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第3章 空母にて 11

 ミヤビから案内された奥の小部屋には、一台の豪華な椅子が置かれていた。

 それは超高級な美容室に置かれていそうな椅子で、私がそれに座ると背もたれが自動的に後ろに傾いて、丁度、美容室で洗髪を受ける様な姿勢に成った。

 「フェイシャルケアのざっとした流れを事前にご説明しますね。フェイシャルケアにはヘアケアも含まれていますので、先ず最初は髪の毛のお手入れから始めます」

 昨夜は、紫色の液体に浸かって入浴はしたが、シャンプーとかで髪を洗った訳ではなかった。

 また、ワードローブの前に立った時、自動的に全身に温風が吹き付けられて肌と髪の毛は確かに乾いたが、自宅で洗髪ブラシを使ってゴシゴシと掃く時の爽快感は得られなかった。

 ミヤビは宇宙公認の一級ケアリストらしいから、洗髪の方も期待して良さそうだった。

 「次にメインのフェイシャルケアですが、先ずは低温スチームでお顔の毛穴をお開きします。次に濃縮天然イオンを吹き付けます。そこからが本格的なケアに成るのですが、それは又、その時にご説明致しますね」

 ミヤビはそう言うと、私の顔と髪の毛がすっぽりと包まれる大きさの、透明のカバーを取り付けた。

 「先ず、ユウカ様の髪質分析を行いますね」

 ふ~ん、ミヤビは一級ケアリストだけ有って、やる事がいちいち本格的だね。 

 私はこれまでワンシーズンに一回だけ、下町の安い美容室でカットだけをして貰っていたが、そこで受ける手抜きに近い洗髪しか経験が無かった。

 まあ、仮に手抜きで有っても、他人から洗髪して貰うのは確かに気分が良い。

 そこで、八木沢は腕力が強いから洗髪させたらきっと気持ちが良いだろうと思って一緒に風呂に入る事を勧めるのだが、何故かしら奴は恐れ慄いてその誘いを断るのだ。

 八木沢が私の髪を洗って呉れたら、私はそのお返しにゴシゴシタワシを使って風邪に負けない丈夫な身体にして上げるのに・・・。

 「はい、髪質分析が終了しました。」

 ミヤビは私の眼前を覆っていたフードカバーを開けた。


 「ユウカ様は未だお若いので、定期的にここにおみえ戴ければ、艶の有るしっとりとした美しい髪をキープする事が出来ますよ」

 「本当?それが本当なら嬉しいわ。まあ、何時までここに居れるかは分からないんだけどね」

 「えっ?」

 「あっ、ミヤビさん、気にしないで!」

 「ユウカ様!わたくめの事はどうか呼び捨てにして下さいませ!とても恐れ多くて・・・」

 「良いのよ。皆さんの名前の呼び方は私が呼びたい様に呼ぶんだから。それより先刻の髪質分析で他に分かった事は?」

 「御意!ユウカ様は見事なブラックヘアーでございますが、ここミヤビルームでご提供しているカラー剤で、ブラウン系なら限りなくノーダメージでカラーリングが出来ます」

 ふ~ん、そうなんだ?

 生まれて此の方、私は髪の毛を染めた事など無かったから、ノーダメージだったらここに来た記念に初めて染めて見るのも悪くないかもね。

 「ミヤビさん、一度染めても、又、元の色に戻せるよね?」

 「ええ、勿論でございます。それはご心配には及びません。ノーダメージで本来の髪色に戻せますから」

 ミヤビは、私がカラーリングを受けそうな話の流れに成ったので、更に言葉を重ねた。

 「実はわたくしめは、ユウカ様がお決めに成られた黒のドレスには、明るめのブラウンヘアが絶対的に映えると密かに思っていたのです。ブラックヘアーの場合、確かに統一感は有りますがやや重たい印象を与えてしまう事は否めませんから」

 う~ん、言われてみれば、確かにそうかも知れない。

 「分かったわ。カラーリングをする!色目はミヤビさんにお任せします」

 「かしこまりました」

 その後、頭皮へのスカルブと栄養の補給、そして分子レベルで髪の毛に艶を与えると言う水蒸気みたいな薬剤の噴霧が終わり、髪と頭皮の垢は全て除去されたとの事で私の洗髪は終わった。

 私は洗髪と言う行為に関するこれまでの認識を変えざるを得なかった。

 それから、枝毛部分のカット、そしてカラーリングまで、ミヤビの操作の元、全てを装置が機械的に行った。


 「素敵な髪の色に仕上がっていますよ。フェイシャルケアの前にヴァーチャル・リフレクターで、ユウカ様の黒のドレスとのマッチ具合を確認致しましょう」

 リフレクターに映っている私は、優雅さはそのままで自分でも笑ってしまう位、チャーミング度が高い姿だった。 

 「良くお似合いでございます!」

 髪の毛の色ひとつの違いで、これだけ受ける印象が異なるのか?  

 最初にドレスを着てリフレクターで自分を見た時は、確かに少し野暮ったいかなと思ったが、元々が野暮ったいファッションしか着て来なかったのだから、それも仕方が無いと割り切ったのだった。

 ところが今、リフレクターに映っていた私は、野暮ったいどころかとても洗練されたレディに見える。

 自分自身で努力をする事は無く、ミヤビの力だけで私の「女子力」は大いに高まったのだ。

 「女子力」なんか、私には全く必要が無いと信じ切っていた私だったが、「女子力」が高まって悪い気はしなかった。

 この姿で職場に現れたら、瀬戸山美樹と塚本みどりはきっと驚いて腰を抜かす筈だった。

 それから、私は各種のフェイシャルケアを受けた。

 その中でも最も感動したのが、ミヤビが仕上げに行って呉れたフェイシャルマッサージだった。

 この世の物とはとても思えない、得も言えない香りと芳醇さを持ったオイルを使ってミヤビが自らフェイシャルマッサージをして呉れた。

 リンドウからアンドロイドはロボットの一種だと聞いていたから、冷たくて金属的な指先かと思っていたが、それはとんでもない勘違いだった。

 ミヤビの指先はリルジーナに匹敵する位に柔らかくて、人間には真似が出来ない細かい振動で顔だけでは無く、首筋と肩までマッサージをして呉れた。

 その余りの気持ちの良さに、これから自室まで戻るのが億劫になった。

 だが、このままここに横たわって居る訳にも行かないので、私は心を鬼にして立ち上げると、ミヤビに心からお礼を言った。

 「勿体無いお言葉!ユウカ様のお気に召して戴けたのなら、これ以上の幸せは有りません!」

 ミヤビはそう言うと、私に深々と頭を下げた。

 「ユウカ様、艦長主催のパーティの前に、是非、ここに再度お越し下さい!わたくしめがユウカ様を更にチャーミングにするべく、究極のメイクアップを施しますから」

 おお、染髪だけでは無く、私は生まれて初めて化粧までしてしまうのか?

 毒喰らわば皿まで!

 女は度胸!

 よし!化粧をしてやろうじゃないか!


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