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第4章 不思議な訓練  5

 「ほれ、今、微妙に動ている膜みたいのが有るでしょう?」

 「インフィニティ・メンブレーンの事でしょうか?」

 「そう、それ!それを上下に上げたり下げたりして頂戴!」

 「ほう、ほう」

 「指の先に該当する部分は少し硬めにする事と、上げ下げは5cm幅で行う事!要するに私の皮膚の中に、指先が2.5cm押し込まれるって事よ」

 「へえ、へえ」

 私は、「インフィニティ何ちゃら」の意味は全く分からなかったが、この膜が私の期待通りの仕事をして呉れさえすれば良かった。

 「かしこまりました!インフィニティ・メンブレーンの形状と形質の変化、並びに指示された動作に関するインプットを完了させました。それではオペレーションを開始します」

 マイノビアはそう伝えると、私の指示通り、膜を動かし始めた。

 「おお、思ったよりも気持ちがいがに!」

 私は、何故かマヤの様な口調に成った。

 「でも、少し痛いかな。指の先をもっと柔くして頂戴!」

 「了解です」

 「ギャハハ、それじゃくすぐったいよ!もう少し硬くして!」

 「力加減が難しいですね」

 「当たり前じゃん!マッサージや按摩のたくみに成る為に、地球人は何十年も修行を積むのよ」

 「地球人に敬服の意を表します」

 マイノビアはUIでアンドロイドでは無いから、その顔とかは拝めないけど、色々と会話している内に何と無く友達みたいに思えて来た。


 「私は長い名前で呼ぶのが嫌いなの。だからマイノビアの事は、マノちゃんかマビちゃん!にする。どちらで呼ばれる方が良い?」

 「その2択ですか?」

 「そう、その2択!」

 「う~ん・・・でわ、マビちゃんでお願いします。ビアンカと言う名前は自分に固有の名称なので外せないですから」

 そうなんだ!

 だったらビアちゃんでも良いよ、と言いそうに成って、ビアちゃんだとビールみたいで気の毒な気がしたので、その言葉は口にしなかった。

 「じゃあ、マビちゃんさぁ、最初のマッサージの技を授けるね」

 「お、おお~っ!早速、技の学習ですね!」

 「そうよ、膜全体に山と谷の部分を作って、それをウェイヴのように上下、左右に動かして頂戴。谷の部分が皮膚の中に押し込まれる長さは1.5cmよ」

 「承知しました。インプット完了!実施します」

 通常のマッサージは一人のマッサージ師が一箇所をむのだが、こうしたコクーンが膜全面を使う場合、私の全身が同時にマッサージされるので満足感が極めて大きい事に私は気が付いた。

 「うん、マビちゃん。決して悪くは無いよ。君にはマッサージ師としての才能が有るみたいだ」

 「そうですか?それは光栄です」

 マイノビアは嬉しそうだった。

 「また次回もお願いするかも知れないので、今の技はセーブして置いてね」

 「セーブとは、今の技をリアクトする為の行動でしょうか?」

 「えっ?」

 「一度、アクションを起こせば、そのモーションは全て自動的に記憶されますので、リアクトは何の問題も無く行う事が出来ます」

 だよね~!このコクーンはハイテクのかたまりだと言う事を私はうっかり失念していたのだ。

 「コ、コホン。今日の所はこの位で終わりにしましょう」

 「かしこまりました。ユウカ様、技のご伝授を有難うございました。明日もお待ちしております」

 「ああ、今日はお疲れ様でした。じゃあ、明日ね。リンドウに飲み物を私の部屋に持参する様に伝えてね」

 UIが疲れる筈も無かったが、人間の様に接してUIが気を悪くする事は無いだろう。

 「明日は、新しい技を伝授するから」

 「それは楽しみです」

 何の事は無い、私はマイノビアを私に為に、優秀なマッサージ師にするべく調教を試みようとしていたのだ。


 私はマイノビアから貰った枕を頭に敷いて、ソファーに横たわっていると、リンドウが部屋にやって来た。

 「如何いかがでしたか、トレーニングは?」

 「あんな素敵なトレーニングなら、何度、受けても良いわよ」

 「ハハハ、それは何より!あれっ?ユウカ様、随分と清潔感が増しましたね!」

 そう言ってしまってから、リンドウはハッとした表情に成った。

 それは何気無く口から出た率直な感想だった筈だが、裏を返せば、私がこれまで不潔感を漂わせていたと言っているに等しかった。

 だが大人の私は、これからもリンドウのお世話に成らざるを得ない事を承知していたから、ここは事を荒立てずにニッコリと笑みを返した。

 「あっ、ユウカ様、何か飲むますよね。何時いつもダッシュボードから出て来る飲み物じゃ味気無いでしょう?ここは僕がサーブをしますから」

 リンドウはそう言うと、自分が持参したサイフォンに似た器具をテーブルに設置すると、慌てて2客カップをその横に並べた。

 「珈琲をれて呉れるの?」

 「そうですよ。僕もエンサイクロペディア・ジャポニカは研究していますから」

 「ふふふ、リンドウ、有難うね。だけど、近い内に私はフライフィズを飲んでみたいの」

 「フライフィズを?」

 「ファイヤーフライって蛍の事でしょう?私は蛍が大好きだから・・・」

 「う~ん、お気持ちは分かりますが、フライフィズは基本的には低位5次元の飲み物でして、3次元に次元降下をさせているとは言え波動が高いので、今のユウカ様ではショック状態に成ってしまう危険性が有ります」

