前編
息抜きに描いてみました…
こちらの作品は他のサイトにて投稿した小説のリメイク版となります。
「旦那様、私と離縁してください!」
私は目の前にいる顔立ちの整った旦那様、リーンハルト様にとびきりの笑顔を見せて離縁を申し出た……。
発端は3ヶ月前に遡る――。
◇
「リーンハルト様、本日の夕食はいかがなさいますか?」
「あぁ、執務室で軽く食べるよ」
「分かりましたわ、では軽くつまめるものを用意してもらいますね」
「では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
リーンハルト様は仕事をしに王城へ向かった。
私は後ろにいた侍女長のマーサに外に出かけたい事を伝える。
「今日は久々にお外に出たい気分なので久々にブティックの方へ伺うわ」
「かしこまりました、奥様」
「えぇ、お願いね」
それからお昼頃になりブティックへ出かける準備をする。といっても準備は侍女たちがするので私は馬車に乗って座るだけ。
◇
ブティックには30分程で着き、馬車から降りた。
街中には、リーンハルト様と同じ騎士服を着た方が何人もいた。もしかしたらリーンハルト様もいるかもと思ったがどこにもいなくてとても残念。
「はぁ、やっぱりいないわね。騎士団長にもなると現場仕事の方が少ないわよね……。まぁ、いいわお店に入りましょう」
私はブティックの中に入り、いくつかのドレスを仕立て、できたら屋敷に送るように店主に言いつけた。
出た時には陽が傾いてきていたので急いで帰ろうとしたが、見てしまったのだ。女性と楽しそうに歩いているリーンハルト様を……。
しかし、女性は騎士服を着ていたので、同僚なだけかもしれない……。きっとそうよね?
胸がざわついたけど私は見ないふりをして邸に戻る――。
◇
「リーンハルト様は今日も夜遅くまで仕事なのですね……」
リーンハルト様の執務室を自室の窓から覗き、呟いた……。
あの後、夕食を食べてから湯浴みをした。自室に戻った後は、昼間のあの光景が目に焼き付き、落ち着こうと窓際で星を眺めていた。
「私はやはり望まれてはいなかったのですね……」
私達の結婚は5年前、政略結婚だった。リーンハルト様が我が国が戦争になった時、武烈を立てたからその褒章として王女……私が下賜された。
お父様は何故、王女の私なんかを下賜したのでしょう。美しく、社交界の華と言われたウルルお姉様ならともかく、こんな瞳しか取り柄のない人間なんてもらう方が迷惑ですわ……。
私達王家には三人の姉妹がいました。この国は女性でも王位は継げるため、一番目のエリーお姉様は王太子でした。エリーお姉様は頭脳明晰で優しく、王になるには十分な資格をお持ちでした。
二番目のウルルお姉様はプラチナブロンドの髪が絹のように滑らかで、瞳はサファイアのような綺麗な青色と、とても美しく、皆の憧れの的で侯爵家の長男と電撃結婚をする前までは社交界の華と言われていました。今では社交界の女性達を取りまとめる主導者となっています。
二人の姉に対して私は頭脳明晰ではないし、髪の毛も薄い茶色で唯一取り柄なのがエメラルドグリーンのような綺麗な緑の瞳を持って生まれたことです。
この瞳は王家に代々伝わる瞳で、この瞳を宿したものがいる国は豊かになると伝わっています。私はこれを持っていたためにリーンハルト様と結婚したのだと思います。
それ以外に私と結婚する理由がございませんもの……。
私は5年前初めてリーンハルト様とお会いした時、お恥ずかしながら一目惚れをしてしまいました。こんなにも美しい男性がいるのかと驚いたくらいです……。
髪の毛は艶やかなサラサラの黒い髪で赤い瞳はルビーのようにキラキラと輝いていてとても綺麗でした。
あの日の出会いは私の中で一生の宝物です。
結婚をしてからは初夜の日のみ一緒に眠り、その後は別々に眠っております。
それが後3ヶ月後には5年目です……。もうそろそろ旦那様を解放してあげなくてはいけませんね……。
私の勘違いかもしれませんが、お外でお会いするぐらいですもの、私はもう、この気持ちに蓋をしなければいけませんね……。
◇
「旦那様、私と離縁してください!」
私は目の前にいる顔立ちの整った旦那様、リーンハルト様にとびきりの笑顔を見せて離縁を申し出た……。
「はっ、なぜ⁉︎」
リーンハルト様は驚いた顔をしながらも質問をしてきました。
