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42.班長ちゃん




「集まってくれてありがとう。みんなに頼みがあるんだ」


 翌日。

 俺とマリアは、班長に任命する4人に集まってもらった。

 他の子どもたちがいる家とは別の家で、全員が一つの大きな木板を覗き込んでいる。


「これから子供たちを4グループに分けて、順番に必要な作業をやってもらおうと思います。やってもらいたい作業はそこの木板に書いてある通り。できるだけ絵で描いてみたけどわからない人はいる?」


 聞くと、さすらい人のアリアとレイラ、服屋の娘のニーナが手を挙げた。

 字が読める人は、思った以上に少ないらしい。


「そこの木板には、これからやる4つのことについて書いてあるんだ。石鹸と風呂、毛布づくりと勉強だね。レイラとアリアには石鹸と風呂づくりを、毛布づくりはニーナに、勉強はミリアにお願いしたい。大丈夫?」

「え、ぇと……いいですか?」


 おずおずと手を挙げたのは、ひび割れた眼鏡をかけたニーナだった。

 傷んだ髪を二つ結びにしている彼女は、文学少女的な雰囲気だ。


「わ、わたし、その、服屋の娘ですけど、ちゃんとした服の作り方はまだ知らなくて。いつもは服を作るのに必要ななめし液とか糸作りとかしかまだやらせてもらえてないんです……」


 え――……


「ホントに!?」

「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!」


 俺が少し大きな声を出すと、ニーナはびくりと体を震わして縮こまってしまった。

 ああ、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。


「ちょっと、ニーナを怖がらせないで」

「ごめん、ちょっと驚いちゃって」

「だからって、彼女を責めるようなことしないでよ」


 責める? 彼女を?

 まさか、それどころか感動のあまり抱きしめたいくらいだ。

 怖がられるしキモがられるからやらないけれど。


「なめし液とか作れるだけでもすごく助かる。俺、材料は知ってても実際に作ったことはないから、経験者がいれば本当に助かるんだ。さっきのはそういう意味で驚いたんだ」

「ほ、本当ですか……? 材料だけじゃ作れないですよ?」

「大丈夫。なめし革自体の作り方は知ってるし」

「え? す、すごい……」


 うえ、ニーナがなんか尊敬の目で見てくる……。

 やめてくれ、転生知識で、ネットで調べて体験教室に行っただけの俺にそんな目を向けないでくれ。


「作るのは動物の毛皮を防腐処理した毛布だね。冬の寒い時期を乗り越えるために必要なものだ。あとで作り方をまとめようか。よろしくね、ニーナ」

「は……はひっ!」

「?」


 裏返った声で返事をするニーナだったけど、心なしか頬が赤い。

 寒いから冷えたのかな?

 場所を暖炉の前に移そうかと思ったとき、二つの手が同時に上がった。


「あの~石鹸てなんですか?」

「お風呂ってどうやってつくるの?」


 アリアとレイラが合わせるように発言する。


「石鹸は草を燃やした後に出る灰から灰汁を抜いて、その灰汁と動物の脂肪を加えて混ぜればできるものだよ。これがあれば、頑固な汚れを落とせるから、みんなの体が綺麗になるよ」

「ほんとに!? やった、ちょっと体が臭くて耐えらんなかったんだよね!」

「これでようやくすっきりできるよ!」


 きゃっきゃと手を合わせて喜ぶアリアとレイラ。

 このころから、2人は仲が良かったのか。


「石鹸と合わせて欲しいのがお風呂だね。冷たい水で体を拭くのはみんないやでしょ?」

「いやだー! こんな寒い時期に清拭したくなーい!」


 アリアが女の子らしい声で文句を言った。


「そうだね。だからあったかいお湯に入れる場所を作ろうと思う。使ってない家を改装して、そこを丸ごと共用の湯あみ場にしようか」

「あったかいお湯!? そんな贅沢なことできるの!?」

「水は近くに湖があったから、そこから引っ張ってこようか。家の改装はいろいろ工夫が必要だけど、早ければ一週間もあれば完成するよ」

「やっば!?」


 アリアが一際大きな声で驚きの声をあげた。

 その声を最後に、部屋が静かになる。


「? なにかやばいことあった?」

「ライル……本当にそんなことできるの?」


 マリアが疑いの目を向けてきた。

 なんだ、そんな難しいことは言ってないぞ。

 確かに初めてのことばかりで多少失敗することはあるかもしれないが、実現不可能なことでは到底ない。


「問題なくできるよ。石鹸とかお風呂とかの作り方はあらかたもうまとめてるし、必要な材料もそろえてある。革も時間がかかるけど、なんとか冬の一番寒い時期には間に合うはずだ」

「「「「…………」」」」


 部屋の中がまた沈黙に包まれる。

 それを破ったのは、マリアのため息だった。


「……嘘よね?」

「ほんとだよ?」

「いつの間にそこまで……」

「いつの間にったって」


 ほとんどの素材は狩った動物素材で確保できるし、夜の見張りの間に今後どうするかの計画は十分に練れたし、準備ができた。


「夜の見張りの間に大体終わったよ。みんなが寝てる間暇だったからね」

「「「えっ!?」」」


 おどろいた声をあげたのは、マリア以外の4人。


「ライル様、夜寝てないんですか!?」

「ライル様!?」


 なんで様付!?


「ライル様、こんなことまで考えてくれたんですか?!」

「めっちゃわかりやすい図じゃん! こんなのすぐに描けるもんなの!?」

「すごーい! なんかなんでもできる気がして来た!」


 ミリア、アリア、レイラが俺が準備した手順書とか計画書を見て口々に褒めてくれた。

 よせやい、照れるであろう。

 ちなみに、この冬を乗り越えられたら、さらなる計画がこの村を豊かに――……


「ちょっと、ライル」

「いって!」


 気分を良くした俺の耳をマリアが引っ張ってきた。

 不意打ちは卑怯だぞ、ちょっと涙目になっちゃったじゃないか。


「なんだよマリア。もうちょっと優しくしてくれよ」

「十分優しくしてるわよ。そうじゃなくて、あなた、いつ寝てるの?」


 いつって、みんなが朝起きてご飯食べたの見届けてから寝てるな。


「朝に3時間くらい?」

「すくな!」

「いってぇ!?」


 叫ぶと同時にマリアが俺の頭を叩いてきた。

 あんまり痛くないけど、勢いで叫んでしまった。

 マリアは疲れたように目頭を揉む。


「ライル、あなた働き過ぎよ。夜の見張りが終わったなら、ちゃんと寝なさい。この五日間は狩りに行かないから大丈夫だと思ってたのに、こんな準備してたんなら疲れもたまるでしょう」

「なんだかんだ休めてるから平気だよ。夜の見張りもこれからの準備も、たいした労力でもない」

「……ならいいけど」


 マリアなりに心配してくれてるみたいらしい。

 もうちょっとツンケンするのを無くしてくれれば、マリアはかわいいのに。


「なんか失礼なこと考えてるでしょ」

「別に。もうちょっと優しくしてくれたらなって」

「へぇ? なら夜となりで寝てあげましょうか?」

「夜に寝ないから意味ないな」




 


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