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第4章 不思議な訓練  8

 それからも、UIのマビちゃんとは和気藹々《わきあいあい》な雰囲気の中で、私は3日目に予定されていた全細胞の活性化までトレーニングを終えた。

 マビちゃんの施術が終わると、ここ10年間では一度も感じた事が無い「究極の爽快感」を私は覚えた。

 「あ~、宇宙船の中だけど、風景の全てが美しく感じる!宇宙が輝いて見える!これが細胞活性化の恐るべき成果ね」

 私は、トレーニングルームの椅子に座ると、大きな伸びをしながら、思わずそう叫んだ。


 「フェーズ1のトレーニングが無事に終了しましたよ。ユウカ様、お疲れ様でした」

 にこやかな笑顔と共に、リンドウがそう言いながらトレーニングルームに入って来た。

 「まあ、何とかね」

 「お顔の色が、凄く輝いて見えますよ」

 「そう?」

 リンドウの言葉はお世辞だったかも知れないが、自分でもこれ以上は望むベくも無い程、顔色が良いだろうと言う予感は有った。

 私は慌てて、トレーニングルームの隅に置かれていた「姿見」に自分の姿を映してみた。

 そこには地球を後にした時とは、明らかに異なる自分の姿が映っていた。

 そりゃそうよね。

 だって皺は伸ばしたし、沈着色素を除却して色白の肌に成ったし、そしてその私の肌なんかとても信じられないスベスベ肌に生まれ変わっている。

 その上、余分な脂肪を燃焼して貰ったから、顔付きも体型もシャープに成った。

 惜しむらくは、寝起きの時だけしか二重に成らない私のトロンとした目を、パッチリ目に矯正して欲しいとマビちゃんに頼んだがNGだった事だ。

目の形は、遺伝子レベルに書き込まれているので、それを外科的に変更するのは大銀河憲章細則で禁じられているそうだ。

 地球では、二重瞼にする美容整形は普通にやっていると私は粘ってみたが、地球は第一種保護惑星なので大銀河憲章は原則として適用されないとの事だった。

 増毛技術は有るのだから、せめてリルジーナみたいに長くて揺れる睫毛にして欲しいと私は言ってみたが、「技術的には可能ですが、その目の形状には絶対に似合いません」と、マビちゃんに断言されてしまった。

 冷静に考えてみると、マビちゃんの意見は絶対的に正しかったので、私は渋々、それを諦めた。

 まあ、それでも、破格の変身振りよね。

 一日も早く地球に戻って、八木沢を悩殺しなきゃ!


 「ユウカ様、明日はトレーニングはお休みです。明後日からは、リルジーナ様と対面でフェーズ2のトレーニングが始まります」

 「リルジーナ様と対面で?」

 「ええ、フェーズ2のトレーニングはUIでは無理ですから」

 「UIでは無理なトレーニングなの?」

 私は少し不安に成って、リンドウに訊き返した。

 「ユウカ様の松果体に宇宙的なエネルギーを注入してから、7つのチャクラを開いて行きます」

 「松果体?チャクラ?」

 「それは僕が説明するよりも、リルジーナ様から直接、説明を受けられる方が良いでしょう」

 「う~ん・・・」


 「リンドウもここにいたのね」

 その時、リルジーナも、このトレーニングルームに入って来た。

 「リルジーナ様、ユウカ様のフェーズ1のトレーニングが、たった今、終わった所です」

 「そう?ユウカ様は大変お疲れ様でした!訓練が終わったばかりで恐縮なのですが、エルドラルド艦長がユウカ様にお会いしたいそうです」

 「えっ?私に」

 「ええ、直ぐに艦長室まで来て戴きたいと。それから艦長はリンドウにも同席して欲しいそうよ」

 リルジーナは、私に対して申し訳が無さそうな表情でそう言った。


 「さあ。急ぎましょう!」

 早足で歩くリルジーナの跡を、リンドウと私が並んで追いかける形で艦長室へ急いだ。

 艦長室に着くまでに、一体、どれだけのコーナーを曲がった事だろう。

 それぞれが区切られた、クルー専用キャンティーンを抜け、戦闘員やメカニック、その他の後方支援者達の居住エリアを抜け、倉庫、調理場、作業場等のバックヤードを抜け、カタパルトエリアを抜け、動力を管理する機関部を抜け、司令部の将校たちの居住エリアを抜け、更にその先に艦長室は有った。

 艦内地図を持ってはいるものの、多分、私独りでは、自室に戻れないだろう。


 「失礼します」

 リンドウは艦長室のドアをノックすると、入室の許可を求めた。

 「どうぞ、皆様、お入り下さい」

 中から、ぞくっとする程セクシーな、膨らみに満ちた低音が聞こえた。

 「やあ、初めまして、ユウカ様!お会い出来て光栄です」

 リンドウからあらかじめめ報告を受けていたのか、エルドラルドは地球人類式の握手を求めて来た。

 それにしても、聞く者をうっとりとさせてしまう魅力的な低音だ。

 「こちらこそ光栄です、エルドラルド艦長」

 私は、艦長室に到着するまでの長い時間、ぶつぶつと呟きながらようやく覚えた艦長の名前を呼んで握手に応じた。

 艦長の握手は、リンドウのハグのような馬鹿力では決して無く、極めてソフトだが「しっかりとしたホールド感」を相手に与える握手だった。

 艦長の手って、柔っ!

