彼女を男にしない理由
タラ~~~ッ
「え~~っ、……梨谷ウェルちゃん……」
魔法学会においても、その道に名を残してしまう奴は一般のそれとは違う。
そして、今の時期においても
「卒論魔法を出せと言いましたがね。素晴らしい研究成果を出して頂けましたがね。これ、魔法教授である私が傷つきますよ」
「そうですか?私は私のために研究し、作り上げました!独自性ある魔法でしょう?近頃、やれコピーやら、やれテンプレやらですよ!」
「そうですけれどね」
「阿部星教授!!あなただって、悪い魔法を使う囚人達を決して出さない、”監獄”の異名を持った正義の……」
「君が鼻血を出しながら、この論文を出しているから説得力がないのですよ。その顔で正義を語らない!」
卒業をするため、卒論を提出する。魔法学校ならば、自ら学んだことを活かした、独自の魔法を作り上げること。確かに最近では類似・亜種……といったモノばかりであり、発展には繋がらない。
梨谷ウェルが出した卒論の中身は
「新しい状態異常に着目するのは宜しいです!数十年もの間、その発展がありませんでした。しかしながら、このような状態異常を生み出すとは何事ですか」
「星さんの手助けを」
「鼻血出しながら、嘘を突くんじゃない!!君の私利私欲でしょうが!!」
◇ ◇
「言えません」
阿部のんちゃんは、……自分の父親の愛弟子の1人の能力だと、知っていた。
「あーいう変な能力を作ったのが、自分の知り合いにいるって正直に言えませんよ」
すげー変わった人なのだが。変わっているからこそ、凄い人物であるのだ。魔法学会を飛び出し、多くの異世界に与えた影響は凄まじく、彼女の力の亜流・参考が出回ったと言える。男が作ったもんだと思われていたが、女性にもそのような考えがあったということだ。人間達は
「想像力とは繋がっているからね。世界は意外と小さいのかもしれません。異世界から地球にやってきた、のんちゃんもそう思うでしょ?」
「どーせならお母さんやお父さん、眠々(みんみん)ちゃんに会いたいんですけれど、アシズムさん」
男性だって考えたけれど、先に作ったのが女性だったってオチでも良いかもしれない。彼女の力を参考に、それが広まったとすれば、……気にはしないだろうが、大きな土台の一部になったということだ。
「たまには引き受けますか?別世界で暴れるこの能力を止めること、できますか?」
「……しょうがないですね。たまにはですよ、アシズムさん。お父さんも危惧してたんで。……ウェルさんもこんな使い方は想定……してたはずなんですけどね」
こうして、阿部のんちゃんは、自分の知り合いが作ってしまった能力を止めに、ちょっと異世界に行ってくる。簡単に言えば、みんながみんな
「服が着れない世界ってヤバイですよ」
◇ ◇
状態異常・”脱衣”
「近頃の状態異常には、それに抗える魔道具があるものです!それ故、毒・麻痺・催眠・火傷・石化などなど……その魔道具さえあれば、簡単に対処できるため、状態異常に進化はなかったのです!!」
いかに即効性ある状態異常。条件が容易く付与できる状態異常。そーいった分野での進展はあるものの。
そのどれにおいても、抗える防御系の魔道具があれば、魔法使い達は安心できる。しかも、複数の状態異常の無効化はザラなのだ。喰らっても無効化されることが多い事で、状態異常は長らく軽視されて来ていた。
そこで
「ならば、シンプルにそれを貫通させて、状態異常に掛ければいいのです!!この”脱衣”は、あらゆる防御系の魔道具を自ら手放す状態にすることで、そもそも護ることが難しいものとなり」
ウェルはバーーーンッと机を叩きながら
「素晴らしい筋肉美を持つ男性達の生の肉体を見ることができるのです!!」
「それが君の目的だろうがーーー!!!」
「失礼。ついでとして、……毒や麻痺といった、皆が軽視している状態異常も付与できるという事です。これは安全面と戦闘面においても、良い効果となっています!」
「”ついで”とか言うんじゃない!!安全面がどこにある!?危険な武器を所持できなくなる以上のことだよ!」
単体の”状態異常”としては、個人差に落差があって微妙な性能と言えなくはないが、……組み合わせることで、魔法学会をより進展。いや
「これは混乱に導くじゃないか!!」
こんな状態異常が出回れば、防御系の魔道具の価値と信用が一気になくなる。装備できるアイテムの効果が無くなるというだけで、どれだけヤバイか分かるだろう。
「いやしかし、……可愛い少年が戸惑いながら、完全耐性を持っている魔法のローブを持っているのに、……一着一着、あたしの目の前で脱いでしまい、……その細い太ももとか、良い匂いがしそうな脇の部分とか……ジロジロ見てあげた時に、少年の頬が徐々に赤らめていくのも……」
「ダメだダメだ!!君の私利私欲全開じゃないか!!こんなの発表できるか!!君がもう混乱してるし!」
「た、たまらんのですよーーー!!こんな魔法ばっかりでひ弱な男達の世界じゃいけません!!筋肉で輝き、魅了してくれることも良いと思いませんか、星教授!!私にはそーいった男性達を救いたい!!魔法適正のない人達が可哀想じゃないですか!!」
「魔法適正もなく、筋肉もつかない人間というのもいるのですよ!体のいい事を言わない!!」
こうして、ウェルちゃんと星教授の魔法卒論は……6時間ほどの言い合いの末。
とりあえず、合格にするけど、二度と発表・公開をするなと言いつけられた。……まぁ、守るわけもないのだが。
◇ ◇
「のんちゃん。無事に片づけたようですね」
「はい!というわけで、ご馳走でも用意してください」
「はいはい」
無事に混乱を招いた異世界の騒動を終わらせた、ウェルちゃんの師匠の娘。
アシズムが作ってくれた特性ケーキを頂くとする。
「わ~~、美味しそう」
「……聞くが、のんちゃん。どうやって、ウェルちゃんはこの能力を使わなくなったんだい?」
「父さんがヒントを言っていましたよ」
「え?」
クソ雑魚筋肉しかない弱男達ばかりの空間にウェルちゃんを閉じ込めて、”脱衣”の状態異常をばら撒いて、心をへし折ったそうです。
「必ずしも、見たいモノがあるとは限らないんですよ」
ウェルちゃんではなく、ウェルくんにした場合。
全部が逆転するだけでしょう。