エピローグ
制服姿の僕と楓夏ちゃんがいるのは、町の外れにある墓地だ。そして、目の前には霧島家之墓と彫られた墓石が鎮座している。
そう、楓夏ちゃんの両親のお墓だ。
三日前に病院を退院した楓夏ちゃんに両親のお墓参りをしたいから一緒に来てと頼まれたのは今朝のことだった。
この町に楓夏ちゃんの両親のお墓があるのは正直に言って驚いた。そのことを楓夏ちゃんに話すと、この町が好きだった両親なら、ここで眠りたいだろうと考えてのことだと教えてくれた。
また、楓夏ちゃんにとってこれが初めてのお墓参りである。
「ごめんね。お父さん、お母さん。ここに来るのが遅くなって……。啓太の約束のおかげでお父さんとお母さんの死はどうにか堪えられたけれど、それでもお父さんとお母さんのお墓を実際に見てしまったら挫けてしまうんじゃないかと思って怖かった……」
墓石の前で合掌して謝罪の言葉を述べる楓夏ちゃん。これが理由だ。
更に楓夏ちゃんの言葉は続く。
「でもね、やっと決心が出来たよ。だって挫けそうになる私を支えてくれる人がいるから」
そう言って僕の方を見るので、恥ずかしくて顔が火照る。
そんな僕に楓夏ちゃんは微笑みながら立ち上がって言った。
「それじゃあ、始めましょうか?」
「え? なにを?」
急に始めると言われても僕にはさっぱりわからず、首を傾げてしまう。
「そんなの結婚の約束に決まっているじゃない。『約束のゆびきり』とは違う本当の約束をお父さんとお母さんのお墓の前でするのよ」
「へ?」
「なにを素っ頓狂な声を出しているのよ? そのために啓太と一緒に来たのに」
小指を立てる彼女に突然のことでなにも言えないでいると、
「……それとも、啓太は私と結婚したくないの?」
と不安そうな声で上目遣いに訊かれて僕はぶんぶん音が鳴るくらいに首を横に振って否定した。
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあ、問題ないでしょ?」
「うん、まあね」
僕も小指を立ててそれを楓夏ちゃんのそれに絡めた。
そして、声を合わせて口にする。
本当の気持ちを込めた、本当の誓いの言葉を……。
「ゆーびきり、げーんまん、うそついたら、はりせんぼんのーます」