 「どうぞ、こちらのソファーにお掛け下さい。リルジーナ様もリンドウ様もどうぞ」

 リンドウも「様付け」されるのか?

 まあ、リンドウも聖霊属性だから、当然と言えば当然だったが。

 私は決してリンドウを見下したりはしていなかったが、二人の距離感が縮まった為に、少し慣れなれしくし過ぎたかなと反省した。


  「大尉、こちらの皆様に何か飲み物でも」

 恐らく、艦長付きの秘書のような立場とおぼしき若い将校に、エルドラルドは指示した。

 エルドラルドは2メートルに近い巨躯の持ち主だったが、その均整が取れたプロポーションが普通の地球人類のような印象を私に与えた。

 また、地球で言う所の「ちょい悪オヤジ風」の顎髭も、私にはプラスポイントとして映った。

 「私はバーナード星系の出身です。ご存知とは思いますがバーナード星系は太陽系の隣の星系ですから、ヒューマノイドとしての風貌が似ている事は不思議では有りません」

 私は、決してエルドラルドをじろじろと見つめてはいなかったと思うのだが、エルドラルドは風貌の事を話題にした。

 所で、バーナード星系って何処だっけ?


 「そうですね、本官の事は隣村のオジさんだと思って気楽にお話して下さい」

 そう言うと、エルドドラルドは屈託なく笑った。

 流石は隣村のバーナード星系人、ジョークを言って私をリラックスさせるすべを知っているみたいだった。

 私はクスッと笑ったが、リルジーナとリンドウは無反応だった。

 「ところでエルドラルド艦長、敵の接触が有ったのですか?」

 リンドウが痺れを切らしたように発言した。

 「そうです。その件で折り入って頼みが有りまして、こうして皆様にお集まり戴いたのです。特にユウカ様に!」

 「えっ?」


 その時、ノックがしてエルドラルドは「秘書の大尉」を自室に招き入れた。

 私が中にいる事を意識してか、秘書は「地球人類式のノック」をした。

 秘書が運んで来た飲み物は、「フライフィズ」が3杯とオレンジジュースが1杯だった。

 私はやっぱり、オレンジジュースか。

 私が「フライフィズ」を飲めない事は、既にエルドラルドに報告済みらしい。

 

 「リンドウ様は予想されていたのですが、敵とのファーストエンカウントが我々の予想よりも2週間程早く起きてしまいました」

 リンドウは、そんな事まで予想していたのか?

 「ファーストエンカウントの状況を教えて下さい」

 リンドウが、エルドラルドに質問した。

 「我々の偵察隊と敵の偵察隊が、双方、レーダーの監視領域に踏み入れたと言う内容です。勿論、そこで戦闘は行われていません」

 「成程・・・」

 「敵全体に作戦指令を行うのは、恐らく主力の5次元艦隊だと思われますので、先遣艦隊が独断で我々に攻撃を仕掛ける可能性は低いでしょう」

 「我々が、このままここに待機していれば、敵との戦闘自体は暫くは避けられると言う事ですね」

 「ええ、ですが、我々の当面のミッションは敵の先遣艦隊の戦力を低下させる事に有ります」

 「敵の主力本隊は、何時頃いつごろ、三次元物理空間に到達するとお考えですか?」

 リンドウが、再びエルドラルドに訊ねた。

 「正確な予測は出来ませんが・・・まあ、お飲み物でもどうぞ」

 「頂戴します」

 三人が一斉に「蛍ちゃんドリンク」を飲み始めたので、私も慌ててオレンジジュースをぐびりと飲んだ。


 「ご承知の通り、琴座の大ポータルは砂時計のような形状でして、上半分は右巻きの渦巻きで全ての物をポータルの首と呼ばれている狭いエリアに巻き込んで行きます」

 「ですね」

 「従って、敵の本隊は大艦隊ですから、一度に多くの船隊を三次元物理空間に送り込もうとすれば、ポータルの首の付近でそれらが衝突して大きな損害をこうむります」

 ポータルって入り口だよね?入り口の首?

 私が何とか理解出来たのは「砂時計構造」だけで、それ以外のエルドラルドの言葉は理解不能だったが、私は分かっている様な振りをした。

 「ポータルの首は、各次元間の中間地点に有るので、敵が四次元の物理空間側から送り込む船隊は少しづつと言う事に成りますね」

 「仰る通りです。それらを加味しても一か月半後には全ての敵艦隊が三次元物理空間に降りて来ると思われます」

 「一か月半後と言うと、アンチャラプレーンが開き始める一週間前と言う事ですか?」

 「その頃には、流石のベーリック元帥も主力大艦隊を率いて、琴座宙域に到着している事でしょう」

 リンドウが、エルドラルドの言葉を聞いてニヤリとした。

 「あの天才的な自己保身能力を持つ、阿呆のベーリック元帥の事ですね」

 「彼は上官ですので、仮にそう思ったとしても本官の口からは言えません」

 「ははは、冗談ですよ」

 そう言って、リンドウは笑った。

 リンドウも冗談を言う事が有るんだ。


 「所で、敵の先遣艦隊の規模はどの位を想定されていますか?」

 リンドウが、エルドラルドに三度みたびたずねた。

 「それはへび座と竜骨座から、どの位の戦闘艦が集結するかに懸かっていますが、多分、300隻は下らないかと」

 「ええ~っ!300隻!」

 私は思わず叫んでしまった。

 「どうかされましたか?ユウカ様」

 エルドラルドは驚いて、私にそう訊き返した。


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