生まれてはじめて、江戸川乱歩先生の本を買ったよ!
本に触れて、世界は広がる(いろんな方向へ)……。
小学生時代に、しくじった話です。
自分は子供の頃から、本を読むのが好きでした。通っていた小学校の図書館には江戸川乱歩先生(以下、敬称を略します)の『少年探偵団』シリーズがあって、片っ端から読みふけっていたものです。
名探偵の明智小五郎(めちゃめちゃ、格好いい。案外、出番が少ない)。
彼の弟子である、小林少年(少年なのに、車の運転をしたりする。女装もしたりする)。
魅力的な強敵である、怪人二十面相(しばしば、単なる怪しいおじさんになる)。
多彩な登場キャラや奇想天外なストーリー、独特な世界観には、本当にワクワクドキドキさせてもらいました。
そして、自分は思ったのです! 『少年探偵団』の本を、1冊ぐらいは、自分の手元に置いておきたい! ――と。
そのようなわけで、ある日、自分は本屋さんへ出掛けました。絶大なる決心を有しながら。
なぜなら、あの頃の自分にとっては、本を1冊購入するだけでも、それは大出費だったのですよ。親に「本を買いたい」と告げたら、お金を出してくれたでしょうが……やはり、好きな本は自分の貯蓄を切り崩して買ってこそ、得も言われぬ高揚感を味わうことが出来るわけでして。
まぁ、小学生の自分の貯金は、千円札3枚分くらいしか無かったのですが。
で、本屋さんへ行ってみて、『少年探偵団』シリーズのどれかを買う前に、ぶら~と文庫本のコーナーを眺めていたら、江戸川乱歩の本がいっぱい並んでいて、ビックリするとともに、とても嬉しくなりました。
あ! 自分がまだ読んでいない、乱歩の本がたくさんある! と感激したのです。
小学生の自分の認識では「江戸川乱歩が書いている本は、全部『少年探偵団』シリーズ」だったのです。
自分は、乱歩の文庫本のうち、未読の1冊を棚から引き出して、何の躊躇もせずにレジへ持っていきました。
タイトルは――『陰獣』
……………………ちょっと、待ちなさい。
大人である今の自分から、子供であった昔の自分にツッコミを入れたい気持ちです。
どうして? なんで、そのタイトルの本を選んだの!?
あの時の自分の心境が、どのようなものだったのか、今となってはサッパリ思い出せません。おそらく、何も考えていなかったのでしょう……。
『陰獣』というタイトルの本を購入する小学生を、レジの方はどういう目で見ていたのでしょうか? 推測するのが、こわいです。
それから。
家に帰って、さっそく『陰獣』を読んでみました。本屋さんで、内容の確認は特にしていなかったので(←しなさい)。
ワクワクドキドキ。
ワクドキ。
ワド。
ド。
………………………意味不明でした。
ストーリーを、理解できませんでした。
明智小五郎は、出てきませんでした。
小林少年も、出てきませんでした。
怪人二十面相も、出てきませんでした。
殺人事件が起こって、主人公の探偵小説家がイロイロと推理する。その最中にヒロイン役の女性が鞭を持ってきて「私を、ぶって! サア、ぶって!」みたいなセリフを口走る…………そんな展開に、ひたすら(? ? ?)となるしかありませんでした。
〝物語の中で、なんだか凄いことが起こってる!〟という点だけは、かろうじて分かりました。
いえ。今、読んでみると『陰獣』は乱歩の傑作で、めちゃめちゃ面白いんですけどね。
ちなみに文庫本の『陰獣』には、乱歩の他の短編も収録されていました。
けれど〝大人向けの乱歩作品〟は、どれもこれも、子供の自分にとっては《読むために越えるべきハードル》が高すぎました。いろいろと、無理でした。
せっかく、買ったにもかかわらず。
結局、江戸川乱歩著作の『陰獣』は、自分の部屋の本棚に並べられることは無く、机の引き出しの奥にしまわれてしまったのです。
封印されたのです。
その封印が解けたのは、自分が高校生になってからでした。
再読して……静子さん(『陰獣』のヒロイン)、貴女って、本当に魅力的な人ですね! との感想を持ちました。
高校生の自分は、小学生の時とは違って、静子さんの性癖を理解できるようになっていたのです。
それを「成長」と呼んで良いかどうかは、謎ですが……。
~おしまい~
ご覧いただき、ありがとうございました。
作中で、作者は2つの〝しくじり〟をしてしまいました。
1つめ「小学生なのに、本屋さんで『陰獣』を買ってしまった」
2つめ「『陰獣』のヒロインの性癖を理解できるようになってしまった」
……読書って、本当に素晴らしいですね(爆)!