第3章 空母にて 10
「それではユウカ様、先ずは装飾品を含む小物類をざっとご覧戴いて、その後で、お好みの色目、素材、デザインを決めましょう。こちらの方にお進み下さいませ」
私は外見には全く拘らないタイプなので、今、持っている装飾品は短大に入学した時と、就職した時のお祝いで父母と兄からプレゼントされた金のファッションリングとパールのイヤリング、それからシルバーのネックレスだけだった。
ああ、そう言えば、八木沢と交際を始めた時に彼から贈られた、東南アジアのハリプンチャイ王国時代のモン族が愛用したと言う「ヴィンテージ刺繍布」で巻かれた極彩色の腕輪も持っていたっけ。
ハリプンチャイ王国だの、モン族とか言われても、私は知らんがに!
只でさえ変人扱いされている私が、そんなバングルを会社に着けて行ける訳も無く、それは彼と会う時だけに身に付ける「悲しき装飾品」に成った。
ところで、ミヤビルームに陳列されていた装飾品は、ダイヤモンドやルビーやサファイヤ、それからエメラルドなど私でも知っている物も有ったが、そもそも私が宝石に疎いせいも有って、見知らぬ魅力的な宝飾類が多数揃っていた。
只、バックとシューズ類は、東京の高級店に陳列されていそうな普通のラインナップだった。
「次はユウカ様のお身体を採寸をさせて戴きます。こちらの採寸ボックスにお入り下さい」
ミヤビから指差された採寸ボックスは、私が子供の頃、田舎に設置されていた電話ボックスを連想させた。
「この中に入れば良いのね?」
「ええ、一瞬で採寸されますから」
私がそのボックスの中に入った瞬間、ストロボの様な光が一閃した。
「はい、ユウカ様、採寸が終了しました」
私は今の会社に入社して、毎年、定期健診で受けているレントゲン撮影の事を思い出した。
「ヨウカ様の身体の全ての寸法が採寸ボックスに記録されました。後はお好みのお召し物をお選び戴くだけです」
まあ、この艦は人智を超えたハイテク技術の塊だから、きっと私のサイズにぴったりの衣装が提供されであろう事は確信出来たが、レントゲン撮影とは違って私の裸の状態が記録されたみたいで、私は余り良い気分には成れなかった。
それから私は、ミヤビと会話を重ねて部屋着として、ボトムは定番のジーンズとベージュのミディ丈のスカートを選んだ。
シューズは、普段から穿き慣れている白のスニーカーっぽいアイテムと、グレーのローファーにした。
トップスは、ミヤビが薦めるミスリル織りの紫のタンクトップとホワイトのシルクっぽい長袖のブラウス、それからブラックの薄手のカーディガンに決めた。
リルジーナ達と会う時の為に、薄いブルーのややフォーマルなワンピースもオーダーした。
只、艦長のウェルカムパーティに着るドレスは悩んだ末に、黒のそこそこ深いスリットで裾が割れているドレスを着る事にした。
ドレスなんて着た事が無かった私だったが、ミヤビルームのヴァーチャルな画面でそのドレスを着た私は、まるで美しい貴婦人に様にしか見えなかったからだった。
ミヤビは流石に最新鋭のCIを搭載されているだけの事は有って彼女の美的センスは抜群で、瞬く間にそのドレスに相応しいアクセサリー類を選んだ。
ティアラ、イヤリング、ブレスレット、リング、それからバングルとアンクレット、特にバングルは八木沢から貰った物とは桁違いに上品で優雅な逸品だった。
このドレス一式は、私の正体がバレて地球に戻される時に、お土産として貰ってしまおう!
流石に勘違いで私を拘束した事に負い目が有るから、私の申し出をリンドウだって断れない筈だ。
ふっ、ふっ、ふっ。
八木ちん!私のこの美しい姿を見て、今更、よりを戻したいなんか言ったって、そんなに簡単には許さないんだからね!
昨夜も言った、同じフレーズを私は又繰り返した。
「ユウカ様、リンドウ様からご連絡です」
そう言うと、ミヤビは自分が持っていた簡易スマホを私に手渡した。
「ユウカ様、申し訳有りません!ご希望だった美容整体コクーンは担当CIを含めて、現在、メンテナンス中でして、稼働は明後日に成ります。今日の所はミヤビルームでお顔だけのケアでお願いします。ミヤビ嬢はオリオン宙系公認一級フェイシャル・ケアリストの免許も持っていますから、きっとご満足が戴けると思います」
あっさー!メンテナンス中だとは!
まあ、それはリンドウの過失では無いし、二日後には使えるんだから、ここは淑女としての品格を示す場面ね。
「そう?分かりました。リンドウ、心配しないで。私は焦っている訳では無いので・・・」
「そう言って戴けると助かります。それから、ミヤビルームでケアを受けられた後は、ご自分で自室に戻られて昼食を摂って下さい。僕とリルジーナ様は艦長達との作戦会議が有りますので。夕食時には僕から改めてご連絡を致します」
「了解です。リンドウも忙しいですね。私は大丈夫だから公務の方を優先して頂戴ね」
私はそう告げると、リンドウとの通話を切った。
「ユウカ様は本当にお優しくて、皆に気を使って下さる方なのですね」
ミヤビは衷心から私を尊敬している表情でそう言った。
えへへ、本当の私は只のがらっぱちなんだけどね。
ヴァーチャル・リフレクトとは言え、先刻、ドレスアップした自分を見た以上、ここではがらっぱちは封印せざるを得なかった。
「さあ、ユウカ様、こちらの方へどうぞ。わたくしめが心を込めてフェイシャルケアをして差し上げますから」




