玖蘭美世
灯夜と別れた美世は学園の中央にある中庭に来ていた。
「愛奈お待たせ」
「美世姉様!」
美世は中庭にある噴水横のベンチに座っていたボブカットの少女【愛奈】に話し掛けた。
愛奈は美世の姿を見ると嬉しそうに駆け寄った。
「姉様は止めてよ。今日からクラスメートなんだから」
「姉様は姉様です!」
美世は苦笑いを浮かべながら言うが、愛奈は譲る気が無いようで言い切った。
「ところで灯夜兄様はご一緒でわ?」
「あぁ、灯夜なら理事長と一緒よ」
愛奈は美世の後ろを見ると首を傾げた。
美世は諦めたように肩を竦めると答えた。
「灯夜兄様に会いたかったです・・・」
「愛奈は相変わらず灯夜が好きね」
ガックリと肩を落とす愛奈に美世は呆れたように言った。
「当たり前です!灯夜兄様と美世姉様は私の命の恩人なんですから!」
「あー・・・」
愛奈は力強く言うと、美世はまた始まったっとばかりに溜息をつき額に手を当てた。
「話しを戻すわよ?」
「あ、はい!」
長くなりそうな愛奈の話しを区切り美世は話し出した。
「今年はあの白鳥家と黒川家が入学したのは知ってるわね?」
「はい・・・」
「まぁ他の家もなんだけど絶対に喧嘩は売らないようにね?」
美世が二つの名を出した途端、殺気を込めた愛奈に真剣な顔で釘を刺した。
「で、でも!」
「愛奈?」
食いつく愛奈に美世は有無を言わせない声で名前を呼んだ。
「わ、わかりました・・・」
愛奈は渋々と言った感じに引き下がった。
そんな会話をしていると、後ろから誰かが二人に近づいてきた。
「あっれ~玖蘭美世がいる!」
二人が後ろを振り向くとタイミングの悪い事に五色家の五人だった。
平次が先に見付けた様で声を掛けてきた。
「あら、玖蘭さん?ご機嫌よう。私青葉家長女、皐月と申します。
先程は柊斗がごめんなさいね?」
五人を怪しげに見る美世に皐月は一歩前に出ると、申し訳無さそうに先程のことを謝罪してきた。
「いえ。気にしてないので」
「私達は柊斗さんが総代だと思ってましたの」
美世は目線を外し言うと立ち去ろうとしたが、皐月が会話を続けた。
「まさか次席だったなんて思ってもみませんでしたの」
皐月は疑問を含んだ目で美世を見て言うと、黙って成り行きを見ていた昇が皐月を止めた。
「あら、昇さん。本当の事でしょ?」
皐月は可愛らしく首を傾げながら言った。
「・・・・・・」
微笑む皐月だが目は笑っていなかった。そんな皐月の言葉に昇は無言になり美夜は頷き、黙っている柊斗を見た。
「それなのに庶民が総代なんて・・・・」
皐月は止まらずに忌々しげに美世を見て吐き捨てた。
「私達には関係無いことだわ。愛奈行くよ」
皐月の言葉に美世はピシャリと言い、愛奈を連れ今度こそ立ち去ろうとした。
「玖蘭美世!俺は黒川家長男、柊斗だ。覚えておいてくれ」
立ち去ろうとした美世に柊斗は声を掛けた。
「長男・・・・ね」
小さく呟くと何事も無かった様にその場を後にした。