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6.タリスマン

 剣を手に入れてからレオナルドは、ライルに見てもらいながら剣を振り始めた。


「はっ、はっ、はっ」


 初めて剣を握ったレオナルドは普段見ているライルの見よう見まねで素振りをする。


「レオ、手で振るな。体を大きく使って振るんだ」

「こうっ!?」

「いや、そんなグネグネさせろってことじゃなくて。回転と体のしなりを剣に伝えるんだ」


 剣を振っているレオナルドの近くで、ライルが座って教える。

 数日前に怪我を負っていたため、大事をとって仕事を休み、レオナルドの面倒を見ていた。

 怪我を理由に巨影の調査を見送ったということもあり、狩りに出ることは控え、久しぶりのまとまった休みをレオナルドと過ごすことに決めていたのだ。


「にいちゃん。ちょっと一回やってみせてよ」

「ああ、いいぞ」


 ライルはレオナルドから剣を借りて素振りをする。

 ライルが素振りのときに意識しているのは、ゲーム上で主人公であるレオナルドがしていた動きだ。

 レオナルドの動きの真似をしていたライルが、本人であるレオナルドに動きを教えるおかしさに、ライルはクスリと笑う。


「にいちゃん?」

「なんでもないよ」


 ゲームの動きを真似しているといっても、素振りをしているうちにライルなりに良い振り方というのを模索していた。

 大きい筋肉である下半身から体幹を使って体をしならせ、反発するように戻る体についていくように腕を振る。

 その結果、初めて剣を握ったときよりも力強く、ブンっと大きな音が鳴り、軽い風が巻き起こった。


「こんな感じかな?」

「すげぇ!」


 何回か振ってみせると、レオナルドは目を輝かせた。

 手放しでほめてくるレオナルドに、ライルは照れ臭くなり、そそくさと剣を返す。


「レオ、体を動かす順番は大きい筋肉からだ。手だけじゃうまく振れないし負担が大きいから疲れやすくなる」

「確かに、もうあんまり剣を握れないかも」


 落ち込んだように自分の手を見るレオナルド。

 ライルが彼の手を覗き込むと、既にマメができて潰れていた。


「あちゃ~、痛かったな。水で流して包帯巻いておこうか」

「うえぇ、水で洗うの痛いからやだ……」

「だめだぞレオ。戦士になりたいならこのくらいはやらないと」


 戦士になったら、怪我なんて日常茶飯事だ。傷によっては化膿して壊死する可能性がある。

 将来、世界を救う英雄になるのだからと、ライルは旅の基本を教えていた。


(こんなかわいいレオが将来世界を救う英雄になるんだもんなぁ。世の中わからないもんだな)


 マメに入る水で泣きそうになりながら我慢するレオナルドを見て、ライルはしみじみと思う。


(……そういえば、ゲームでもレオは剣自体の強さはそこそこだって設定だったよな。物語上の設定で強くなっていったけど、どうやって世界を救う力を手に入れたんだろ。主人公補正か?)


 ラスボス戦でもレオナルドは主人公補正としか思えない『絆の力』とやらで、はるかに格上の敵に対しても勝ってみせていた。

 この『絆の力』がチートじみていて、まさしく無限のパワーを得られる代物だったのだ。


(最も強い『絆の力』を持つのがレオだからって理由だったけど、実際『絆の力』の詳しい説明なんてなかったんだよな)


 ストーリー上では、レオナルドは世界中を旅して人を救い、その絆が力になったという話だったが、詳細な説明は省かれていた。


「にいちゃん! 包帯巻いたら後でもう一回見て!」

「わかったよ。でも無理しちゃ怪我するぞ?」


 頭の中の懸念も目の前の愛らしい弟の頼みの前では、露と消えた。




 ◆




 数日後。

 傷がほぼ癒えたライルはレオナルドと共に買い物に出ていた。


「ここはタリスマンを売ってるみたいだね」

「タリスマン?」

「装飾品の一種で、不思議な効果があるものをタリスマンっていうんだよ」


 たまたま寄った露店で、ライルがレオナルドにタリスマンについて教えていた。

 タリスマンとは、ゲームでHPやMP増加、タメ攻撃の強化など様々な恩恵を与えてくれるもの。

 しかしタリスマンは秘技付きの武器以上に珍しいため、ほとんどの戦士はその名の通りのお守り程度でしか持ち合わせていない。

 ライル自身もこの店の存在は知っていたが、たいしたものはなかったと記憶しており、特に買うようなことはなかった。

 しかし、ここで幸運の申し子たるレオナルドがある発見をした。


「ねえにいちゃん! これとかなんかキラキラしてるよ!」

「え?」


 レオナルドが見せてきたものは、金色の円盤に小さな赤い宝石が埋め込まれたものだった。


「これは……」


 そのタリスマンには覚えがあった。

 ゲーム上では、ほとんど使われなかったが確かに存在していたタリスマン。


「【助命】のタリスマンか」

「じょめい?」

「これを付けてると、一回だけ死を回避してくれるっていうものだ」


 ゲームでは死んでも落とすのはレベルアップせずに溜めていた経験値のみで、死亡にさしたるデメリットがなかった。もちろん経験値を落とすのはレベルアップ直前ならかなり痛いが、殺された相手か場所に行けば回収できるため、このタリスマンを使用しているプレイヤーはほとんどいなかった。


(だが現実なら話は別だ)


 ライルは真剣にレオナルドが見つけたタリスマンを見つめていた。


(お金……はエレンさんのおかげでまだある。けど、危険な依頼を受ける気はないし、このお金でレオにもうちょっといい生活させてやりたいし……でも命の危険には変えられないか?)


 いつの間にか険しい顔をしてうんうん悩みだすライル。


「にいちゃん欲しいの?」

「……っ、いやいい」


 レオナルドの声に我に返ったライルは、咄嗟にタリスマンを棚に戻した。


(ま、しばらくは安全な依頼を受ければいいか)


 レオナルドと手を繋いで平和な村を歩き出す。

 こののどかな幸せがまだ続くのだと、ライルはそう信じていた。


「た、大変だぁあああ!!」


 門番であるヘイズルが叫びながら戻ってくるこのときまでは。


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