「私はもう、疲れてしまいました。幸いにも子はいませんし、お父様も戻ってきてもいいと言ってくださっております。なので離縁して下さい」
私は真顔で言い退けて屋敷を出ました。
旦那様は相当驚いたのかそれ以上追いかけてきませんでした。
外には馬車を待機させ、必要最低限のものはすでに用意していたので私とマーサが乗り、出発しました。
「この後はどこへ行こうかしら……。そうだわ! 王都から離れて、王家が所有する別邸でのんびり暮らしましょう! お父様にはこの国にいるなら戻ってきてもいいし、別のところに住んでも良いと言われているもの! そうしましょう! マーサ、別邸に行きますよ!」
「かしこまりました。奥様」
一週間ほどかけて別邸に向かう。
別邸は王都とは違い自然豊かな場所だった。空気はとても澄んでいて、御伽の精霊でも住んでいるかのような美しい湖もあるのだ。お父様に後は頼んだし、後は任せましょう。
◇
ミシェルが出て行った……。どうしてこうなったのだろうか……。
「これは、悪い夢か……?」
「夢ではありませんよ、旦那様」
「セバス、どうしてミシェルが出て行ったんだ!」
「……それは旦那様自身が考えなければいけません。それがわからなければ、奥様は本当に離縁なさるでしょう」
「俺は、どうすれば良い……?」
妻のミシェルは自分が平凡な存在だと思っているが、本当は誰よりも守られなければいけない人だ。それを俺が……王家にミシェルが欲しいと言ったから……。
俺がミシェルと初めて会ったのは俺が10歳でミシェルが8歳の頃だった。
俺はあの時、自分の髪の色と瞳の色で悪魔の子だと他の子供達から揶揄われ、いつも泣いていた。それは王家主催のパーティーでも言われ続け、ついに我慢ができなくなりパーティー会場から離れてしまったのだ。その時に迷子になり困り果てていたら、緑色の目をした薄い茶色の髪をした女の子に「大丈夫?」と手を差し出された。
俺は顔を上げて見たら、天使かと思うくらいに女の子が可愛くて呆然とした。
その間に女の子が話しかけてきた。
「あなたの瞳の色はルビーみたいに鮮やかな赤色でキラキラ輝いていてとても綺麗ね! それにその黒色の髪も艶やかでまるで夜の星空のように輝いているわ! 私の茶色い髪とは違ってとても羨ましい!」
初めて俺の容姿を家族以外で褒めてくれた……。
「……褒めてくれてありがとう。実は迷っちゃって、パーティー会場がどこかわかるかな?」
「いいよ、案内してあげる! いきましょう!」
「……ありがとう」
家族以外では俺に触れてくれる人はいなかったのに、この子は嫌がらずに俺と手を繋いでくれた……。
この時の俺にとっては繋いでくれたこの手だけが救いだった……。
パーティー会場に着いたら、女の子が第三王女だと分かり、あぁ、この子が噂の第三王女だったのだと気がついた。
噂では、第三王女様はミルクティーブラウンの髪にエメラルドグリーンのような青緑色の瞳をした天使だとか……。
他にも、この国を豊かにしてくれる王家に伝わる緑の瞳をした聖女様だとか……。
様々な噂があったが、噂とは所詮噂なのだと思った。
だって全てが本当のことだったから……。
この時の俺にとっては第三王女様、ミシェル様だけが天使であり俺の心を救ってくれた、聖女様だった……。
パーティーが終わったその日に父に第三王女と婚約したいと願い出たが叶うことはなかった……。
陛下が最初からミシェル様を嫁がせることはしないと親世代の貴族には言っていたようだ……。
俺は諦めることができず父に陛下に会わせてくれと願い出たが断られ、毎日言い続けたら一度だけ陛下に会うことが叶った。
「国王陛下、どうしたらミシェル様と婚約し、結婚することができますか?」
「諦めろ、ミシェルを王家から出すことはない」
「私は諦めきれません。ミシェル様だけが私に優しくしてくださったから……あの気持ちを知ってしまったら知らなかった時には戻れません! だからどうかお願いします。たった一つだけの方法でも良いのです。ミシェル様との結婚を考えて下さいませんか?」
「…………良いだろう。では国民全員がお前のことを英雄だと認めさせろ。どんなことでも良いさ、騎士になって武烈を立てたり、原因不明の病気に効く特効薬を作ったっていい。何か一つ成し遂げてみろ。それが条件だ」
「はい! ご慈悲をありがとうございます! 私は絶対に諦めません!」
俺はこの時から騎士になることを目指した……。