表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/111

1.主人公の兄


頬を熱風が焦がした。

眼底に恐怖が刻まれた。

目の前で、家族のように笑った村人が黒く腐って死んでいた。


突如として村を黒い影が包み込む――影の軍勢の来襲だった。


村は黒い業火に焼かれ、黒い腕が人々を瓦礫の影に引きずりこむ。

このとき、俺はただ知った。


――強くなければ死ぬ。


目の前で黒く燃えていく村を見て、この事実が、強く心に焼き付いた。


呆然と、ただ立ち尽くす。

恐怖と混乱で、何をすればいいのか、わからなかった。

だって、さっきまで俺は普通にゲームをしていただけのはずだから。


断末魔の悲鳴が、近いのに遠くで響く。

――その中で、かすかな震え声が背後から届いた。


「にいちゃん……」


振り返れば、煤まじりの汚れた涙を流す幼い顔があった。

紺色の髪は煤でところどころ焦げ、紺色の瞳が俺を探している。

子どもの小さな手が俺の手をぎゅっと締め付けた。

ドクン、と心臓が跳ねる。


「……レオ?」


それは、レオナルド。

ゲーム『ワールドリング』の主人公。さっきまで遊んでいた――いや、突然俺の頭に流れ込んできたゲームの中の、主人公だ。

そうだ、レオは俺の弟だ。

俺はレオの兄だ。


――でも、ゲームに俺はいなかった。

レオの隣に、俺はいなかった。

だとしたら、俺が辿る結末はただ一つ。


――――死だ。


「行こう、レオ。逃げないと」


弟を抱きしめると、胸の奥で真逆の声が響いた。


「にいちゃん! みんなを助けようよ!」


暴れ、烈火の中へ飛び込もうとするレオナルド。

でもその手は、その足は、震えている。

死ぬほど怖いくせに、人々のために影に立ち向かおうとするのか。

こんな人間が、世界中の人々を何千何万と救うのだろう。


俺には助けるなんて選択肢は、微塵も浮かばなかった。

俺にできることは、ただ逃げるだけ。

逃げた先ですら、俺の生は脅かされる。


「やめろレオ。俺たちは弱い。戦いに行っても死ぬだけだ」

「で、でもにいちゃんと2人なら!」

「……ごめんなぁ」


泣きじゃくる弟を抱きあげる。


「待って! にいちゃん、待って!」


焦げた大地を蹴って走り出す。

その足に、弟のわずかな抵抗が絡みつく。


レオは叫び、燃え盛る村に手を伸ばし続けた。

俺はずっと、燃える村に背を向けていた。



―――これはゲーム「ワールドリング」主人公レオナルドの弱冠10歳の頃の出来事だ。

そして、主人公の兄――――俺の名はライル。


死ぬべき定めの、名も与えられなかった弱き兄だ。

俺は、ここで死ぬべき影だった。



……だがただの影にもまだかすかな光が残っていた――







【ワールドリング】――

脅威に満ちた世界で、レオナルドは人を信じていた。

心が持つ可能性、ゆるがない強さを。

ゆえに彼は諦めない。

これは信じることこそが最強の武器となる物語。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