ハローズは操縦士の自分が酒を飲んだらマヤから叱られると思ったらしく、何も飲まずに操縦に専念している。

 ハローズも気苦労が絶えないね。

 私はこっそりと、後部座席に有る「ハローズが押したラッキーシェイク」と同じ図形のボタンを押した。

 すると直ぐに、地球の自動販売機みたいにプラスチック風の容器に入ったラッキーシェイクが、取り出し口に落ちて来た。 

 これがラッキーシェイクか?

 シェイクと言うからには、結構、甘いのかな?

 私は恐る恐る、ラッキーシェイクを飲んで見た。


 ラッキーシェイクは甘さが控えめで、寧ろ、清涼感が有る飲み易いドリンクだった。

 「中々イケるね!このドリンク。ベースのお酒は何なのだろう?」

 私がそんな事を考えながら、ラッキーシェイクをストローでちゅうちゅうと吸っていると、

 「ユカも何か飲む?」

 とマヤが後部座席の方を振り向いた。

 「てか、もう飲んでるし!」

 ハローズは一瞬、笑おうとしたが、やはり見なかった事にしようと決意して、前方の視界に意識を集中させた。

 やっぱり気苦労が絶え無いね、ハローズ。


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