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第3章 空母にて 3

 「一点目の質問は、ここはポイント・ビュ-ウィックと言う名前らしいけど、一体、何をしている場所なの?です」

 微笑んでいたリルジーナの口元から、すこしだけ愛くるしい白い歯が覗いた。

 恐らく私の質問に、リルジーナが少しだけ笑ったのだろう。

 「ええ、ええ。ユウカ様は突然、こちらに連れて来られましたから、ここがどう言う場所なのかが気に成りますよね。それについては誘拐犯のリンドウに説明させますね」

 今度は間違いなくリルジーナは笑っていた。

 「リルジーナ様、僕の事を誘拐犯とは幾ら何でもヒドいじゃないですか!」

 それを聞いたリルジーナの口元からは、光り輝く白い歯が更に零れた。

 「ユウカ様、ここは東オリオン守備艦隊の最新鋭空母ビュ-ウィックの艦内です」

 「空母ビュ-ウィック?そう言えば私を誘拐した時、リンドウ、確かあんた、イエローピッグをポイント・ビューウィックへ搬送しますとかほざいたよね!」 

 「へっ?ええ、そう言いましたけど、それが何か?」

 リンドウは私の剣幕に、明らかに戸惑った様子を見せた。

 「ユウカ様、そのコードネームがお気に召しませんでしたか?イエローは、ユウカ様がモリヤの笛を拾われた時に着ておられたお洋服が黄色だったので、以来、ユウカ様の認識カラーはイエローなのです」

 リンドウは必至の形相で、コードネームの由来について説明を始めた。

 「あ、そう。昔の事だからもう忘れちゃったけど、若しかしたら黄色の服を着ていたかもね。イエローについては分かった。でも、どうして私がピッグなの?」

 「そ、それは・・・」

 そう言いながらリンドウは、半歩程、後ずさった。

 それ程、その時の私の形相は鬼気が迫っていたみたいだった。

 「ユウカ様は、僕がファーストコンタクトした男性と飲みに行かれて、彼の前で好んで豚の鳴き声を真似していらっしゃった物ですから・・・」

 「やっぱりそこか!別に好んで鳴いていた訳じゃないんだけどね!まあ、良いわ。要するにここは、地球とその周辺の宇宙を守護する東オリオン守備艦隊の主力空母で、私はその艦隊を助ける為にここに招請されたって訳ね」

 「お、おう!流石はユウカ様!素晴らしいです!全く持ってそれは正しいご理解でございます!」

 リルジーナが感極まったと言う表情で私を見詰めた。


 リンドウの方は、最初の私の質問が終わった事ですっかり安堵した顔付きに成っていた。

 フッ、フッ、フッ、今回は偶々《たまたま》の偶然だけど、ここで質問をしたお陰でリンドウの機先を制する事が出来たわ。

 明日から彼は私に口答えは出来ない筈!これを機にリンドウは私の召使いで決まりね。

 私は密かにニンマリとした。

 恐らくその時の私の顔は、下心まる出しで悪知恵が働く何処かの性悪女と全く変わりが無かったに違いない。

 「リンドウ、これからお話が少し長く成りそうだから、ユウカ様とわたくし達に飲み物を用意して頂戴」

 「かしこまりました。皆様、暫しお待ちを」

 そう言うと、リンドウはこの部屋を出て行った。

 間違い無く、ここポイント・ビューウィックでの地位は、リンドウに比べてリルジーナの方が遥かに格上の様だ。

 「ねえ、リルジーナ様」

 私はリルジーナにそう呼び掛けた。

 「ユウカ様、どうかわたくしの事はリルジーナと呼び捨てにして下さいませ」

 「まさか!リルジーナ様はきっと私より年上ですし、その溢れる気品に触れるととても呼び捨てなんか出来ません」

 リンドウに対しては平気で呼び捨てに出来る私だったが、リルジーナには自然と敬語に成ってしまう。

 それは決してリルジーナが放つ気高さに私が気後れしていた訳ではなく、勝手な思い込みかも知れないが、リルジーナは何故かしら私に取っては、優しくて懐かしい叔母の様に思えてしまうからだった。

 「かしこまりました、ユウカ様!宇宙的な厳密性に立ち戻っても、確かにわたくしの方が年長者ですから、わたくしはユウカ様のご判断に従います」

 そう言うと、リルジーナは私の両手を握りしめた。

 何と言う柔らかさ!

 リルジーナの両手はまるで上質な「絹漉きぬごし豆腐」を思わせる柔らかさで、若し私が強く握り返したら粉々に成ってしまいそうで、私は只々、リルジーナの瞳を見詰める事しか出来なかった。

 それに比べて私の両手は、普段から化粧をしないだけでは無く、乳液等で肌の手入れを全くして来なかったから、きっと悲しい位にゴツゴツした肌触りだった筈だ。

 ここは多分、宇宙人が管理している最新鋭の空母!

