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追放された鍛冶師、伝説の技術を呼び覚ます

作者: にっさん

王国最北の辺境、そこは厳しい冬の風と寂れた村が広がる不毛の地だった。鍛冶師・グレンは、吹雪の中、朽ちた木造の鍛冶屋の前で足を止める。背中には、かつて自分を信じてくれた仲間に贈られた大きなハンマーが揺れていた。


彼は王国一の鍛冶師になると信じていた。貴族の後援も受け、弟子たちを指導し、王国のために最高の武具を作る未来が見えていた。だが、全ては裏切られた。彼の技術を認めなかった王家、彼を無能と決めつけた上司、そして何もかもを奪った仲間たち。


「お前の技術なんて古臭い!今の王国には合わないんだ!」


その言葉が、彼の胸に深く刻まれている。追放という形で、王都から遠ざけられた彼は、唯一の身を寄せる場所として、かつて父親が残したこの廃れた鍛冶屋に戻ってきたのだった。


鍛冶屋の扉を開けると、埃と煤けた空気が迎えてくる。中には古びた工具と、煤で真っ黒になった炉。グレンは肩に担いだハンマーを下ろし、炉の前で立ち尽くす。


「結局、ここに戻ってきたか…」


その言葉には苦笑と諦めが混ざっていた。だが、今は何も失うものがない。王都の華やかな世界から遠く離れたこの地で、誰も自分を評価する者などいない。ならば、もう一度自分を信じ、技術を極めようと心に決めた。


――父が語っていた、伝説の技術「神錬しんれん」。


それは、この世界に数人しか伝えられていない特殊な鍛冶技術で、神々の武具を鍛えたと言われている。その技術が、父からグレンに受け継がれた最後の遺産だった。だが、彼はそれを一度も使ったことがない。王都ではその技術を異端視され、「過去の遺物」として一蹴されたからだ。


「ならば、試してみるか……」


グレンは古びた炉に火をつけ、炭をくべる。小さな火は次第に勢いを増し、炉内を明るく照らし出した。懐から父の形見の鋳型を取り出すと、その独特な形状が炎に照らされて光る。神錬の技術は、その鋳型と共に伝わっている。これが全てを変えるかもしれない。


炉が赤々と燃え始めた頃、村の若者が訪れる。彼の名前はリーン、勇敢な冒険者志望の少年だった。


「鍛冶師様、剣を鍛えていただけませんか?」


彼は震える声で頼んだ。見ると、彼が持っている剣はすでに刃が欠けていて、何度も修理された跡がある。グレンは無言でそれを手に取り、じっくりと眺めた。


リーンが差し出した剣をグレンが手に取ると、その表面には無数の傷が刻まれていた。剣の刃先は丸まり、かつての鋭さを失っている。グレンは無言でその剣をじっくりと見つめた後、静かに言った。


「これは……かなり使い込まれているな。修理を重ねたようだが、もう限界だ。新しく作り直すしかない。」


リーンは一瞬ためらい、そして目を伏せた。「新しくですか……。でも、この剣は、俺の父が俺にくれた大事な物なんです。初めての冒険に出るときに、父が手ずから渡してくれたもので……だから、どうしても直したいんです。けど……」


リーンは声を詰まらせた。金がないのは当然だが、それ以上にこの剣を失うことが、彼にとってどれほど痛みを伴うかが伝わってきた。


グレンは黙って彼の姿を見ていたが、やがて、固く頷いた。


「代金はいらない。お前の思いを、剣に宿してやろう。私の腕を信じて預けてくれ。」


リーンは驚いた表情を見せた。「え、本当に……?」


「本当だとも。この剣はお前にとってかけがえのないものだ。私も全力で鍛え直す。だから、安心して任せてくれ。」


「ありがとうございます、鍛冶師様!」


グレンは炉の温度を高め、神錬の技術に沿って鋼を叩き始めた。鋼は彼のハンマーの一打ごとに形を変え、まるで生命を宿したかのように輝きを増していく。炉の炎が揺らぎ、鍛冶場は異様な熱気に包まれる。


「これが、神錬か……」


彼のハンマーの音は、かつて父が語っていた通りのリズムを奏でていた。グレンは汗を滴らせながら、集中力を切らさず、ひたすらに叩き続けた。そして、ついに完成した。


リーンに手渡した剣は、以前とはまるで違うものだった。光を反射し、鋭利な刃は魔力すら込められているかのように感じられる。リーンは言葉を失い、ただ剣を握りしめた。


「これは……本当に俺の剣ですか?」


「そうだ。そして、この剣はお前を守るだろう。しっかりと鍛えておけ」


その後、リーンはその剣を手に冒険へ出かけた。彼の姿は村人たちの間で語り継がれ、グレンの名もまた少しずつ広がっていった。やがて、辺境の村にすぎなかったこの地に、遠方からも鍛冶師グレンを頼りに人々が訪れるようになる。


そしてついに、王都からの使者が訪れた。かつてグレンを追放した貴族が、彼の技術を必要として訪ねてきたのだ。


「グレン・サリバン、お前の技術を認め、再び王国の鍛冶師として迎えたい。共に戦おうではないか」


だが、グレンはその提案を聞くと冷たく笑った。


「今さら何を言う?王国は私を無能と呼び捨て、追い出したではないか。戻る理由はない」


貴族は困惑し、必死に説得しようとするが、グレンは振り返らなかった。


「ここで得たものは、王国で失ったものよりもはるかに大きい。私には、もう一度裏切られる理由はない。」


グレンは王都への帰還を拒絶し、今の生活を守ることを選んだ。かつての栄光も、追放された屈辱も、彼にとってはもう過去のことだった。これからも、鍛冶師として自分の道を歩むことこそが、彼にとっての真の栄光だった。

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