 「フィズ」と言う以上は、レモンジュース、砂糖、そしてソーダを加えて作るさわやかなドリンクの筈だが、リンドウが何処どこまでも真顔まがおだったから、多分、それは事実なのだろう。

 「ですが、ユウカ様がトレーニングを全て終了された暁には、フライフィズごときは全く問題が無いので、その時は喜んでお作りします」

 「分かったわ。今は珈琲で結構よ。それより私がトレーニングを済ませると、この空母、ポイント・ビューウィックって名前だったっけ?悪意の勢力と戦うと言っていたけど、その事が凄く気に成っているんだけど・・・」

 私が人違いだと、若しリンドウ達に信じて貰えなかったら、最悪の場合、その戦闘に私が投入される可能性だって有る。

 冗談じゃないわ!!!

 只の変哲も無いOLが、宇宙間戦争に従軍するなんて、そんな馬鹿げた話が有って良いものか!

 それに第一、偽物の私じゃ彼らの役には全く立てない訳だし・・・。

 これは何としても戦闘が始まる前までに、地球に送り戻して貰わないと大変な事態に成ってしまう。

 だって、幾ら肌がスベスベプルンプルンに成っても、生きて地球に帰還出来なかったら何の意味も無い!


 「ええ、近い内にお話をしようと思っていましたが、ユウカ様からご質問が有ったのは嬉しい限りです」

 リンドウは淹れたての香り立つ珈琲を、それぞれのカップに注ぐと、ゆっくりと話を始めた。

 「詳細までお話をすれば、時間が幾ら有っても足りないので、先ずは現況をざっとご説明しますね」

 リンドウは珈琲を一口だけ、口に含んだ。

 それに釣られて、私もその珈琲を口にした。

 旨い物は、やはり旨い!


 「この空母、即ちポイントビューウィックの乗組員は総員約2300名で、戦闘空艇800機がカタパルトに格納されています。そしてクルーは全員がヒューマノイドです」

 全員がヒューマノイドだと聞いて私は大いに安心したが、地球に戻った時の土産話としては非ヒューマノイドの宇宙人に会うのも面白いかもと思っってしまった。

 そこにはきっと、映画スターウォーズに登場するような光景が展開されている筈だった。

 私は「マスターヨーダ」や「チューバッカ」のような宇宙人なら全然平気だし、「イカ型人」までなら何とか成ると思う。

 しかし「タコ型人」位から少し怪しくなって、「クモ型人」や「トカゲ型人」や「ヘビ型人」には私はNGを出しそうだった。

 「この空母の艦長はエルドラルド准将です!ユウカ様もその内、彼に会われる事に成るでしょう」

 「そう言えば、この空母は最新鋭だと言っていたよね?」

 「ええ、空母だけにポイントと言う名称が付きます。戦闘空艇が帰還するポイントですからね」

 「成程・・・」

 「僕達は、ベテルギウス守備艦隊に属しています。本部の基地がベテルギウスに有るからですが、本艦隊は別名、|東オリオンの腕守備艦隊オリオンイーストスパイラルアームとも呼ばれています」

 と言う事は、地球も東オリオンに含まれているのか?

 私達、地球人で自分達が東オリオンの一員だと自覚している人間が、一体何人位いるだろうか?

 恐らくそれは、限りなく少数の筈だった。

 「我々の艦隊の旗艦は、ガルバラス中将指揮下のサラマイノス級戦艦ベロノア・オブ・レジェンドで、後は戦艦が9隻、巡洋艦が軽重合わせて18隻、駆逐艦が45隻、特殊艦が9隻、空母がビューイックを含んで3隻、合計85隻の編制です。中規模には僅かに届かない小規模艦隊と言えます」

 私はガルパラスがガラパゴスに発音が似ていたので、彼の事をガラパゴス中将と呼ぶ事にしたが、それ以外の固有名詞は全て、左の耳から右の耳に抜けてサッパリと忘れ去っていた。 

 「更に、僕達の艦隊は、ベーリック元帥が司令官を務めるオリオンの腕連合大艦隊の一員なのです」

  私は個人的にはベーリックよりもガーリックの方が好みかな。

  ガーリックトーストは美味しいし、そうだ!明日の朝は、自室でガーリックトーストのボタンを探してみよう。


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