 若しかしたら人類の叡智を超えたハイテク技術で私の美容に貢献して呉れるかも知れない!

 取り敢えず明日、リンドウに私の肌をスベスベにする様に強く命じてみよう!


 「お待たせしました」

 その時、リンドウが私達の飲み物を持って、この部屋に戻って来た。

 「ユウカ様にはフレッシュ・オレンジジュース、リルジーナ様と僕にはフライフィズをお持ちしました」

 「宿敵を飲み干すって言う例のお酒ね。先日、飲んでみたけどわたくしでも美味おいしく感じられたわ」

 そう言うと、リルジーナは「フライフィズ」と呼ばれる飲み物を一口だけ口に含んだ。

 「宿敵を飲み干す」と言うリルジーナの言葉が気に成ったのだが、今夜の質問数は限られているので、私はその件を今は尋ねない事にした。

 実の所、私はリンドウが呉れた極上のお酒の方を飲みたかったのだが、それを言えば私の品性が疑われそうなので、仕方無くオレンジジュースをストローからズブズブと飲んだ。

 「さあ、ユウカ様。次のご質問をお願いします」

 リルジーナから質問を促されたが、今夜の私は、もうこれ以上の事を尋ねる意欲を失っていた。

 只、飲み物まで貰って何も質問しないのは流石に失礼な感じがしたので、少しだけ質問する事にした。

 「実は三つ目の質問は、何故、私が東オリオン守備艦隊や皆さんを助ける事が出来るのかの根拠についてですが、それを今聞けば、きっと今夜は眠れそうも無いのでこの質問は明日以降にします」

 「ええ、ユウカ様!そのご質問こそ全ての根幹に関わる問題ですので、わたくし共が責任を持って必ずご納得が出来る様にフォローを致します!」

 リルジーナは、私の言葉に再び、感極まった表情に成った。

 リルジーナは見かけに依らず、案外、感情が豊かな人なのだろうと、私は勝手に判断した。

 「ですから、これが今夜の最後の質問です!貴方方は一体何者で、この艦隊でどんな役割と言うか仕事をしているのですか?」

 「かしこまりました。お約束ですから包み隠さず真実をお話します。只、今のユウカ様にはとても信じて戴ける様なお話では無いのですが・・・」

 「リルジーナ様、今のユウカ様には信じて貰える筈が無いので、僕から説明をします」

 飲み物をサーブしてから無言だったリンドウが三歩程、前に進み出た。

 「ユウカ様の概念が地球外の生命体の事を宇宙人と呼ぶならば、僕達を含めてこの東オリオン守備艦隊だけでは無く、主力のオリオン大艦隊の乗員も全て宇宙人です」

 や、やはり!

 それなりに予想していた答えだったとは言え、面と向かってそう宣言されたら、流石の私も多少は動揺した。

 「只、リルジーナ様と僕、それから後でやって来るマヤは、オリオン大艦隊を含めた全ての艦隊に於いて、少しばかり特異な存在なのです」

 「えっ?」

 リンドウは更に説明を続けた。

 「今のユウカ様ではとても信じる事が出来ないとは思いますが、リルジーナ様は上位五次元の存在で、僕は下位五次元の存在です。そしてマヤは上位四次元の存在なのです」

 「へっ?」

 私はリンドウの言葉に驚き過ぎて、きっと間抜けなアホみたいな顔付きに成っていた筈だった。

 「ユウカ様!わたくし達三人は、それぞれの役割と使命を帯びて、ユウカ様が転生されているこの上位三次元に期間限定で降臨しているのです。それぞれの使命はまた別の機会にご説明致します。何れにしてもわたくし共はそう遠くない未来にそれぞれが自らの次元に戻らなくては成らないのです」

 リルジーナがリンドウの説明を捕捉した。

 「う~ん、とても理解しましたとは言えないけれど、お二人が真顔でそう言われるなら、きっとそうなのでしょう。ところで何だか私はすっかり疲れ果ててしまいました。もう自室で休みたいと存じます」

 26年生きて来て、来月で27歳に成るけど、「自室で休みたいと存じます」なんて上品な言葉を吐いた事はこれまで決して無かった。

 若しかしたら私の事を「ユウカ様」と様付けで呼んで貰ったせいか、或いはリルジーナの気品が私に伝播でんぱしたのか。

 何れにしても、私はこれまでの「がらっぱち」から、少しばかり「お嬢様」に変身したのかも知れなかった。 

 「ええ、ええ。是非、そう成さって下さいませ。マヤがユウカ様のお世話を致します!マヤは少し個性的ですが根は優しい娘ですから」

 リルジーナはそう言うと、リンドウを従えてこの部屋から静かに立ち去った。

 少し個性的だが根は優しい娘・・・か? 


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